186 懺悔
◆ リュースへの道中 ◆
じゃあ座標を記録して、皆の所へ帰ろう……と思ったら、カヨコさんが迎えに来た。皆はもうペルちゃんを先頭にある程度先に進んでもらってるらしい。じゃあ、あの……せっかくだし……。聞いちゃおう、かな? うん……。見ちゃったんだもん。
『――それでは、皆様のところまで』
「あの~~……。カヨコさん、あのね? もしかしてひょ~~っとして、ブラッディアを召喚出来たりしま……す……?」
「ええっ!?」
『…………おや。どこでそれを? いえ、あれしかありませんか。あの赤黒い転移陣、あれから何かしらのヒントを得ましたか』
「あ、うぅ~~ん……。はい~~……」
いやぁ~そうだよね、そりゃバレるよね。だってここに落ちた途端にこの質問だもん。そりゃあバレるよね!!
『一つだけ、教えてくれれば答えましょう』
「お、おお!? 何でも答えます!」
まさかの教えてくれるって! やったーー!! 何の情報と引き換えかな!?
『ランス・オブ・ヴラド。どこでそれを? それは失伝したはずの魔術、私にしか使えないはず。教えたつもりはありませんが、どこで?』
ああ~……。そういえば、これは過去のルテオラのカヨコさんから盗み見て覚えた物だから、このカヨコさんは知らないんだ! いわば、あれはパラレルワールドだもんね……。そっか、そうだよね。
「過去に行く力で、え~っと……。過去の、ルテオラに行ってきたんです。そこでマテオをおにーちゃん、ううん。フリオニールさん達と一緒に倒した時に、カヨコさんが使った魔術を盗み見て、その……。覚えました!」
『…………もう一度。何を、どうしたと?』
「え、えっと……マテオを――」
『その先です』
「カヨコさんが使ったのを見て、覚えた……?」
『………………ふっ。来なさい、ブラッディア!』
『カヨコが従者【ブラッディア(Lv,1)】を召喚しました』
お、おおお!? み、見せてくれるんですか!?
『これがブラッディアです。どうです? 私に似ていますか?』
「…………」
「む……?」
おぉ……。こ、この方がブラッディアさん……。目つきが険しい~~……!! お、お話は出来なさそうな雰囲気……。でも凄い美人さん! どうしよう、挨拶ぐらいしたほうがいいかな……?
「こ、こんばんは……? はじめま、して~~…………? あは、は……」
「…………」
「…………ふっ!!!」
「千代ちゃん!?」
え、千代ちゃん!? 急に抜刀してどうしたの!? ブラッディアさんに失礼でしょ!? え、なんでなんにも反応しないの? 瞬き一つしてなくない? え…………。
『抜け殻、とでも言えばいいでしょうか。私も当時は若かった……。ブラッディアの失礼な言動に腹を立て、私が上だということを理解出来るように徹底的にやってしまって。そうしたら、壊れてしまって』
「こわ……れ……?」
「……魂が抜けておりまする。これは、入れ物に御座います」
『元の種族が不老不死の吸血鬼。これもまたオリジナルのドラキュリーナなのですが、まあ……。私の数少ない失敗の一つです。やりすぎてしまって……』
「…………」
「あ……ああ~……」
これは、ブラッディアさんの、身体だけなんだ……。カヨコさんがそんなに腹を立てる程、失礼なことをしたのか~……。
『後からでした。ブラッディアがそうせざるを得なかった理由、プライドの高さ、それらを知ったのは。やり直したいことの一つでしたが…………聖浄の煌めき、魔を祓え。エクスターンアンデッド!!』
「え――――」
『カヨコ(Lv,????)が【エクスターンアンデッド】を発動、ブラッディア(Lv,1)が完全に消滅しました』
え、え、え……!? まさか、本当に……?!
『いつまでも手元に置いては可哀想ですから。昔話は終わりです……さあ、行きましょう。星の息吹よ、我らを導け。グレーターテレポーテーション』
『カヨコ(Lv,????)が【グレーターテレポーテーション】を発動、パーティメンバー【ペルセウス】の元へと転移します』
◆ リュースへの道中・雪原 ◆
なんだろう、カヨコさん……。本当はブラッディアさんの魂を呼び戻す方法とか、そういうのを探してたんじゃないのかな。肉体を再生出来るリコンストラクション、始祖再誕とかはあったけど、リザレクションとか私以外に反魂の儀式を使える人は居なかった。カヨコさんは『魂を呼び戻す術は持ってない』のかな、と思う。だからなのかな、魂を呼び戻せて、なおかつ過去に行ける私に希望というかそう言うのを抱いてるのかも。さっきの浄化は、それも私達の眼の前でやったってことは、過去の失敗を完全に認めて諦めたってことなのかなと……思うんだけど……。
「歩けど歩けど雪の海ですわぁ~~!!」
「叫ぶと体力を持っていかれますよ、ペルセウス殿」
「にゃぁお~……」
「どん太の背中でぬくぬくしてる猫ちゃんがいますね……」
『わうぅ~?』
「どん太気がついてないし……」
『そろそろ、見えて来ませんか?』
「いや、まだ見えない――――ん? 灯りが見える……?」
『(*´∀`*)!』
あ、リュースに到着したっぽい。んー……まあ! カヨコさんが何考えてるかなんて、私にわかるはずないね! カヨコさんはミステリアス過ぎる! でもやり直したいことの一つって言ってるのにそれを浄化して完全ロストさせたってことは、ブラッディアさんについてのあれこれは放棄したってことだよね! そう、きっとそう!
「間違いない、人が居る。賑やかそうだ」
「おお、良かったですね。少し落ち着けそうです」
『わんっ!! (リアちゃん! 起きて!)』
「ん~……? はっ!? 暖かくてふわふわで、ね、眠ってました!」
「おはよう。今日はいっぱい寝てるね~」
『先に向かっていてください。少し、リンネさんとお話してから行きますから』
「あら? わかりましたわ? では、先に行きますわよ!!」
ん!? やっぱり話してくれる気になったのかな!? リュースに到着前に、二人っきりで話したくなったってこと?
『……ブラッディアは、私と似ているか? と聞きましたよね』
「え? あ、うーん……。似ては、ないかも? でも髪の色とか、目の色とか、お顔がとても綺麗なのとか、スタイルもいいところとかで言えば一致してるかも?」
『あら……。少し嬉しくなりました。綺麗ですか?』
「え。あっ……き、きれい……ですっ……!」
今、サラッと綺麗って言っちゃったけど、改めてその綺麗な顔を近づけて問われると、ドキッとしちゃうから、やーーめーーてーー……!!!
『…………ブラッディアはカーミラと名乗っていました』
「あ、カヨコさんの本名――――」
『おやおやおやおや? 名乗ったことはありませんが?』
「あ!!!! う、うっ……!?」
ゆるしてーーーカヨコさんゆるしてーーーー!!! 首筋凝視するのやめてーーー!!! す、吸わないでぇぇ……!!
『まあいいでしょう。ブラッディアはカーミラという恐ろしい化け物の名を借りて暮らしていました。ブラッディアは東の地、大きな川を挟んで向こう側の地で生まれた人間でした。酷く劣悪な環境で生まれ、子供の頃から奴隷として働かされ、腹を満たすためには同じ奴隷を――――そのような暮らしをして、命を繋いでいたようです』
「…………それは…………」
急に、話が重いよぉ……。うん、それで……。どうなったのかな。
『彼女は身体が大きくなっていくに連れて、食事量が足りなくなりました。夜には農作地を荒らすモンスターを捕まえ貪り、昼は食べられる物はなんでも食べる。そうして次第に自分でも気が付かない内に……人間を辞めてしまっていたのです。彼女は誰かに吸血鬼にされたのではなく、自ら吸血鬼になった……私と同じ、始祖です』
「始祖…………」
『ある日、奴隷の口減らしの為に数調整が行われることとなりました。それにブラッディアも選ばれてしまったのです。当然ブラッディアは逃げ出しました。そして当然、追われる身に。ここより東にはなんという国があるか、覚えていますか?』
ここより、東…………? あ……!! メルティシア法国!!!
『法国が奴隷を使っているなどと知れては大変です。なぜなら法国は労働者も聖職者も皆平等と謳っていますからね。まあ最近では隠しきれなくなって重大犯罪者の強制労働として実質奴隷運用はしていると言っているようですが。とにかくその当時、ブラッディアの存在が漏れるのは不都合だったのです。ですから必ず消すようにと――――しかしブラッディアは捕まらず、最終的にリュースの街へと辿り着きました』
「…………もしかして、そこで吸血鬼の館の話を誰かからか、聞いて……?」
『素晴らしい。その通り、ブラッディアは私と特徴がそっくりです。白い髪に、赤い瞳。長身で容姿端麗な女性。そして館に入ってみれば主が不在、街の人間はまだ主がいると恐れている――――ほら、好都合でしょう?』
ああ……。あああああ…………。なんだろう、悲しくなってきた。そんな、うぅーーーん…………。
『リュースの街は結界が弱く、モンスターが時折入り込むことがありました。そしてブラッディアはここら周辺のモンスターならば楽勝。館の主がモンスターから守ってくれる、そして住民は見返りに食べ物を捧げてくれる……。最高の環境でしょう? そうしてそんな関係性が長く続き、その館の主の話が。我々の騎士団の耳に入ってきてしまったのですよ』
「…………それで、その…………」
『ええ、その当時腹が立つような事が多く、非常に不機嫌で非常に不愉快な話でした。私はブラッディアの話など聞く気もなく、何度も何度も無惨に殺し、挙げ句には血を啜り、そしてその血から――――ブラッディアの記憶を見てしまったのです。我々のような始祖級の吸血鬼は、血から記憶を見ることも出来るのですよ。私はもっといろいろと見える目がありますが……なんにせよ、これが私のこの街での失敗……大失敗です。幻滅したでしょう……』
「いいえ……私も、もしバビロンちゃんを騙る何者かが我が物顔で魔神殿に居たら、問答無用で同じことをしたと思います。だから、幻滅なんてしませんよ、内緒にします」
これが、カヨコさんの秘密の一つかあ……。ん、でも、仕方ない。不幸な事故だったと思う……。たまたま悪いことが重なっちゃったんだよ、これは……。
『貴方は、優しいですね……そして強い……。だからこそ、リーダーも過去を振り切り、乗り越えられたのでしょうね。ありがとう、聞いてくれて。少し、胸の奥がスーッとした気がします。私のした過ちがなくなるわけでは、ありませんが……』
「じゃあ、今度こそ……悲しい結末にならないように! 最善を尽くしましょう!」
『ふふ……っ。そうですね。ありがとう、行きましょう』
気のせいかもしれないけど、カヨコさんの雰囲気が前よりもっと丸くなった気がする! ん、じゃあ今度こそ悲しい結末を避ける為に、吸血鬼の館! ボスがブラッディアなら、恐らく過去のはず! 行ってみよう!!
――――16件目の、レビューを……頂きました! とってもとっても感謝で御座います!
それと、前話に【◆◆◆魔神バビロンの秘蔵ブロマイド】の挿絵を追加しまし――――『見ないで~~~!!!!♡』