188 過去の館・1
◆ リュース・吸血鬼の館前 ◆
おにーちゃん達が昔拠点として使っていた屋敷は当然荒らされた様子もなく当時のまま残ってた。おにーちゃん達っていろんな人がごちゃーっと集まってたイメージで、グスタフさんとかは特に荒くれってイメージが強いけども、どの部屋も綺麗にされててキッチリ物が整ってた。シーツにシワすらないよ。
『素晴らしいですね。ギルドホーム化というのですか? 目を離して暫くすれば元あった綺麗な状態に戻る。まるで家事妖精が住んでいるかのようですね』
「家事妖精? ですか?」
『ええ。家の主が目を離した隙に、壊れてしまった家具や食器を復元したり、ベッドメイクをしてくれたり、掃除に、衣類の修繕もしてくれる子もいますか。どんな子なのか気になるからと探しても、絶対に見つけられない子達なのですよ』
「へえ~~……!! じゃあ、いつもありがとうございますってお菓子を置いてったら、お礼になりますかね?」
『…………ふふっ……ふっ……。まるでと言ったでしょう? いるかどうかは、わかりませんよ?』
「あ…………」
カヨコさんとお話してると、変なこととか言った時にツッコまれるから恥ずかしくなっちゃうねえ!? も、もう~……。でも、そんな素敵な妖精さんが居るなら、是非お礼がしたくなるよね。誰も使ってない小さい部屋に、こっそりお菓子と書き置きを残していったら……食べてくれる子が居るかもしれないじゃんっ! あ、どん太と千代ちゃんに盗み食いしないように言っておかないと。
『さて、準備が出来たら行きましょう……。楽しみですね』
「あ、はいっ! わかりました!」
んっ!! とりあえずこの拠点でゆっくりするのは、また今度にしようね! お菓子と手紙を置いてっと……よし、行くぞーっ!!
◆ ◆ ◆
『……食べて良いのかな?』
『……良いみたい!』
『美味しそう!』
◆ ◆ ◆
さーて……? やって来ましたよ吸血鬼の館……。で、中にお邪魔する前に……階段を上がる手前の左手に、ダンジョンへ続く青白いポータルがありますねえ……。
【吸血鬼の館】(制限レベル100~) (推奨レベル120~)
・制限:レベル100以上で入場可能です
・制限:NPCにレベル制限は適用されません
・最大8人までパーティ入場可能
・特定条件にて、特定要素の変動あり
・現在【メモリアルダンジョン】
・ペナルティ:【館の呪い】覚醒スキル使用不可
・ペナルティ:【館の呪い】火・聖属性攻撃無効
・ペナルティ:【館の呪い】召喚系スキル使用不可
┗該当:【ばびろんぱんち♡】【死体安置所系】【魔神兵召喚】【非常食バットン】【下僕ボス猫ルナ】【サモン・ヴラド】
・毎週1度まで挑戦が可能 (毎週水曜日5:59リセット)
・30秒のカウントダウン後、ポータル内のメンバーがダンジョン内に転送されます
あ、ここでもネタバレされるかあ! でもここでネタバレされてもカヨコさんにブラッディアの話を聞くの間に合わなかっただろうなぁ~……。逆にあのタイミングでネタバレされて、良かったのかもしれない。千代ちゃん、ナイスフォール……!!! きっと千代ちゃんの太ももがずっしり――
「リンネ殿、此方が何か……」
「イ、イイエー、ナンデモー?」
「言われた通り、お菓子は食べておりませぬっ! んもうっ、むぅぅ~~……!!」
「じゃあこれあげる」
『わうっ!! (僕も欲しい!!)』
「あ!! 私も欲しいです! あ~~んっ♪」
「あ、あれ?」
どうしてだ、急に従者にクッキーをパクパクさせる餌付け会みたいなのが開催されたんだけど。なんでなんだ。ほらリアちゃん、あ~ん……。どん太はこう、ざばーっと入れるか……。幸せそうな表情しよってからに。
『(*´∀`*)』
「おにーちゃんもなのね……。はい」
「…………あっ」
「はい、マリちゃん」
「べ、別に………………あ~ん…………」
おにーちゃんも流れに乗って来たよ……。あげてないのマリちゃんだけだなーって見たら、断りきれずに顔赤くしながらパクパク会に参加して来たね。うん、正直で良いと思う。
「あ~~~~んっっ!! あーちゃん! あ~~~~んっっっ!!!!」
「…………ほれ」
「んん~~~~~~~~♡」
一番正直なお嬢様が居たわ。うんうん、ペルちゃんさっきこのクッキー『手が、手が止まりませんわ! 大変ですわ!』って食べてたもんね。欲しいか、欲しがりさんめ――――?!
『…………』
「カヨコさん?」
『カヨコちゃんは、あ~んをしておりますが?』
「カヨコちゃん!?」
カ、カヨコさん!? ちゃ、ちゃん!? あ、あっ……あの? こういうのを貰いに来るタイプとは、思わなかった……!!! くぅ、どうしよう。あげていいのか、本当に?! 本当にそんな不敬なことをして、いいんですか……?! ど、どうぞ!!
『…………』
「カヨコ、ちゃん……!?」
違うよーーーーこの人首筋凝視してるよーーーー欲しがってるのが違うものだよーーーー!!! あ、食べた。誂われている!! 手玉に取られている!!
『ふふっ……オイシイですね』
「そういうの、心臓に良くないです……!」
『そうですか? たまには幼心を出してみるのもいいでしょう?』
「これが、大人……ですのね……っ!」
「お姉ちゃんタジタジでしたね!」
「ぐいっと来られる側の気持ちが少しわかっただろう」
『(*´∀`*)』
なんか後ろから言われたい放題してる気がするー! いや、でもカヨコさんのお茶目なところがいっぱい見られて、今回はなんだかすっごく得した気分だね! よし、じゃあ~~……。行くかー! ブラッディアちゃんに会いに!
「よ、よーし! じゃあ行くよー!」
『30秒後にダンジョンに転送されます。パーティメンバーはポータル内にて待機してください』
『これが……。なるほど、楽しみですね……』
ウンウンソウデスネー!! 私は今幼心を出してきたカヨコちゃんに楽しまれたばっかりですけどね!! カヨコさん、これからもちょいちょいカヨコちゃんを出してくるんだろうか……。耐えきれるだろうか、私の心臓は……。
『転送』
◆ 吸血鬼の館・過去 ◆
――――『この館には、吸血鬼が住んでいる』…………リュースの街でその情報を手にした君たちは、吸血鬼が住む館へと足を踏み入れた。
館の中には豪華な調度品の数々、名のある画家達によって描かれたであろう名画、それらを照らし出す消えない炎が揺らめく魔導具の照明。どれもこれも最上級の品ばかりだ。
君たちは、この調度品や名画を不当な財産だと判断し持ち帰っても構わないし、館の主が手に入れた正当な財産だと判断し、館の主を称賛しても構わない。
だが、忘れてはならない。君たちはこの館の主に招かれていない侵入者であるということを。吸血鬼は館に侵入した招かれざる客に容赦はしないだろう。
◆ ◆ ◆
…………なるほどね。この導入じゃ、誰だって勘違いするわ。
よく読んだらわかるよこれ。館の主と吸血鬼がイコールじゃないんだもん、これ。館の主って部分がカヨコさんで、吸血鬼って部分がブラッディアちゃんなんだ。そしてブラッディアちゃんはカーミラって名乗ってる、と。
つまりこの屋敷の財産を幾ら褒め称えても、相手が本来の持ち主じゃないから意味ないんだわ。これは酷いミスリードだなぁ…………。
『ちなみに、私が不在の間にここに住み着いた吸血鬼は数人います。中でもブラッディアが一番強かったでしょうか?』
「…………へ、へえ~」
数人居るのに、眷属っていうか下僕っていうか、血を吸って召喚出来るようにしたのはブラッディアちゃんだけってことは…………。ヴラドさんは別口かな。多分そう、だね。ブラッディアちゃんより弱いのしか居なかったってことは、多分血を吸う価値もないって判断されてるだろうし。名前を冠した魔術があるぐらいだから、ヴラドさんは相当強かったはず……なんだよね。
『あの時は、二階の寝室で眠っていたでしょうか。ああ、そうだわ……。この当時の館が再現されているのなら、地下室に面白い物があるはずです。先に取りに行きましょうか』
「え、いいんですか?」
『実験も兼ねていますから。もし完全に再現されているのなら、面白いですよこれは』
「確かに、メモリアルダンジョンということはその当時……。過去の財宝がそのままあるかもしれませんわね」
あ、あれ? ブラッディアちゃんより先にそっちですか? いやまあ、ブラッディアちゃんを倒したら強制退場食らって終わりーになりそうですけど……。ん? なんだろうあの床、キラッと光ったような?
『この床です』
「このキラッと光ったところですか?」
『え? いえ、光っていませんが』
「…………あっ」
あ!! これ、バビロンちゃんのフィギュアの効果かーーーー!!!! 隠しエリアの発見とか、そんなことが書いてた気がする! パンツ見えなかったショックのほうが大きくて効果よくみてなかったわ。
『この床の紋章を、特定のものだけ踏んで…………』
「全部メルティス側の紋章じゃないですか!?」
『ええ、そうです。文字通り死ぬほど嫌いなので。最後に、血を垂らせば』
「おお……!?」
『隠された領域へと続くポータルが開きました』
『開くという単純な仕組みです』
いや全然単純じゃないです。
『この転移陣に乗れば、地下宝物庫に行くことが出来ますよ…………。申し訳ないのですが、お見せしたくないものが御座いますので。リンネさんだけ』
「あら、う~ん……。仕方ないですわね……」
「その間、こちらは隠れて待っていようか。ステルスモジュールを使おう」
「ん、すぐ戻ると思うから。行ってくるね!」
そっかそっか、見せたくないものもあるか~……。ん? そういえばカヨコさんってそういえばテレポート系が使えるから、こういう転移陣も作れるんだ。なるほどね。じゃあ、カヨコさんのお宝が眠る地下宝物庫に行ってみようかー……!
『転移しました』
「……!?」
『ふふふっ…………』
え!? 転移して早々に、カヨコさんに壁ドンされたんですけどっ!? ど、ドキッとする距離、ヤバイヤバイ……。え、両手掴まれてるーーー!?
『吸血鬼と、可愛い子が……吸血鬼の宝物庫で二人っきり。どうなるか、わかりますか?』
「あ……あ……。た、宝物に、されちゃうん……ですかぁ……?!」
や、ヤバ……。え、どうしようねこれ……?! いや、私には、バビロンちゃんが居るんで!!!
『リンネさん……。私の大事な仲間を蘇らせ、もう絶望しか残っていなかったリーダーの心を救ってくれた恩人の貴方を…………』
『カヨコ(Lv,????)が【吸血神姫の魔眼】を発動、愛し子の効果で悩殺・傀儡効果を無効化しました』
『そんなことできるはずないでしょう? ふふ、冗談ですよ』
いや絶対冗談じゃなかったですよね、今ね?! もう首に口が届くところまで来てましたし! しかも吸血神姫の魔眼ってバッチリ出てましたよログ!? 悩殺、傀儡……!? ひええ……!?
『こちらです。この宝物庫は合言葉を求めてきます。静かにしていてくださいね?』
「ひゃ、ひゃい…………」
『――――汝が求める物はなんぞや?』
『…………』
静かにしていてくださいねって、こ、声、出ませんけどぉ…………。
『――――汝が求める物はなんぞや?』
『…………』
『汝が求める物を答えよ』
『…………』
『汝が求める物を答えよ!』
『…………』
あ、の~……? 聞かれてますけど? あれ、もしかして忘れてたり……。いや、静かにしててって言われてるんだから静かにしてよう。
『――――通るがよい』
『さ、どうぞ』
「えっ」
『答えは静寂です。何か一言でも呟いたら死にますよ』
「えっ」
ここまで答えろ答えろって言われて、一言も発しないのは無理でしょ……。ボソッとなにか言っただけで終わりって、うわぁ~……。
『これは……。本当に当時のままですね……』
ここが、カヨコさんの宝物庫か~……。なんだか可愛らしい服が今あったような……。あ!? す、すっごい可愛いゴスロリがあるんですけど、ねえねえカヨコさん!? あれ、気になります!! 見たい見たい!!
『ああ、ありました! まさか、本当に存在するとは……』
「これは……? あれ?」
『ええ。私が持っているこの武器と同じです。さあ、どうぞ』
「えっ!? い、良いんですか!?」
『2つは要りませんから。もし使える子が居るなら、誰に与えても構いませんよ』
「ありがとうございます! 大切にしまーす……!」
『【★吸血神姫の魔槍】を入手しました』
おおおお……!? これ、カヨコさんが持ってる武器と同じ奴だーー!? そっか、だから面白いものがあるって言ってたんだ。どれどれ……? この武器は一体……?
【★吸血神姫の魔槍】(準神器・レジェンダリー・吸血槍・空きスロット3【○○○】)
・【呪】装備するにはカルマ値-666以下が必須
・【呪】装備するには種族【吸血鬼系】であることが必須
・【呪】装備するにはMNDが400以上であることが必須
・成長型装備。モンスターの死体を吸収して成長する
・成長レベル【 1 】
・現在アップグレード不可
・全攻撃力+5% (物理・魔術・属性・クリティカル)
・反射されない
・破壊されない
・サイズペナルティ無視
・空き
・空き
・空き
――――私よりよく食べる……。困った子ですね。by吸血神姫カーミラ・ヨハンナ・コーディリア
特殊強化 (通常強化不可)・重量5.0kg
「おおお…………!! これ、本当に――――」
『私のは、ありますから。それにその武器は大変ですよ?』
「大変、そうですね……」
さっき、あのまま血を吸われてたら、この武器を使う事もあったかもしれないなあ~……。いやでも、これってもしかしてもしかしなくても、レジェンダリー武器から始まってってアップグレードでどんどん強化されるってことだよね? 初期でこの強さなの? 狂ってない?
『他に欲しい物がありますか?』
「え、そんな! 逆に何かお返ししたいぐらいです!」
『では血を』
「ストレートに来ましたね!? ダメです!」
『…………ふふっ。我々を再び巡り合わせてくれたお礼です。返し足りない程です……わかってくださいますか?』
「あ……ぅ、それ、ちょっと卑怯です……」
ちょっぴり上目遣いで言ってくるの、卑怯だぁカヨコさん、んんんん~~っっ…………!!! じゃあ、ずーっと振り回されっぱなしだから、今度は逆に反撃に出よう!
「じゃ、じゃあ! あの可愛い服、気になります!」
『…………狙いが良いですね』
「気になりますっ!!!」
さっき見たあの可愛いゴスロリ! 紹介してください!
『あれは私が12歳の頃に着ていた服でしょうか。懐かしいですね……。父がどうしても私に可愛い服を着せたいと、嫌だと言ったのですが……。しょんぼりする父の様子に負けて、一回だけならと着てしまったものです』
「へえ~…………。お父さんって、ヴラドさんですか?」
『そうです………………。あっ』
そうかーーー!!! やっぱりヴラドさんはお父さんだったかーーー!!!
『悪い子ですね。リンネさん、やっぱり吸います』
「急に吸うと変態って言われるんですよ!?」
『それは…………。困りました、吸えなくなりましたね』
「変態じゃ、困りますよね!」
『ええ、困ります。ここまで喋ってしまったついでですから、教えましょう。父ヴラドは串刺し伯爵と呼ばれ恐れられた怪物です。私が15の時に母が乗った魔導雪上車を賊に襲われ、狂いました。そして私が17の時に…………私が殺し、父の力を継承せんと、血を飲み干しました』
「…………そう、だったんですか」
『昔の話です。そして父ヴラドの憎しみと怒りが生み出した魔術が、ランス・オブ・ヴラド。どうして使えるのかと気になっていましたが…………まさか別世界の私の使ったものを一度見て覚えたとは。今回は、逆にやられてしまいましたね。ふふふ…………』
悲しいお話だったけど……。でも、いつも手玉に取ってくるカヨコさんが『逆にやられてしまった』って、ちょっと嬉しそうに笑ってて、こっちもちょっと嬉しいかも。
「カヨコさんは、笑ってる方が綺麗で可愛くて、私も嬉しくなります」
『そうやって…………!!! んん……っ。では、そのトルソーにかかっているもの、全てを差し上げます。そうしたら、戻りましょうか』
「あ、ありがとう、ごじゃいまひゅ…………」
一瞬、カーミラさんがこんばんは~って顔を出しましたね……。本気で、今のは吸われるかと思った。今度から吸われそうになったら「やめて変態!」って叫ぶ練習しないと……。あ、すみません今、貰います。貰いますから。
『【★吸血神姫の魔装 (セット一式)】を入手しました』
『では、戻りましょうか。ブラッディアが館を徘徊しているようですから』
「えっ!? 皆は、大丈夫ですか?!」
『見つかっていないようですね。マリアンヌさんの透明化が効いてるようで』
「あ、なるほど!」
大変! もうブラッディアちゃんが徘徊を始めてるって! まだ交戦してないみたいだけど、急いで戻らなきゃ!
「あ、あの!! カヨコさん、ありがとうございました!」
『うっふふ……っ! 良いのですよ、さっきも言いましたが……これはお礼なのですから』
カヨコさんの秘密もいっぱい知れたし、いっぱいプレゼントされちゃったし、うんうん! 良かった良かった! それじゃ――――ブラッディアちゃんと、出来ればお話をしてみよう! 話し合いで解決したら、嬉しいなぁ~。