170 The Original・5
◆ 原初に続く大穴・6階層 ◆
「キャゥゥゥゥン……ク、クゥーン……」
「本当にレベルが滅茶苦茶低いウルフだ……。え~、レベル差を感じすぎて逃げるんだぁ」
「立ち向かえば死ぬとわかっていれば、当然ではありますが……どん太殿が如何に勇敢かわかりますね」
『(;´∀`)』
「確かに……。どん太は勇敢で賢い子なんだなぁ~……」
6階層になって、モンスターの出現傾向が変わった……。出現モンスター傾向は固定なのか、それともランダムなのか、わからないけど……。でもカウントが進んでこいつらが強化される先って恐らくだけど、アレだよね……?
「あった。転移陣……ポータルと言ったか。ポータルが見つかったことだし、それじゃあ探索に――」
「いやいや、待った! もう私はこのダンジョンの物を見ただけでは信用できません! あれが偽ポータルの可能性を考慮して、触れてからくるべき! どう!?」
「賛成、で御座いますね。休憩場所にすら罠がある場所です、ありえます」
『(*´∀`*)b』
「なるほど。その発想はなかったな……調べてみよう」
ポータルあった。でももう私はあのポータルですら信用出来ない。もしかしたらポータルの顔をした別の何かの可能性だってあるし、確かめない内は安心出来ない! 罠感知には、何も反応がない……。元の転移陣がどんな模様だったか覚えてないけど、これは恐らく大丈夫……。の、はず。
『モンスター検知なし。安全性を確認しました。7階層へ移動しますか?』
「……これは安全みたい。よし、戻って採掘!」
『2分経過』
「覚えた……。覚えたぞ……」
慎重になり過ぎかもしれない。でも安心には変えられないんだから仕方ない。なるほど、5分なんて余裕だと思ってたけど、ここのダンジョンは疑心暗鬼になればなるほど、慎重になればなるほど時間が足りなくなるらしい。そしてモンスターの処理が仕切れなければそれもまたゲームオーバー。5分、上手く出来ているなぁ……この時間設定!!
「これだけにしよう。鉱石は外でも手に入るだろうから、中でしか手に入らないと思われるこのクリスタルが欲しい」
『(*´ω`*)b』
『フリオニールが【★★★超巨大パナシーアクリスタル】を入手しました』
『カウントが進行しました』
『ピピピ……敵感知』
『ワォォォォーーーーン!!!!』
『ワーグ(Lv,89)が【超咆哮】を発動、パーティ全員に効果がありませんでした』
――――やっぱり出たか! ワーグ!!! こいつは敵感知に引っかかるのか! まあ狼系の原初っぽいモンスターって言ったら、お前だろうね!! でもどん太とは見た目が全然違う、こいつは灰色っぽい毛に白い毛、巨大シベリアンハスキーみたいな見た目だけど、どん太は真っ黒に白い麻呂眉に白い靴下はいてるみたいな足で、お腹もちょっと白い! こいつ、可愛くないな!!!
「可愛くない!! やっちゃえ!!」
「かわ……!?」
『姫千代が【牙突紫電】を発動、ワーグ(Lv,89)に7,775Kダメージを与え、撃破しました。経験値 100,000 獲得』
『姫千代が【神威】を発動しました』
千代ちゃん、倒してすぐに次のに備えて即神威を使うようになってる……。隙も見た限り無いし、いいねえ……。千代ちゃんのさらなる上達を感じる! それにしてもワーグ、ああ~レベル20差だからぎりっぎり経験値入るのか、極微量……。倒す価値ないな~。
「……よし、これ以上危険を冒すこともない。次に行こう」
「これ以上強いモンスターとなると、どん太殿のように巨大化するのでしょうか?」
「意外とスリムになるかもよ?」
『(;´∀`)!?』
「……大きくてもふもふしているほうが、可愛いですね」
「だよね? やっぱどん太よ」
「どん太君、またふかふかの毛を触らせて欲しいな……」
「あ、今どろんこ遊びしてるからどろっどろだよ」
「…………洗ってから、かな」
「左様に御座いますね……」
「左様に御座います~~」
「むむっ……!!」
「ふふっ」
『(*´ω`*)』
まあまあ、これ以上危険を冒すこともないのは確かだし、この階層はこれで終わって次に行こう。次! テンポ良く、さあ! いっちにーいっちにー!!
◆ 原初に続く大穴・9階層 ◆
「――あった、あのポータルだ」
「よーしチェックしよう!」
あれから、過去の教訓を活かして無駄な採掘はせず、ポータルを見つけたら隠し通路を破壊せず――おにーちゃんが猛烈に崩したがってたけどなんとかやめさせて――にここまで来た。もう少しで10階だし、休憩エリアのはず。まずはこのポータルの安全性を確かめ――――
「いいいいいい!!!??? すとおおっぷ!!!」
「ん、どうしたんだ? いつものポータルと変わらないようだが……」
『(*´ω`*)?』
「……特に、危険性も感じないぞ?」
いや、わかる……私にはわかる……!! これは、転移のポータルじゃない!! 転移のポータルは陣の周囲に書いてある記号に『遠く離れし』ってワードと、『道』ってワードが入ってる。リアちゃんが前に勉強してた本を盗み見した時に、私のアビスウォーカーの起動ワードがどんな形のやつなのかなーって調べたからよ~~~く覚えてる。アビスウォーカーの起動ワードの文字と、この転移陣の文字は近い文字が使われるはず。それが、無い!
「これは転移じゃないよ! 起動ワードに遠く離れし、って文字と、道って文字がない!」
「…………では、これは?」
「罠、には引っかからないから……。多分私達の助けになるようなフリをして、とんでもないことを引き起こす陣だと思う」
「本当だとしたら、なんという悪意の塊なんだ……」
『(; ・`д・´)』
時間がない、これはこのままにしてポータルを探そう。多分、隠し通路の奥にあるはず。今まで部屋の中に見つかってないからね。
「隠し通路を探そう。これの解読は、とりあえずスクショ撮ったから後でやる! とりあえず行こう!」
「ああ、もし見つからないなら、これを踏むべきだろうか?」
「もしなかったら、ね! 多分、あるよ」
「探しましょう。5分と時間は長いようで短いです故」
『(*´∀`*)b』
『2分経過』
部屋の中はじっくり見て回ってないから、恐らく部屋の中にあるはず……。色の違う壁……。あ、あれだ! 青黒い壁の間に、若干青白い壁がある。この奥にあるんでしょ、本物のポータルが!
「ここじゃない?」
『(*´∀`*)b』
『隠し通路を塞ぐ壁が崩壊しました』
「……本当だ、ポータルがあるな」
「これだね、遠く離れしと、道……他の文字も同じだと思う。若干違う文字でしたーとか言われたら流石に泣くしかないけど……」
『ワウッ!!!』
「何だお前、シッシ!!」
『ワウ……キュゥゥン……』
今更ウルフ如き、相手にならないよ。シッシってやれば逃げていくんだから、無用な殺生は必要ないね。さて、じゃあ本物かどうか……確かめさせてもらおうじゃないの!
『モンスター検知なし。安全性を確認しました。10階層へ移動しますか?』
「おー! これだ! いやー良かった、これで次の道へのポータルは確保出来たから、採掘しに行こうか~」
「凄いな、罠感知抜きで罠を見破るなんて、なかなか出来ることじゃないと思う」
「此方にはどこがどう違うのか、よく……」
『(;´∀`)』
「え~注意深く見れば結構違うよ~? ここ、この文字が道。で、こっちの文字が遠く離れしって奴。皆も覚えておいたほうが良いよ~? 私がうっかりして――――」
『ウルフ(Lv,7)が【一斉採掘陣】を踏んだ為、陣が起動しました』
『全ての採掘スポットが採掘されました』
『カウント最大!!! 警告!!! 原初の魔狼が出現します!!!』
――――逃げなきゃ。
「逃げろ!! 入って!」
『モンスター検知なし。安全性を確認しました。10階層へ移動しますか?』
「行け!」
『10階層に移動します』
『ワォォォオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!』
『原初の魔狼神・ゼロス(Lv,????)がどこかで【究極咆哮】を発動しました――――MISS……。対象が存在しませんでした』
◆ ◆ ◆
『休憩エリアに到達。時間制限は15分です』
『取得したアイテムを帰属化する場合、この階層に設置されている倉庫に収納してください』
『先に進む場合、赤色のポータルへお進み下さい』
『お帰りの場合、青色のポータルへお進み下さい。ダンジョンの外へ転送されます』
『全員の覚醒の使用制限が解除されます』
『全員のブレイク状態が回復しました』
『全員の覚醒クールタイムがリセットされました』
冗談じゃない……。冗談じゃないよ……。絶対戦っちゃいけないレベルの奴でしょ、絶対無理だって……。バカなんじゃないの……!? なんでモンスターまで陣が踏めて発動すんのよ……。いや、いやそうだよね。NPCにだって踏めるし、他所のダンジョンのポータルをどん太が踏むことだって出来るんだから、なにも野良のモンスターが踏めてもおかしくはない。おかしく、ないけど!!
「…………は、はあ……! 追って、来ないだろうか、大丈夫だろうか……」
「わかんない……。追ってこないとは、言われてないし……」
『((((;゜Д゜))))』
「微かに聞いた遠吠えさえ、身の毛のよだつ程に御座いました……」
うちの激強戦闘員2人まで震え上がる程の相手か……。良かった、採掘するのにあのポータルから出てない内で……。あのポータルの文字を説明するのに、全員近場に居て……。何もかも、運が良かった。不幸中の幸いだった。そうとしか言えない。
「……ミミックチェック!!」
『マリアンヌが【倉庫】に攻撃しましたが、効果がありませんでした』
「……本物、だろう」
「ぐずぐずしてられない、おにーちゃん! さっさと入れて次に行く準備!」
『(`・ω・;)ゞ』
もしかしたら、さっきのゼロスって奴が追ってくるかもしれない……。休憩エリアはセーフティエリアじゃない。モンスターだって陣が踏める、そうだよ、そうじゃん……。スライム・イヴだって追いかけて来たのは、転移陣を踏んだからだ。踏めば、転移して来られる。そして狼系ってことは……鼻が効く。獲物の臭いを辿って、追いかけてくるぐらいしてくるはず!
「あっちは狼、鼻が利く! こっちの臭いを辿って追いかけてくるかもしれない!」
「……如何、致しますか。ここは一旦、退散に御座いますか?」
逃げる……逃げるのもアリか……。何か打開策は無いものか……。こういったトラブルに対処出来ないと、このダンジョンはクリア出来ないんじゃないだろうか。もしかしたらクリアなんてないかもしれないけど、いや、でも……。何も試さずに逃げるのは、つまらない。面白くない! こそこそ逃げ回ってビクビク採掘するのは、楽しくない!!
「迎撃。追いかけてくる前提で、残り5分になったら次の階に行こう。そうなったら効率よく降りて15階、その間に追いかけて来ている様子があったら15階で迎撃。ネズミのように逃げ回るのは、面白くない!!」
『(*´ω`*)……!』
「…………覚悟を決めましょう」
「わ、我は、どうすればいいだろうか……?」
でも、無策に迎え撃っては負けるのはほぼ間違いない。だからこそ策を立てる。知恵を出し合って作戦を立て、力で及ばなければ知能で対抗する。それが人間と獣の違いだ。私は、強いだけの獣には負けない。負けたくない。
「私に、考えがあるの」