192 ご機嫌いかが?
◆ バビロニクス・ギルドルーム【スイート】 ◆
「んんんんん~~~~~っっっっ!!!!!!」
「ペルちゃんや、落ち着いてくれたまえ……」
「んぅぅうううううううううう~~~~~~~~っっっっっ!!!!!!!!!!」
――――キレています。ペルセウスお嬢様、ブチギレておられます……!
『わうぅ~ん (あれは仕方ないよ~)』
「ペルセウスさんが悪いですねっ!」
「ん、ぐ、ぐぅぅぅう!!! 許せません!! 許せませんわ! 何なんですのアレ!!!!」
え? 大穴に行かないのかって? 行った行った。帰ってくるのが早すぎるってカヨコさんに怒られたレベルよ。カヨコさんがティアラちゃんに英才教育中だったんだけど、まだ途中だっていうのに帰ってきちゃった。ティアラちゃんに『何してたの~??』って聞いたら『秘密にしないと朝食をピーマンの刑』という恐ろしい罰が待っているらしいから、絶対に言えないって。ちなみに私がネクロマンサーなのも言ったらピーマンだって。こらこらカヨコさん……。ピーマンは悪いお野菜じゃないよ……。
「原初の子鬼神・デラゴゴ!!! んぐううぅぅぅう許せませんわあああああ!!!!!」
ああ、何を許せないって叫んでるかって言うと、これだね。ペルちゃんは大穴に入って私に話を聞く前に『宝の山ですわーーーー!!!』ってアルテマセイバーを振って、周囲の鉱石宝石をごっそり掘りました。掘ったんです。あーあ。そしたら『カウント最大――』ってアナウンスが当然のように来て、目の前に湧きましたね。原初の子鬼神・デラゴゴ。ゴブリン族とは思えない、何ていうか小人族の英雄みたいな見た目をしてたよ。ちなみに『剛剣・天空裂波』ってスキルで私以外全員バフ剥がされて10Mダメージぐらい食らって死んでたね。私はキッチリ3秒後に『慈悲の刃』で殺されたよ。うん、強いわ原初の神モンスターシリーズ……。
「ペルちゃん。あの大穴はね、欲張って掘りすぎると警備員がどんどん強くなるんだよ……」
「そんなの、一言も書いてないじゃありませんのーーー!!! あんまりですわーーー!!!」
「普通、いっぱい鉱石と宝石がずらーっと並んでたら、ちょっとぐらい罠を警戒しますっ!」
「ぐぅぅぅ……!? リアちゃんの、言う通りかも、しれませんわ……!」
『わうぅ~ん (怪しかったよね)』
ほら、ペルちゃん。どん太にすら『怪しかったよね』って言われてるよ。だってあのどん太が待ても言わずにジッと何にも触れずに待機したんだよ? 待てが出来なかったのペルちゃんだけだよ。まあでも、ここまで悔しがるペルちゃんを見て、ちょっと――――ごめんね、ちょっとは嘘。凄く……愉快だわ……!!!
「もう一回行けるから。ね? 今度は掘りすぎないようにね?」
「リンネさんは、もうこれで2回行きましたのね……。従者もダメなのかしら?」
「いや? 行けるみたいだけど。カウントが【どん太:残り2回】ってなってたし」
「んっっ!! リンネさんが一緒じゃないから、やっぱり行きませんわっ! 他に何かありませんの?」
「宝物庫はソロ用だし、ひえひえこうざんとかもあるって言ってたけど、また雪か~……。あ、沼地の王があるじゃん」
『従者ログ:ティアラがレベル30になりました。第一段階の上限に達しました。上限解放をしましょう!』
いや待って? ティアラちゃんなんか、狩り行ってない? え? あ! しかも千代ちゃんタイプの上限解放型じゃん!! あわわ……。これ、しっかり親密度とか上げておかないとダメなやつ……。チェックしてみよう!
・どん太:不調 (ちょっと空腹)、バビロニクス・ギルドルーム、究極に親密
・オーレリア:不調 (不機嫌)、バビロニクス・ギルドルーム、究極に親密
・フリオニール:絶好調、ルテオラ・リュース周辺の雪原、究極に親密
・姫千代:良好、ルテオラ・リュース周辺の雪原、究極に親密
・マリアンヌ:絶好調、ローレイ・マグナの研究所、この上なく敬愛
・ティアラ :興奮、リュース周辺の雪原、だいすき!
だいすき――――だいすき…………!? だいすき…………。え、だいすき…………?! これ私とティアラちゃんの好感度だよね? 好きとか普通とか通り越してだいすきなの? え、ええ……? あ。それよりどん太が空腹で、リアちゃんが実はこっそり不機嫌だわ。一回死んじゃったしなぁ~。
「ペルちゃん、ちょっとリュース側のギルドハウスで休憩しようよ。多分赫さん達とかは自力到達したいだろうから転移しては来ないと思うし。次のことをゆっくり考えよう」
「え? ええ。そうしましょうか!」
「リ~アちゃんっ! 広い場所で思いっきりにゃ術使って、ストレス発散でもする?」
「……しますっ!! アレは楽しいです!」
「そっかそっか。ほれ、どん太。千代ちゃんにはご飯貰ったの内緒にするんだぞっ」
『わふっ!? わうっ!!』
不調な従者のコンディション管理とかもしっかりしないとね~……。これからはちょくちょく見ておかないと。まあ、リアちゃんとかはがっつり尻尾がゆらゆらしてイライラしてるのわかってたし、どん太はお耳がしょぼーんとしてくるとお腹減ってる合図だからわかりやすい組だけど。他の3人……いや、4人になったか……特におにーちゃんとか調子が悪いのとか隠して来そうだしね。
「ま、とりあえず移動しようよ。どん太、お肉落とさないようにするんだよ」
『ぅ―――― (あぶない……落としそうだった……)』
ああ、お返事しようとしたら落としちゃうもんね。落とさないだけ偉いし賢いよ、どん太……!!
◆ ◆ ◆
「リンネ様! モンスターをやっつけてきた!」
あ、嬉しそう。槍もってぴょんぴょんしないの、危ないから。可愛いなぁこの子……。にっこにこしておるよ……。で~? 狩りは、カヨコさんにでも教わったのかな~?
『私とは全く異なる戦闘スタイルですね。魔術がメインである私に対して、ティアラは――』
「ティアです!」
『…………ティアは吸血槍に自分の血を吸わせ、様々な形に吸血槍を変形させて臨機応変に攻撃したり、大量の槍を飛ばしたりして攻撃する、いわば物理的な攻撃に優れていますね。そしてなによりも身体能力……空中に吸血槍で血の壁を生成し、高速で空中を走ることさえ可能です』
「ほえ~~凄い…………。カヨコさんの英才教育の賜だあ~」
『いえ。ティアラ……ティアは、これを無意識に。何も教えずに使いこなしました。私は多くの人間に武術や魔術を教えてきましたが、天才だと思ったのは片手で数える程しか居ません。この子は間違いなく、その数えるほどの天才の一人です』
カヨコさんに天才って称賛される、ティアラちゃん、イズ…………ジーニアス……??? オーウ……。いや、暴走状態の時におにーちゃんに結構なダメージを与える攻撃をしてくる辺りから『あ、この子ヤバイな』っては思ってたけど、やっぱりヤバかったかーー!!
「いただ――――て、手に入れた! 手に入れたこの、槍のおかげ! ティアは、まだまだだよ? カヨコ様……ピーマンは許して……?」
『大丈夫ですよ。ここに居る人には話しても大丈夫ですから。他の人には駄目ですよ?』
「はいっっ!!」
ああ、その槍の入手先がピーマンか。後はカーミラ呼びがピーマンで、私のネクロマンサーもピーマンかな? 他にもピーマンはあるのかな。奴隷時代の話とか、メルティス関連の話もピーマンっぽいなあ~。ティアラちゃん、頑張ってピーマン回避するんだよ……。
「ピーマンは美味しゅう御座います」
「うっ……千代様は、大人だ……」
「食いしん坊なだけね。何でも食べるんだよ千代ちゃんは」
「こ、此方にも、苦手な食べ物ぐらいあります!!!」
「例えば?」
「……………………」
『(*´∀`*)…………?』
あ、ない。
『(´゜д゜`)!?』
「困り、ました……。思い当たりませぬ…………」
「だろうね!?」
「ティアも、好き嫌いがなくなるように頑張る。リンネはだいすき!」
「…………!!!!」
『リンネさん。リンネさん、やめてください』
聞いた!? 聞きましたカヨコさん!? だいすき! だいすき!!
「――――わたくしもだいすきですわ~~~~…………」
遠くからもなんかラブコールが聞こえるね? ペルちゃんは今、このギルドルームの家具の配置に妙にこだわりを発揮し始めて、大きな暖炉のある談話室で皆集まってお喋りができるように家具の位置調整をしてるんだよね。おにーちゃん達が使ってた元々の家具に敬意を払いつつ、自分たちも混ぜてもらってるよ感を出したいらしい。謎。
「んっ! でもどうして、私のことがそんなにだいすきなのかな?」
「あ…………」
ピーマンか……! ピーマン案件だったか!!! わかりやすく顔に出るねえ!?
『大丈夫ですよ』
「リンネ様は、ティアが楔で暴れてるって知って、迷わず助ける方法を考えてくれたって。皆で協力して、しき……? お仕事を与えたって聞いた! リンネ様のお陰で、ティアは生きてるんだって思ったら、だいすきになった!」
「そっかぁ~~……!!」
「他にもいっぱいあるの! ご飯も貰ったし、槍も、服も、お勉強もさせてくれてる! だから、だいすき!」
「此方も心の底からお慕い申しております」
『(*´∀`*)b』
「お死体…………? 死体は、喋らないと思う…………」
あ、ティアちゃん。お慕いのしたいはね、死体じゃないんだなぁ~……。千代ちゃんは私を心の底から愛してるって――――えええええええええええええええ!!!!!!!!! この子もサラッと愛の告白してくるなぁ!? え、今気がついた瞬間心臓弾け跳ぶかと思ったねえ!? でも、大丈夫! カヨコさんを見習って私はね、ポーカーフェイスを心がけるようにしたんだよ。フッフッフ…………。
『口の端が。にっこりしておりますよ、リンネさん』
「ん、ぐっ……ダ、ダメか……!! だって、嬉しいんだもん!!!」
フッ…………! ダメだったよ!!
「笑ってる方がすき!」
「ええ。笑顔のリンネ殿が一番好きですね」
『(*´ω`*)』
『ほら。我慢はするものではありませんよ』
「ティアラちゃん!」
「ティアです!」
ティア呼びさせようとしてくるじゃん! じゃあ呼んじゃう!
「じゃあ~ティアちゃん! カヨコさんのことは? 好き? 大好き?」
「だいすきです!!!」
『………………ッ』
「カヨコさ~ん? 急に後ろを向いてどうしたんですか~~~?」
『とても、見せられる顔ではないので……』
「にっこりしたカヨコ様が、いちばんすきです!」
『~~~~…………ッッッ! ッ!!!』
「カヨコさん、カヨコさん、やめてください」
「ふ、ふふ……!」
『(;´∀`)!』
いやぁ~もう、心が、心が温かくなる……。雪国でこんなに温まれるイベントがあるとは……。来て良かった、何もかもがタイミングが良かった。いやぁ、本当に。とっても……! あ、そうだ! 上限解放!
「そうだ! 成長の壁みたいなのに当たった感覚がなかった?」
「んう? あ! なんだろう、途中までは力がつく感じ? がしてた! でも、しなくなった……かも?」
あ~……。これ、どうやって説明しようかな? うーーーん…………よしっ! アドリブ!!
「ティアちゃんは暴走してぼろぼろになっちゃって、それを私が復活させて、新しい命を得たんだけど、暴走のせいでまた体が一から作り直しになっちゃったの。一気に強くなると体が危ないから、制限がかけられてるの!」
「あ…………ま、また、暴走、する……?」
「しないしない! そうならないように、段階を決めて制御してるの」
『子供の時、一気に体が大きくなって体が痛かったことは?』
「ありますっ!!」
『それが大人の体で起きたら、とてもとても痛く苦しいでしょう。そうならないように、リンネさんが守ってくれているのよ』
「わぁぁぁ~~~!! だいすきですっ!!!」
ん゛っ゛……!!! カヨコさん、フォローありがとうございます……!!
「そ、それで! その壁を今、1枚外そうとしてるってこと! 大丈夫かな? わかったかな?」
「わかった! あ……わかりました!」
「ん! えらい!」
「えっへ……」
『「…………」』
『Σ(´∀`;)!?』
撫でない。そっちのお姉ちゃん組は撫でない。知らないフリをする。さあ、それよりティアちゃんが納得したところで、上限解放タイムだ!
「じゃあ、始めるよ?」
「はい!」
よ~し、んで? 素材は? あ~…………かなり下位の証系アイテム数点と、☆3魔晶石か~。☆3ってなると、逆に今手に入れる相手が居ないから枯渇してるかも――――あ、これ☆5魔晶石とかを砕いてダウングレードもできるの!? ☆5が1個から、☆4が2個に……。☆4が1個から、☆3が2個に……。え、ありがとうございます。じゃあ逆も――――逆は10個で1個になるの!? っく~~…………!! ピーマン!!!!!
『【上限解放:ティアラ・1】をクリアしました』
『ティアラの状態をチェック中です…………』
『信頼度:★★★◆』
┗極秘情報【畑】を教えて貰った
『好感度:★★★◆』
┗【だいすき!】を達成
『成長度:★★★◆』
┗【上位モンスターの血を摂取】【吸血鬼用武器所持】【上位の吸血鬼の存在を知る】を達成
『総合評価:SSS+』
『ティアラのクラスが【★★ブラッディア】にランクアップしました』
『ティアラが一部の力を取り戻しました』
『ティアラがスキル【反属性化】を取得しました』
『ティアラの複数のスキルが強化されました』
『次の上限はレベル75です』
おお……。おお? おお! なんか色々と詳しく設定されてたんだ! これで次は千代ちゃんと同じレベル75での開放かー……。これ、絶対プレイヤー側の従者になった時のレベル設定と、モンスター側だった時のレベル設定違うよね。そんな気がするんだけど……だって千代ちゃんとかおにーちゃんとか、生前のレベルより遥かに低いはずなのに生前より強い気がするもん。まあ装備のおかげってのもあるかもだけど。
「なんだか力が、元気になった!」
「うんうん、これでまた上を目指して頑張れるようになったんだよ~。今度は私達と一緒に、モンスターをやっつけに行こうか!」
「はい! 今なら、何でもやっつけれる気が――――カヨコ様とリンネ様と千代さまと鎧さんは無理です! ティアは、嘘を付きました」
「戦う相手はちゃんと見ないとね。がむしゃらに戦って勝てるのは、相手が弱い時だけ! 強い相手には、いっぱい考えてあの手この手で戦うの!」
「ん…………頑張る!」
『(*´ω`*)』
「元よりこの地の守護をしていたのですから、化け物退治は十八番でしょう。これからに期待が持てまする」
そうだね~……。ん、じゃあ~……どうしよう? 沼地の王とか、行こうかなぁ?
「ん……! そうだ、ちょっとごめん! ペルちゃーーん! いつまでやってんのー! 沼地の王いかなーい?!」
「――――行きますわ~~~!!!!」
『沼地の王? まさか、ジードのカエルですか? まだ生きていたのですか?』
「あ、そういえばカヨコさん達が倒したんだっけ。サリーちゃんから聞いたんですよ~」
『なるほど。あれは……一度殺したぐらいじゃ気が済みませんね。私も行きますし、呼べば皆来るでしょう。あれには恨みがありますから』
「え」
え…………。こ、これはまさか……。今いる魔神兵さん、全員……集合!? あ、つくねちゃんもインしてるから、つくねちゃんも呼ぼ!! お昼寝さん達は――――なんか行ってる! うーん、一応声掛けてみよっ!! おおおーーレイドだぁ…………!!!