174 あわあわ
◆ ジードの街、西の湿原【つくね☆視点】 ◆
よし…………今度はこっちをやってみよう。
「すぅ――――ゴァアアアアアアアアアーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!」
『つみれの応援バフが発動、【メガフレイムブレス】が発動します』
『きゅぅぃ~~♡ (いけいけ~♪ すごいすご~い♪)』
『わうぅぅん! (丸焦げだねっ!!)』
「何度見ても凄い威力ですね……っ!! この、熱気……!!」
『攻撃に巻き込まれた複数のモンスターを撃破しました』
見渡す限りの湿地を、息が続く限り焼き尽くす。この圧倒的で暴力的な蹂躙、強者によって弱者の縋る脆い平和な世界が破壊されていく快感。たまらない。でも中途半端は駄目、やるからには徹底的に、容赦なく、完全に完璧に破壊すること。そうじゃないと真の快感は得られないと。これはサリーちゃんから教わった教訓だ。
「ガァ……!!」
「この辺りも焼き尽くしましたね~……。ん~何も、出て来ないですね」
『くぅ~ん…… (王様、出て来ないね)』
『きゅぅ~~……? (弱虫だから出て来ないのかな?)』
「ふぅ……。いつだって生き残るのは強者か臆病者なんだよ、つみれ。でも、強者であり続けるのは難しいって、サリーちゃんも言ってた、でしょ? 時には臆病者になるのも、大事なんだって」
『ぴゅぃぃ~~……きゅぅい!! (難しい~……。でも、生き残ったら次があるもんね!)』
『わうっ!! (次は勝って、強者になればいいんだよ!)』
『きゅぅ!!! (なるほどっ! どん太君頭いい!!)』
「平和な会話に聞こえますけど、かなり物騒なこと言ってますよね?」
「そうかな……? そうかも」
もし、徹底的に……完璧にやり遂げられないなら、逃げるべきだとも。臆病者で結構、次に対峙するまでに相手を超えれば、その時勝利の笑みを浮かべられるのは自分だと。何も臆病者だからって、弱いわけじゃないんだって。つまり……臆病で強い奴が、最強ってことなのかもしれない。
地獄パーティで負けた話を誰かに聞いて欲しくて、つみれのお世話をしててくれたサリーちゃんに、ぼそっとその話をした時に言われた『逃げても良いのよぉ? でもただ尻尾を巻いて逃げるようなのはだぁめ♡ 次に会う時は殺す。絶対殺す、必ず殺すと心に誓って逃げるの。サリーちゃんは……そうねぇ~、最期は……怖いのに、無謀なのに立ち向かったから、死んじゃったのかなぁ~~……。つくねちゃんは、サリーちゃんの悪い所を真似しちゃ、だめよぉ~~??』って、あの時の言葉が心の奥に残ってる。
凄く、衝撃的だった。え!? 掲示板であんなに強い、怖いって騒がれてるサリーちゃんでも、怖いって思う相手が過去に居て、しかも立ち向かって死んじゃったんだ……って。そしてリンネちゃん達と地獄パーティに行って、リンネちゃんっていう強者の姿を再確認して……。わっちは、考え方が変わった。無理に恐怖心を打ち払う為に斧を振るのはやめようって。自分の身の丈に合った戦い方に変えようって。
「んっ!! お姉ちゃん達が帰ってきましたね、ちよちよがダウンしてて、おにーちゃんがちょっと疲れてそうで、マリにゃんがとても元気そうです!」
「え、何でわかるの……?」
「使い魔のルナを置いてきてますので! ピピピッと情報が伝わってくるんです!」
「……ひえーーーー」
『わううーーー?! (ええ!? あの猫ちゃんで皆が見えてたのー!?)』
「どんどん、ナイショですよ? じゃないと毎朝散歩しながら住人の皆さんに餌付けされてるのバラします」
『きゃぅぅん!? (ないしょ! ないしょだよ!!)』
リ、リアちゃん……。恐ろしい子……!
「つくねさんも、お姉ちゃんの写真いっぱい撮ってるのバラします」
「え゛っ゛、な、なんでそれを……」
「あ、やっぱり撮ってるんですね! ふっふっふ~~……♪」
「あ゛っ゛!? わ、悪い子、悪い子だよリアちゃん、黙ってるからぁ……!!」
「黙っててくださいね~♡」
リアちゃん……!!! 恐ろしい子…………!!!
「よ~し、じゃあこの辺りで! 私はあっちを焼き払いますっ! つくねさんは反対側で!」
「ん、うん、わかった!」
『きゅぅぃ~~♡ (いけいけ~♡)』
ま、まあ、うん、リアちゃんの秘密は心の中にそっとしまっておこう……。いやぁ、怖いなぁ……。まさかスクショの存在まで認知しているNPCがいるなんて、ああ~リンネちゃん、よくリアちゃんを撮影してたり、ちびちゃんを撮影してたりするからそれを見て『なにかしてる』って認知したのか~……。この世界は凄い古い時代のアンティークカメラみたいな魔導具とかがあるもんね。知っててもおかしくないか。
「すぅ――――ゴァアアアアアアアアアーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!」
『つみれの応援バフが発動、【メガフレイムブレス】が発動します』
『きゅぅぃ~~♡ (やっちゃえ~~♪)』
『オーレリアが【焼夷猫祭】を開催しました!』
「行け!!」
『攻撃に巻き込まれた複数のモンスターを撃破しました』
ん……。真覚醒の時にはカレン様に呼ばれて死神殿に行ったけど『……お姉ちゃんのほうが、多分良い真覚醒先を案内してくれるかも。もう一つの選択肢、どう?』って、結局バビロン様が居る魔神殿に行って、なんやかんやあってバビロンちゃんの椅子に気に入られて、龍と共存し共闘するなんて新しいルートを提案されて……。結局、真・狂龍姫を選んだ。戦い方がガラッと変わったけど、今ではこれで良かったと思ってる。だって前より――――楽しい、し。
『わう? (あれ、何~?)』
「むむっ! つくねさん、あれはダンジョンに繋がる転移陣じゃないですか?」
「え? あ、本当だ……。沼の、底にあった?」
『きゅぅ~ (沼の底~あった~)』
お……! これ、ダンジョンに繋がるポータルかな? いや、こんなところに隠されてたら、誰も気が付かないでしょこれは……。え~?
「……ダンジョン、っぽいね」
「おお~~!! 見つかりましたね~~!!」
『わうぅ~~! (良かったね! いっぱいじゃぶじゃぶびちゃびちゃ、楽しかった!)』
『きゅぃ~~! (いっぱい暴れて楽しかった!)』
「それにしても、霊体状態のつみれとお喋り出来て、本当に良かった……。見えなかったら、つみれが寂しい思いをしたかも……」
「そうですね! 私はどんどんがお喋りしてる内容で推測してるだけでしたけど、どんどんはお喋り出来たみたいで良かったです!」
『わうっ!! (楽しかったね!)』
『きゅっ!! (楽しかったね!)』
ふふ、どん太君とつみれ、仲良しだぁ~……。良かった、どん太君がつみれを『美味しそう』って思わなくて……。どん太君、ドラゴン肉大好きだもんね……。
【沼地の王】(推奨レベル90~)
・開放状態【アンロック】
・注意:レイドダンジョン
・最大20人までパーティ編成可能
・NPC参加可能
・レイドパーティを編成する場合、このポータルの【レイドパーティ編成】を選択し、専用のパーティを編成して下さい
・ペナルティ:制限時間30分
・ペナルティ:覚醒スキル発動時、全員に覚醒クールタイム5分発生
・ペナルティ:ダンジョン内での一部召喚系スキル使用不可
・パーティの該当スキル【該当なし】
・毎週地、闇、聖 (金・土・日)曜日に1度まで挑戦が可能
・30秒のカウントダウン後、ポータル内のメンバーがダンジョン内に転送されます
「レ、レイド……!?」
「え? なにか襲いかかってくるんですか?」
「あ、いや、えっと……。最大20人まで、特殊なパーティ編成で遊べるみたいで……んっと……」
「大人数で遊べる場所ってことですか!?」
「そう、なるかなぁ~~……?」
『わうっ!! (皆で来ようよっ!!)』
『きゅっ!! (皆で遊べる!? 楽しいよ!!)』
レ、レイドは初めて見た……。レギオンは知ってるけど……。へえ、こんなのが、あったんだ~。もしかして、ターラッシュとかにもこういうのあるのかな……? あ、でもあそこはイベントダンジョンが置かれてるし、無いかも? それにこれ、開放状態って書いてある。何かフラグがあったのかな? あ~……この沼地の王の存在を知ってるNPCに話を聞いたり、何かサブクエストがあったりしたのかな?
「とりあえず、帰りましょう! それと、どうですか? 私のにゃ術、変化に気が付きました?」
「あ……。猫のスピードが、上がってた、ね? ねこまっしぐら、って感じだった……?」
「そうなんです! さっすが、変化に気がついてくれて嬉しいです! あれでも半分以下のスピードなんですよ!」
「え゛」
リアちゃん、恐ろしい子……!! にゃ術の着弾スピードが速いと思ったけど、まさかあれで半分以下って……。VRバッティングゲームで対戦できる、プロ野球選手のエースピッチャーNPCが投げる剛速球より速かったような……。あれの、倍? やば、反応出来るかなそれ……。
「ん、ま、まあ、帰ろう……。この座標をとりあえず記録して……。よし、大丈夫。じゃあ帰って皆に話、しよっか」
「はいっ! 楽しかったです、気兼ねなく撃ちまくれて!」
『わう!! (楽しかった!)』
『きゅう? (また来る?)』
「また来るよ~。あ…………どん太君、どろっどろだね、足が」
『わうぅん? きゅぅぅ~ん…… (汚れてるみたい……)』
「どんどんをお風呂に入れていきましょうっ!! その前にかるーく――――」
『つみれが【シンクロ】を解除しました』
あれ? あらら? つみれが勝手にシンクロを……。こ、この脱力感。ちょっと慣れない!
『ぴゅぁぁぁぁ~~~♡』
『つみれが【セイントバブル】を吐き出しました。Weak!! どん太が泡に包まれ、身体が浄化されます』
『わうっ!? (あわあわ!!?)』
「おお……? おお~……泡々だね」
『ぴゅいぃ~~♡ (キレイになった~!)』
「わ~……。キレイに、なりましたね」
おお~……。つみれが、なんか新しいスキルを覚えてる……。いろんなブレスが吐けるつみれ、なんだか不思議生物の領域に片足突っ込んでるね?
『わうっ!! (キレイになった~!!)』
「キレイになったから、じゃあ~……直接帰ろうか?」
「そうですね~……。でもその泡、なんだか随分と…………」
ん? この泡、何かあるの……?
『どん太が【セイントバブル】の不死・闇・霊体・悪魔系に対しての即死効果を無効化しました』
「わあああーーーー!!!!???? つみれ、それを今度から、ど、どん太君にやったら駄目だよ!? どん太君、死んじゃうかもしれないから!!」
いいいいーーー!? じょ、浄化って、ターンアンデッド系の効果じゃないこれーーー!!? や、やば、やば……!? あわわわわわわ…………泡だけに……? いやそれどころじゃない!?
『ぴゅぃぃ~~!? (ダメ!? 危なかった!? ごめんなさい!)』
『わんっ!! (大丈夫! 頑丈だから! ぶるぶるで飛ばしちゃえ!)』
『どん太が【セイントバブル】を振り払いました』
「わ、ぶるぶるしたら、大丈夫になったっぽい……? よ、よかった。どん太君がボス属性で……」
「やっぱり、浄化系のブレスですよね! 危なかったです、どんどんが魂まで浄化されるところでした! まあ、効かなそうでしたけどねっ!」
『わん!! (効かなそうだった!)』
「…………つみれ、後でアンデッド系の雑魚に試してから、効果を調べてからにしようか……」
『ぴゅぅぅ~~…… (はぁ~~い……)』
危なかった……。どん太君がボス属性で本当に良かった……。これも含めて、リンネちゃんに報告しなきゃ。ふぅ~…………。
◆ バビロニクス・ギルドルーム【スイート・リンネ視点】 ◆
――――へえ~そんな事があったんだぁ~。
「レイドダンジョン、かぁ~」
「そっちも、大穴と宝物庫、行ってきてたんだ……」
「うんうん! あれはね、初見のインパクトを大事にしたいからね、是非行って驚いて欲しいなっ!」
「へ、え~……。た、楽しみ……。あ、行ってこよう、かな? 採掘装備、あるし……」
「ああ、採掘装備あるんだ! いいね、それも持っていったほうが良いかも」
どん太が危うくつくねちゃんの可愛さとつみれちゃんのあわあわに浄化されかけたけど、どうやら耐えたようね! まあ死んでも私の所に戻ってくるし、反魂で生き返るけど。それでも死ななくて良かったわ!
それとつくねちゃん……あの大穴に……ふへへへ……行ってきて欲しいねぇ~……。採掘装備があるならなおさら、きっと楽しい採掘になるよぉ~……?
「あそこは4人までで、週に合計2回行けるから、最初は事前情報無しに行くのを、私はおすすめしたいね! 2回目からは、聞きたかったら色々教えるよ! お昼寝さん達にもそうしたんだ~!」
「じゃ、行って……みようかな? 飛べば、すぐだし……つみれ~」
『ぴゅぃ~~♡』
あ゛……つ、つみれちゃんが、一緒なんだった……。どうしよう、あんなに純粋なドラゴンが、あんな悪意だらけの場所に…………。
いいや……いいや!! 可愛い子には旅をさせよ。昔からある諺だよ! 可愛いからっていつまでも温室で可愛がり続けてたら、この先生き残れない……!! ここはグッと堪えるのよ、私……!!!
「大穴……行って、来ます! じゃあ、また」
「行って、らっしゃい……! 帰ってきたら個人メッセージ入れてね!」
「ん、わかった!」
――っくぅ、行ってしまった! ああ、つくねちゃん、つみれちゃん……。罪深い私をどうかお許しください……!
『わう? (ご主人? 今日、戦わないの?)』
「んえ? 戦う…………あ! 天下一!」
おお! どん太に言われるまで忘れてたわ! そういえば天下一とかやってたね、バビロン側代表として恥ずかしいような事はできない。どれどれ、今日も張り切ってレートを稼ぎに行きますか!! 強豪と当たらないなら、楽勝よ! でも手は抜かないよ、徹底的に何もさせずに倒す! 反撃されたら負けちゃうからね、だって相手はプレイヤーだよ? ペルちゃんとかつくねちゃんみたいなパワーファイターにぶっ飛ばされたら一撃だよ。油断しないようにね! よーし…………行くぞーー!!!
――――被害者1号……!!