159 ログイン10日目 ~波乱万丈~
◆ 竜胆天音、私立鹿鳴寺学園【1-1教室】 ◆
「――そういえば、ぴょこぴょこアニマルなんちゃらセット箱、どうしようか?」
「ああ~……。そういえば、ですわね」
「ね。そういえば、だったよね」
「実はあれの劣化版……はぁ……。アニマルアバター選択箱が6万円で売れたそうですわよ」
「ろ……!?」
「つまりそれをかるーく超えますわね」
6万円……6万円で劣化版が売れた……!? いやたしかに6万円の価値はあるかもしれない。あるかもしれないけど、ひええ……! 怖すぎるよそれは! じゃあ私達の持ってるやつ、10万とかそれ以上するってこと!?
「しかも1点しか貰えない箱のようで……ふぅ……。2点セットで手に入るわたくし達の、しかも動くぴょこぴょこアニマルアバターとなれば、ん…………倍以上ですわねえ~」
「ば、倍……! ペルちゃん猫になる?」
「え……」
「え?」
「ネ、ネコですの? そう、ですわね。確かに……そうですわね。いいかも……」
「あ、いい考えだよね! じゃあペルちゃんが引き取るってことで。猫ちゃんになろうね」
「ネコ……ネコ……ふ、ふふ、ネコ……」
「今日ね?」
「今日ッ!!!???」
よし、こういう値段が異常なやつはね、ペルちゃんに押し付けておこう。前はリアちゃんに被せたいが故に貰っちゃったし、そのお返しってことで。ね!
「あら、ちょっと目眩――――」
「あ? え? ちょい真弓!? え、本当に倒れた!! わわわ、保健室! 保健室――――あれ、凄い熱あるじゃん!!」
「ほえ……」
「ほえ、じゃなくって! 熱! 昨日何時までやってたの!」
「……さんじ?」
「かーーー…………!!! その結果がこのザマとは、真弓ともあろうものが」
「あら、抱っこ、抱っこ……? 今わたくし、ネコになりますの? 今日って、今ですの?」
「バカ言ってないで、ほら保健室!」
ちょいちょいちょいちょい、真弓ってば日頃から無理してて疲れてるのに、なーに深夜三時までおにーちゃん達と特訓してんのよー! なんだかさっきからふぅだのはぁだのおかしいなーと思ったけど、全くもう……。あー……えっと、真弓のとこの、なんて言ったっけ。吉田さんだっけ、あのイケオジ……。迎えに来てもらわなきゃ。えっと、まずは真弓を……よっこいしょっと。
「まあ、まあまあまあまあ、お姫様抱っこ!? もうベッド直行? 直行ですの? 大胆ですわ~……」
「あーあー。もうほんっと、完全に駄目になってるわこれ。荷物は後で吉田さんに持たせるから。ゆっくり休むの、良い?」
「へう……?」
なんだか周囲が騒がしいけど、それより真弓がハイパー熱出しポンコツお嬢様化してるから、ほれほれ、どけどけ!! 見せもんじゃないんだぞ!
◆ 自室 ◆
明日学校に行きたくない。真弓のせいだ。私、真弓をお姫様抱っこして保健室まで連れてったの、同級生とか先輩とかにガッツリ見られてたんだわ。死にたい。いや、どん太達の為に死ねない! 私にはどん太達が居る!!
明日の準備よし、戸締まりよし、洗濯よし、体調よし、何も問題ないなっ!! 朝の一件以外、なにも!!! ん、あれ、吉田さんからメッセージ入ってる。気が付かなかった。なんだろ?
『天音様、お嬢様の体調不良の件、朝の時点で我々がチェックせずに送り出し、天音様に大変なご迷惑をおかけしましたことを心よりお詫び申し上げます。お嬢様は現在、熱も下がり始めたところで安静にしておられます。また、この度の一件につきまして、些細な品ではありますが、感謝とお詫びと致しまして、天音様がご贔屓にされております【GOTHIC & LOLITA社】で扱えるポイントと、未発表モデルを含めましたカタログを天音様のVRダイブ端末にお贈り致しました。是非、ご利用下さい。本日は真弓お嬢様の一件、誠に感謝致します。吉田一夫』
――――本当だ、端末になんか、届いてる……。むしろ今まで私がお世話になりっぱなしだったんだから、当然のことをしたまでなのに……。ん、まあでも、向こうも向こうで面子っていうか、そういうのがあるよね。お返事を当たり障りなく書いて送信しておこう。そして私が喋るの苦手なのを察してメッセージで送ってくれた吉田さんの心遣いよ……。諸々、ありがとうございます……! 受け取りました! と、言うわけで!!!
『バイタルチェックスキャン開始……問題ありません』
『東京都の明日の天気は晴れが予想されます。降水確率は午前午後共に0%です』
『ダイブ前チェックリストにすべて問題がないと回答を頂きました。バーチャルダイブシステムを起動します』
いつもなら高くて手が出せないゴスロリ社の商品! ひゃーーーいっぱいみーーーちゃおーーー♡ 未発表モデルもあるんだって!? はよ開いて! はよはよーはよはよーーー!!!
『バーチャルダイブシステム起動……ゆっくりと、目を閉じてください』
『バーチャルシンクロ開始……完了』
『ようこそ、仮想現実空間へ。GOTHIC & LOLITA社のプレミアムカタログへのログインが要求されました。ID確認中――――承認済みIDであることが確認されました』
おおぉぉおおお~~~!! どうしよう、もうここにアクセスしただけで私、優越感にどぼーーっと浸った感じ……。んんん~~~~…………。最高……。幸せ……。VRダイブでネットショッピングすると、実際の店舗と瓜二つの仮想現実空間を見て回ることが出来るからね、もう本当に楽しい! 喋りかけてくる店員さんとか居ないし、もし喋りかけてきて欲しいならオプションから呼び出せば来るし、まあ来て欲しくなんかないけど!
誰にも見られず、心ゆくまで自分の好きなものを見て回ったり、試着したり、物色するだけでも最高……! 最高~~…………? あれ、このどどーんと展示してあるやつ、バビロンちゃんが着てた正装に似てる……。似てる! というかこれだ!!! え、え? え? 未発表モデルだ、12万円!!??? 限定1着、ひょえ……ひょえ……ほしい……。私用のサイズに直してもらえたりする? するって、うおわおわおわほおぉぉおお~~!!! ん゛っ゛……12万円もあるわけない。駄目だよ、毎月の仕送りは貯金するの、いざって時に使うかもしれないでしょ。駄目だよ私……。ダメダメ、使っちゃダメなの。
『熱狂的大人気VRMMORPG、メルティスオンラインにご登場されております『魔神バビロン様』がご着用の未発表モデルです。上質な手触りに主張しない、かつ存在感があるフリルに拘った――――』
待って……10万ポイント入ってる。待って待って、これに今まで私がいろんなキャンペーンとかに応募して溜めてたポイントも加算すると、11万ポイント……。1万円払えば、手に入るってこと……。アホほど高いやつでも4万前後ぐらいなのに、3倍以上――いや、たかだか3倍で手に入るってこと!? ん、ぐ、うぉ…………――――
『ご購入ありがとうございます。現在お客様がログインなさっている体型に合わせ、サイズや一部デザイン (主に胸部になります)を変更し、職人とスタッフによるチェックが済み、出来上がり次第配送致します』
か、か、買っちゃっちゃ……。買っちゃ、買っちゃっちゃ……! うへ、うへ……へへへ…………!!! アクセサリーと、靴も付いてくるって! あれ待って、カート内の元の値段が12万円じゃないんだけど。え、プレミアムカタログログインのボーナスとか、初回購入特典とか、諸々の割引が効いて70%オフで12万円ってこと? へ、あ、嘘、おげ、吐きそう……!!! 良かった、12万円で良かった、本当に良かった……!!!
――――あ。私が使ってるVRダイブマシンの色違いが置いてある……。【GOTHIC & LOLITA WHITE MODEL】、ごすろりほわいと……。ひっ!!!???? ひっ……値段、ねだ、あ……あ……!? みみみ、見なかったことにしよう。見ちゃダメな値段だった。ヤバイ、これ以上ここに居ちゃいけない! バビロンオンラインに帰る、バビロンオンラインっていう暖かい場所に帰る!! ここは、ここは私みたいな金無し女子高生が居て良い場所じゃない!!! 今度からエアショッピング、エアショッピングだけにしよう。見て、物色して、試着して楽しむところだよここは。いけない、これ以上いけない……。
『バビロンオンラインのプレイがリクエストされました。GOTHIC & LOLITA社のプレミアムカタログからログアウト処理中……。ログアウトしました。ご利用ありがとうございました』
『バビロンオンラインへアクセス中……リンク完了』
ふう……。危なかった、魔境だった……。良かった、歯止めが効く内に帰ってこられて。それにしても、ゴスロリ社の提供だったんだ、バビロンちゃんのコスチューム。なるほど、コラボするわけだわ……。あ、そういえばアバターガチャも今度更新されるんだっけ? もしかして、ゴスロリ社とコラボ関係のだったりして!
『よくぞ帰ってきた! 妾の主である魔神バビロン様より、プレゼントを預かってきたのじゃ! こっそり覗いたが、よいものじゃったぞ――――あっ!! 覗いたりなんかしてないのじゃ! はよう受け取れ!!』
『バビロンちゃん(……の、代理のカジノの女王えきどにゃ)からの! デイリーログインボーナス9日目【鑑定鏡 (10回)】』
『さらばじゃ!!! ぜ、絶対に覗いたなどと言うでないぞ!!』
んふ…………えきどにゃ様、お茶目なんだぁ……。そっかそっか、こっそり覗いちゃったか~……ふふ、可愛いね! リアちゃんに教えようかと思ったけど、流石に可哀想だからやめておこっか!
◆ ローレイ・ギルドルーム【ロビー】 ◆
ん……。ん? あ、そうだった。昨日ローレイ側で落ちたんだったね。こっちにほぼ全員居るから、こっちスタートにしようと思ってたんだった。えーっと、皆の様子を見てみようか?
『(人´∀`).☆.。.:*・゜』
「うわびっくりした! おにーちゃんか、ただいまー!」
『ヾ(*´∀`*)ノ』
うおおう、おにーちゃんが出待ちしてた! さもインテリアでーすみたいな感じで立ってるんだもん、驚くわ! 全く、貴方もお茶目さんなんだからもう~……好き!! んじゃ、全員の場所! どーん!
・どん太:良好、ローレイ・魔神殿1階、究極に親密
・オーレリア:良好、バビロニクス・カジノ地下闘技場、究極に親密
・フリオニール:良好、ローレイ・魔神殿【ギルドルーム】、究極に親密
・姫千代:良好、ローレイ・食堂、究極に親密
・マリアンヌ:憔悴、ローレイ・マグナの研究所、とても親密
マリちゃんが、マリちゃんが憔悴状態だ……!? え、どうしちゃったの!? やばいやばい、これは見に行かないと!! おにーちゃん行くよ、マリちゃんが大変だ!
「おにーちゃん! マリちゃんどういう状態か知ってる!?」
『(ヾノ・∀・;)』
「あ、ヤバ……。ちょっとマリちゃんの様子がおかしいの、行こ!!」
『ε≡≡ヘ( ´Д`;)ノ』
どうしちゃったのよマリちゃん~~!! まさか、寝てない!? 寝てないの!? 寝てなくてマグナさんに怒られて大惨事なの!? ああああ心配だ、心配だよ~~!!