191 認知
◆ リュース・ギルドハウス ◆
「あーちゃん! さっきの屋敷の報酬はどうしますの?」
「あーーー…………」
ごめんねペルちゃん。今どうしても何も考えたくない、心が清らか過ぎる状態なんだ。不死属性に浄化系は効く。絶対的な特効なんだよ……。
「あーちゃん? リンネは、リンネじゃないの?」
「ああ~……。私達はね、違う世界を行き来している別世界の住人なんだよ。その世界では違う名前なの」
「…………? むず、かしい……」
「表の顔はカヨコさん。本当の名前はカーミラ様と同じだよ!」
「!! うん、わかった!」
「ぐぅぅぅぅ~~~~~……あーちゃんにまた新しい女の子が…………」
「ティアは、ティアラ。よろしくお願いします」
「はうっ……? よ、よろしくお願いしますわ……? ペルセウスですの」
「ペルセウス様も、お姫様みたい。みんなお姫様みたいで、綺麗!」
見てこの満面の笑み。顔面が広域浄化魔法なんよ。しかも段々と効き目が上がってくるタイプで、私には常にランク4の消滅が発生するレベルまで到達して来てる。もう危うい。
「あ、あら? そ、そう? そうかしら」
「うん! 綺麗! ぐるぐるの髪が凄く可愛い! でも、そんなに肩を出していたら寒いと思う。胸も、寒そう」
「自分の魅力を他者に見せつける、自慢というものですわ! プライドの為に、多少の暑い寒いは我慢することも必要ですのよ! それに大きくて綺麗なら、相手の目が奪われるでしょう? 今のように。戦いでも有利ですのよ」
「なるほど。じゃあ、ティアも出した方がいい?」
「だめだめ! 出さなくていいの、ティアちゃんはいいの!」
「そう? でも、ティアもペルセウス様ぐらい、大きいと思う。有利になる!」
ペールーちゃーん…………! ティアちゃんが変なことを覚えちゃったでしょうが~~……!!
『ティアラは激しく動き回りますから、ずれたり暴れたりしては戦いにくいでしょう。そのままにしたほうがいいのですよ』
「はい。わかりました、カヨコ様!」
ナイスフォローですカヨコさん! 良かった、これでティアラちゃんの意外に大きい胸部が大衆に晒されることはなくなった。そのままの君でいて……。
「ほっ…………。じゃあティアラちゃん、次の子を――――」
「あーちゃん……報酬……」
「んん~~~……!! もらっといてっ!!」
「仕方ありませんわね~。こちらで欲しい物を何点か抜いて、後はリンネさんに差し上げますわね?」
「いっぱい抜いといて! ありがとう!」
「どういたしまして、んもぅ……」
ごめんねペルちゃん、うちの従者の顔合わせを! したくって!!
「あっ! おかえりなさい!」
「おかえりなさい、リンネ殿。その様子では、打ち解けられたようですね」
「ただいまーリアちゃん千代ちゃん~。うんうん、なんとか~」
「……!! 可愛い! はじめまして、ティアは、ティアラです。よろしくお願いします」
「はいっ! リアは、オーレリアです! リアって呼んでくださいねっ!」
「姫千代です。千代と呼んでください」
「リアちゃんに、千代様。リアちゃんは、いくつ? ティアは、多分21!」
「た、多分……? 私は――――…………9さ」
「14歳」
「あっ!?」
さあ、悪い子代表のリアちゃんと、腹ペコ代表の千代ちゃん……。早速リアちゃんは年齢詐称から来ましたね。そしてティアラちゃん、多分21歳なのか~……。そっか、奴隷になった時の年齢がわからないから、とりあえず暫定21歳ってことなのかな。
「14歳にしては小さいと思う! ちゃんと、食べているの? しっかり食べないと、大きくなれないと聞いたことがある」
「お、大きくならないからいいんですっ!」
「お肉だけじゃ大きくなれないって前に怒られた……。お野菜もきちんと食べるべきだって…………でも、ピーマンは苦手」
「あっ!! 私もピーマン苦手です! お野菜は美味しくないから食べなくていいんです!」
あ、こら! やっぱりお野菜嫌い仲間を増やそうとしてきた! んも~~~!!!! 悪い子なんだからリアちゃんは~~!!!
「ピーマン以外は、ほとんど好きだよ?」
「えっ」
「にんじんさんも、たまねぎさんも、レタスさんもキャベツさんも、トマトさんも大好き!」
「えっっっっ…………」
「14歳なんだから、お野菜の好き嫌いは極力なくすべきだと思う。ちょっとずつ、食べられるのを増やそう?」
「うぅぅぅ…………!!」
「リア殿がやられましたね」
「リアちゃんが負けてる……」
リアちゃんが負けてる……ふ、ふふ……。14歳なんだから、だって……!! いやーそうだよね、リアちゃんって9歳児ぐらいの見た目してるけど、中身はバリバリ14歳だからね。お野菜の好き嫌いは出来るだけなくすべきだよねー!!
「リア殿、これからは好き嫌いを減らすことに挑戦するべきでは?」
「ちよちよは食べる量を減らすことに挑戦すべきです!!」
「うぐっ……!?」
「食べ過ぎると、厳しい雪の日に食料がなくなってしまうから、我慢するべきだと思う」
「ほら、千代ちゃん! 我慢するべきだって!」
「ぜ、善処……致しまする……」
『ふ、ふふ……』
全員の痛い所を的確にグサッと刺してくるじゃん……。うちのパーティ、食に関して問題抱えてる子多すぎね? あ、研究に没頭して食べない悪い子もいるんだったわ。後で叱ってもらお。
『わうっ! わう? (元気になった!?)』
「わあ…………。大きい……!!!」
お。どん太が暖炉の前からとことここっちに来たわ。狼が暖炉で暖を取るとは……。失われた野生レベル2ぐらいになったのを感じる……!
「この子はね、どん太っていうの。どん臭くて太っちょだからどん太って名前だったんだけど、今では機敏で引き締まった体になったから、ちょーっと名前と違う体型になっちゃったね~」
『ぐぅぅ~~~』
「まさか私にボロ負けしたのを忘れては居ないだろうね、どん太くん」
『ぎゅるぅぅぅぅ~~~…………! (負けちゃったの!)』
「負けちゃったんだ、こんなに大きいのに……」
「どん太、この子はティアラちゃん。新しいお友達だから、仲良くしてね?」
『わうっ!! (よろしくね! よろしくたっち!)』
「わあ……?! 足の裏、ぷにぷにしてる……。よろしくね、食べないでね」
『わうぅん!? (食べないよ!?)』
いや、確かに……このサイズの狼なら、まるっと一噛みでバリバリモシャモシャ食べられちゃいそうだけど、大丈夫だよ!? 食べないから! 安心してね!?
『(*´∀`*)ノ』
「あ。はじめまして、ティアは、ティアラです」
『(*´∀`*)b』
「んぅ……?」
『(;´∀`)!』
「んっ? うんっ……?」
「その人はね、喋らないんだ。フリオニールっていう、昔のルテオラを解放した伝説の英雄なんだよ」
「英雄……!! 格好いい!!! 絵本でたくさん見た!」
『(*´∀`*)』
やっぱりおにーちゃんには困惑したか! そうだよね、おにーちゃん喋らないから困惑するよね。でも、英雄イコール格好いいって結びつきはするんだ。絵本、ああ~もしかして、カヨコさんの館にあった本とか? え、でもカヨコさんは絵本とか置いてなさそうだし、あれ? じゃあどこで?
「じょ……じょけ……なんだったかな……? なんたらの、英雄コルダ王女が、憎しみに囚われた、可哀想な魔術師を倒して、平和になるお話! でも、さいごはコルダ王女も倒れてしまうんだ……。悲しいお話だけど、でも! すっごく、勇気があって、格好いい王女様だった! ティアも、そういうのに憧れて……」
『(´・ω・`)……』
『なるほど……。確かに、ええ、ありましたね。その本が……女傑英雄伝と、純白の黒姫コルダを読んだのですか』
「そう! それだ、あ、それです! カーー……ヨコ様!」
この子そのうち絶対カヨコさんのことカーミラ様って呼ぶわ。まあまあ、もうじきカヨコもやめにしようかと思ってるって言ってたし、いずれ呼んでも差し支えなくなるから大丈夫か。
それにしても、まさか本当にカヨコさんがその絵本を持ってるとは……。あ、そっか……そういえばカヨコさんが直々にコルダ王女を鍛えたんだっけ……。そりゃ、持ってても不思議ではない、かぁ。
『この人もまた、人々を苦しめた悪い王様を討ち倒し、ルテオラに平和を取り戻した英雄なのですよ。しかしその代償に沢山のものを失いましたが……』
「英雄は、皆……悲しい最後ばっかりだ……。良いことをしたんだから、幸せになって欲しい」
『(*´∀`*)……!』
『今はその代償を取り戻し始めていますよ。きっと、幸せな毎日でしょう。ね? リーダー』
『(*´∀`*)b』
「これね、そうだよってエモーションね。顔に見えるでしょ?」
「……確かに! じゃあ、これは親指を立てているってこと?」
「そうそう。ちょっとずつわかるようになるよ」
「ちょっとずつ、覚える!」
「そうだね。ちょっとずつ覚えるさ」
お、マリちゃんも出てきたわ。研究熱心でご飯食べるの忘れるような悪い子! まあでも最初以降はない……はず。なかったよね?
「はじめまして。マリアンヌ、だ。よろしくティアラちゃん」
「はじめまして! よろしくおねがいします。ティアラです」
「…………他に楔を打たれているような場所はないね。他にもあったらどうしようかと、実は心配していたんだ」
「くさび?」
「ティアちゃんに刺さってた、痛いやつだよ」
「!!! アレは、皆刺された。作物の出来が悪い、バツだって。クチベラシがみんなに刺した!」
「クチベラシ……。口減らし、読んで字の如くか。働き手を減らして何の意味があるんだ……?」
『ある程度知恵を付けた奴隷を、爆弾に変えるためですよ』
「ばく…………だん…………?」
胸糞悪い話になっちゃった……。いや、でも、気になってたんだよね……隷属の聖楔。嫌だからって耳を塞いだらダメな内容だと思う。これは、知っておかないと。
『ある程度知恵を付けた奴隷は、劣悪な環境からの脱出を考え始めます。もしくは育てた作物を自分の腹に入れる、など。逃げ出した奴隷は追い回せば勝手に遠くへ逃げ、作物を食べた……腹を膨れさせた奴隷には罪悪感を抱かせる。そして罪悪感から逃げ出すことを選択し、また奴隷が遠くへと逃げる。そして遠くへ逃げた奴隷は敵対勢力に奴隷生活のことを喋ろうとしたり、メルティスを侮辱するような発言を聞いたら――――後は先程の……知っての通りの現象が起きるということです』
「しかし、ある程度知恵を付けた奴隷ならばより厳重に取り締まるなどすれば、逆に農作のノウハウがついて作業効率が上がるのではないか?」
「集団脱走を防ぐため、ですか」
『そう。知恵を付けた奴隷が居なくなれば、後に残るのは逃げ出す勇気がないか、知恵の足りない奴隷。従順な奴隷が残る。言い方が悪いですが、不良品の選別にも使えるのですよ。しかもこれは一度刺しておけば後は少数の監視があればいい。楽じゃありませんか』
「…………奴隷が、足りなくなるだろう」
「異端審問官……。賊に見せかけた、襲撃……?」
『奴隷となる人間が足りなくなったのなら、作れば良い。それが世界各所に存在するメルティス教会の異端審問官の務め。そして異端狩りと称しての襲撃、強奪。これで汎ゆる人間から財を毟り取れる……それも、他国の国民や貴族から。どうです? 上手く出来ているでしょう』
吐きそう。気持ち悪い。なんでこんなに腐敗してるの? どうしてこれをメルティスは許せるの? 邪悪過ぎる。反吐が出る。
『私は数百年前に気になったことがあって、調べたのですが……。メルティスが代替わりしたのではないかという結論に至りました。しかし今代のメルティスが何故ここまで怠惰なのか、何もしないのか、腐敗を許している、放置しているのか……それは全く』
「単純に働きたくないだけじゃ?」
『それを先代が許すでしょうか? 私がその立場で、全く働かない二代目の姿を見たらそれこそ…………そうするでしょう? それに、先代もわざわざ自らの築き上げた教えを滅ぼすようなことはしたくないはず。代替わり以外、全ては憶測の域を出ない内容ですが……』
なんだろう、向こうの勢力のことなんて今まで全然考えたこともなかったけど、確かに凄く変だ。何が起きているんだろう……。まあ、調べて事情がわかったとしても滅ぼすのには変わりないんだけど、内容が知りたいには知りたい。よくわかんないけど怠惰なメルティスを滅ぼしましたー、ちゃんちゃん。ではどうにも面白くない。滅ぼすなら全てを知った上で滅ぼしたい。その方がスッキリするから。
「…………む、難しい話で、ついていけない」
「あ! ご、ごめんね! ティアラちゃんに楔を刺した悪い連中のトップが、何を考えているのかなって話をしてたんだよ」
「そういえば、その畑とやらでは何を作っていたんだい? 食べ物なのは間違いないようだが」
「芋、芋ばっかりだった。蒸して食べると美味しいってことは、こっちに来て初めて知ったけど」
「芋、か……。確かに腹は満たされるものだな」
ん~……。やっぱ穀物系とかそういうのを育ててたのかな。まあ、食料としては大量に出来て良いかもしれないけど。
「でも不思議だった。クチベラシ達は芋じゃなくて葉っぱのほうが好きだった。摘んで、乾かす術でかんそう? させて。くるくるって巻いて、火をつけると――――みんなおかしくなったみたいに笑い始めるんだ」
――――いや、最悪だわそれ。どこまで…………腐敗してんのよ…………。
『…………最悪ですね。魔神教では、絶対に育ててはいけないとされている作物です』
「天国芋か…………」
『こちらでは狂芋と呼ばれるものです。芋の部分にはわずかしか効能がありませんが、葉の方は……』
「天にも昇れるほどだと聞くね。我の生きていた時代でも、一部の貴族が隠れて使っていたさ」
「芋は、食べると少し幸せな気分になる。そっちは、大丈夫だと思う、けど……」
『いいえ。芋の方にも僅かな効能があるせいで、その僅かな効能を求め始めて徐々に依存が強まり、最後には狂ったように芋を食べ続けるようになる、それが狂芋です。正常な判断力を失い、非常に攻撃的になる……。まさか、そんな大規模に作られているとは……』
もうあの国、滅ぼすしかないわ。皆、狂ってるよ、メルティス側……。でも、良かった。魔神教ではご禁制なんだ。バビロンちゃんはそれはダメだって、しっかり禁止しててくれたんだ……。良かったぁ~……。
「あーーちゃーーーん!!! 分配終わりましたのー! 大穴、行きますわよー!!」
「…………良かった。真弓が真弓で……」
「え? もしかしてそれ悪口ですの?」
「ううん、すっごい褒めてる! 行こっか、ペルちゃん!」
「行きますわよーー!!」
良かった、真弓がこの最悪の空気をぶっ壊してくれて。今すぐあの国、来週の金曜日の宣戦布告を受けずに滅ぼすところだったわ。危ない危ない……。私の単独行動が原因で、バビロン側全体の不利に繋がるかもしれないんだから、気をつけないと。あの…………なんとかさんって人みたいにならないようにしないとね!