201 神のみぞ知る
◆ 自室 ◆
あれから、まずローレイの二人の様子を確認したら千代ちゃんが研究所にまだ残ってたからビックリ。てっきりご飯を食べるのに食堂にぶらりと出かけたものだと思ってたけど、千代ちゃんがマリちゃんに故郷で妖刀を作る際の金属の鍛え方を一生懸命教えてた。ただ、なんかイマイチナンデそんな事しなきゃいけないのかが理解出来てなかったみたいで、恐らく焼入れ、焼戻し、焼なまし、焼ならしにどんな効果があるのかわからなかったんでしょうね。私が慌ててリアルの方の検索機能で調べて、マリちゃんにその仕組みを教えてあげたよ……。そしたら目をキラッキラ輝かせて、これで金属が更に丈夫で長持ちするのか~~って研究に入ろうとしたから、マグナさんと私と千代ちゃんで寝室に強制連行したよ。今日は寝ろ。
バビロニクスに戻ってみたらどん太とおにーちゃんとティアちゃんが私が帰ってこないな~って心配してた。私もみんな無事に戻ってきたかなーって心配だったから、お互い様よ。ちなみにペルちゃんは騒ぎすぎて疲れたらしくて寝てた。自由だな最近。それと、明日はティアちゃんとマリちゃんに戦闘修練を積んで貰おうかなーと。おにーちゃんとか千代ちゃん、どん太と模擬戦をして『別タイプの強い相手との戦闘』を積んで貰おうかなって。
それで、きぬちゃん。きぬちゃんはレベル99を達成して、今はレベル上限解放クエストの上忍試験とやらをやっているらしいね。体術と投擲術は突破したけど忍術系が引っかかったらしくって、忍術系の修行を積み直すのに一旦戻ってきてた。忍者は真覚醒じゃなくてなんか特殊なクエストがあるんだねえ。
「……それにしても、親に捨てられた……かぁ~」
ん……。魔神降臨の書の内容を思い出して、またモヤッとしてきた。今回の魔神降臨の書の解読をして前から思っていたことが確信に変わった部分がいくつかあるけれど、今のメルティスとバビロンちゃんは……姉妹だ。最初の子が今のメルティス。ティスティスお姉ちゃま、バビロンちゃん、カレンちゃんはその後に生まれた。一番強い力を持って生まれたのがバビロンちゃんだったけど、バビロンちゃん達ではダメだったから……捨てた。でも、これが原因で予想外のことが起きてしまった。
バビロンちゃん達を魔界に捨ててモンスターの餌食にするつもりが、逆にモンスターを食い始めた。そして魔界の魔人達に勇気と力を与え、立ち上がり、その当時の魔界を統べていた魔神を滅ぼすまでに至ってしまった。これが恐らく大きな誤算。
当時の魔神が魔界の住人を率いてメルティスと戦争を起こすはずがないだろうから、メルティスと戦った魔神は間違いなくバビロンちゃん。詳細な時期は不明だけれど、魔界の勢力の名は千代ちゃんの時代では既に出てきているってことは、およそ300年以上前に戦争が起きているはず。
そして、ルテオラ。判明している情報を繋ぎ合わせるとわかるのが、今代メルティスは『ランス・オブ・ヴラドは恐ろしいモンスターが使っていたから禁止ですぅ』って禁呪に指定したのはバビロンちゃんから聞いた。これを使っている人物はまず間違いなくカヨコさんのお父様の『ヴラド』、そしてカーミラ・ヨハンナ・コーディリアこと『カヨコ』、更に『ワーロック』……。聖戦士認定されたワーロックを恐ろしいモンスターと呼ぶのはおかしいから、恐ろしいモンスターとはまず間違いなく『カヨコ』さんのこと。
何が言いたいか? つまりカヨコさんがカーミラとして生きていた時代には既に二代目メルティスは生まれていたってこと。代替わりまでは確定していないけどね。そしてこれは赫さんから聞いた情報だけど、カーミラは『女神殺しの逆十字』っていうスキルが使えたらしい。でも実際メルティスは死んでないし、魔界の神も誰も死んでない……魔神はバビロンちゃんが倒してるから違うはず。となると、だよ? 恐らくカーミラが殺した存在は二代目メルティスを支えていたはずの女神がいて、これを殺した……と、思われる。そしてバビロンちゃんはカヨコさんを『あの子』と呼んだということは、前から面識があるはず――――もしかしてカヨコさんは、天界と魔界の戦争に参加したことがあるのではないか?
私の仮説はこう。
1,後を継ぐ存在が何らかの事情で欲しくなり、4柱中1柱だけ選び、他を魔界に捨てた
2,捨てられた3柱がまさかの急成長、魔界をゴミ箱としか見ていなかったメルティスにとっては完全に予想外の出来事
3,そうこうしている間に、魔界を統べる神として新たにバビロンちゃんが魔神となった
4,放置状態だった魔界に面倒なものを捨てていた初代メルティスにとって、バビロンちゃんが魔界を統括しているのは非常に都合が悪くなった
5,メルティスは頭であるバビロンちゃんを潰せばこれまで通りに戻ると、バビロンちゃんを潰すことにした、これが天界と魔界の大戦争
6,またも予想外なことに初代メルティスが返り討ちにされ、緊急で二代目メルティスに座を譲る。恐らく初代はまだ生きている
7,バビロンちゃんの勢力がこの時急激に成長していないところを見るに、バビロンちゃん側も大打撃を受けた?
8,カヨコさんはこの戦争に参加し、この時に将来的に二代目を支えるはずだったサポート役の女神を殺した?
9,このカヨコさんの脅威を目の当たりにし、二代目がいくつかを禁呪として指定した?
10,恐らく、魔界側はこの戦争時に大量の機械系武装も導入している。これも『禁忌の技術』として二代目が嫌った?
11,これらのせいでサポート役が存在しない、初代は傷を癒やすのにどこかへ籠もっている為に二代目を導く存在が居ない。だから全く動かない
12,全く動かないことを信徒に察知され、マテオのような存在や腐敗した信徒、違法薬物や奴隷、聖楔の使用などが横行している
「…………こう考えると、凄くスッキリする」
どうだろう。これ、結構いい線行ってるんじゃないかなって……。いや、多分何かしら間違ってるだろうけど、半分ぐらいは当たってないかな?
「最初の子は昼……つまり太陽とかから連想される聖なる属性とかを得て生まれて来たから良かった。でも二人目から恐らく【日食】が始まったのかな、属性が反転してしまった。冥界の侵食のような、日食の始まりで生まれたのがティスティスお姉ちゃま、災いを連想させる皆既日食状態で生まれたのがバビロンちゃん、死を連想させる日食の終わりで生まれたのがカレンちゃん……一番強いのがバビロンちゃんなのにも納得が行く」
生まれたタイミングで強さが変わるなら、恐らくこれが答えだと思う。今現状出ている情報でわかるのは、これぐらいかな。
「それにしたって二代目よ。わからないから何もしないのか、あえて何もしてないのかわからないけれど、まさにバビロンちゃんとは真逆……。人を導くこともせず、何かを与えるでなく禁止ばかり、ほぼ何もしない。ほぼ何もやらない。生まれた瞬間から、何もかも逆だ……。腹が立つ…………」
なんだろう、ここまで徹底的に無能だと、逆に何か……何かあるんじゃないのかな。悍ましい考えだけど、例えば――――いや、流石にないか……。ん、もう2時近いんだ、寝ないと~~……あれ? メッセージ入ってる? 真弓からじゃん!
『あーちゃん! 明日、お出かけしませんこと? 返事は明日中に……昼までには欲しいですわね! どうかしら? お返事待ってますわ! 今日は、おやすみなさいまし!』
あ~そういえば明日っていうか今日日曜日だもんね。お出かけ……どこに行くとかせめて書こうよ真弓。どうせ急に『ジェット機をチャーター致しましたわ~~!!』とか言って、意外過ぎる場所に日帰りで遊びにいったりするんだよこの人。まあ、流石に前に『ジェット機はやめて。二度としないで』って言ったからそれはないか。だからってヘリとか用意してたらドリル毟る。
『行きたいね。何時でもいいよ、9時までには支度済ませておきます』
よし、送信…………ん? あれ、まだメッセージ下に続いてたん――――
『追記・太もも触らせてくださいまし!』
――――変態。
既出の情報をリンネの頭の中で都合よく解釈しただけなので、これが正解かどうかはまさに――――神のみぞ知る、です。