砂漠ギルド
本編に入りました。
よろしくお願いしますっっっ!
砂嵐の舞う砂漠で1人の少女は荒れ狂うドラゴンと戦っていた。
少女は自分の身体の10倍以上のドラゴンに怯みもせず、自分の愛用している大剣で獣の体力と体を削ぎ落としていく。
そして、苦しみ鳴くドラゴンの首を10分としない内に撥ねた。
少女は肩で息をする様子もなく、討伐の証拠である爪や牙を慣れた手つきで捌いていく。
そして最後に「汝の魂を天に導きたもう。静かに眠れ」と呟くとその肉塊から離れていった。
風に舞う少しクセのある髪は少女を邪魔する様子もなくただ流れるようにそこにあった。
だが、切り揃えられていない髪からは不器用さと孤独が垣間見える。
その少女、名はアキラと言った。
同時刻、青年は少女のドラゴン討伐の様子を見ていた。
フードに包まれ、身を守るが如く身体中に布を巻いていた。
そして少女の戦いをじっと見つめていた。
少女が何かを呟き去っていく姿を見て青年は思わず美しいと思った。
指先まで洗練された動きに魅入った。
そして、彼女こそ探し人を見つけてくれるのではないかという希望さえ湧いてきた。
青年は少女を見失うことのないように、しっかりと少女の後についていった。
少女が、自分の存在に気づいているとも知らずに。
珍しい青い瞳と首元にあるエラの持ち主。
人間の村で育った少年の名はルカといった。
アキラは自分をつけてくるモノの存在に気づいていた。
あれだけ視線が痛かったのだ。
気づかない方がおかしい。
だが、同時に自分に害を成すモノではないこともわかっていた為無視していた。
ギルドに入る前に、アキラは身体中についた砂埃をなるべく叩いて落とした。
ギルドのドアを開けたアキラは換金所まで一直線に向かう。そして、依頼された竜の爪やら採集物を置き、受付嬢から番号の書かれたカードをもらいギルドの端っこにちょこんと座って待機していた。
もっとも、彼女は身長もあり、威圧感もあるのでちょこんとでは絶対ないのだが。
「アキラさ〜ん。換金できましたよ〜。」
名前を呼ばれ声の主の方へスタスタと歩く。
「アキラさんたら、砂竜まで倒しちゃうなんて…。アレ結構討伐しにくいって噂だったんだけど〜…」
止めなければ永遠に喋る受付嬢に少し頷きつつ、アキラはお金を渡されるのを待っていた。
「やだ、私ったらはしたない…。はい!今回の報酬!来月には〜」
話は受け流し、お金を受け取ったアキラは会釈をしてギルドをさっさと出て行った。
アキラは先ほどの相手に返事をする隙間を与えない弾丸トークをする人が苦手だった。
確かにちょっと彼女は口数が少ないかもしれない。
しかしあの受付嬢の前では会話が成り立つ人が少ないだけである。
カランカラーン
「マスター、久しいな。リリカは元気か?」
ギルドの近くには宿屋がいくつかある。
アキラは自分の行きつけの宿屋のドアを開けると、そこには見慣れたマスターがいた。
心なしか店内の客はアキラに注目した。
「久しぶり、それからいらっしゃい。いつもうちの店を贔屓にしてくれて、ありがとね。リリカなら…」
マスターがカウンター奥の方を指差そうとした時、
「アキラさーん!」
勢いよく可愛い女の子が飛び出してきた。
「アキラさん、またすごいやつ倒したって聞いたよ!えっと…砂竜だっけ⁈」
彼女がはしゃぎ始めた途端、店内がざわめきを隠せなくなっていく。
「砂竜って砂ん中に隠れるから討伐しにくいって言う?」「その小型のやつは5体でBランクに入ってるぜ?」「アキラってあの龍殺しの?」
彼らのざわめきに紛れて1人、アキラの近くまで来た。
そしてぼそっとつぶやく。
「依頼がある。話だけでもしてくれないか?」
アキラは彼を見つめると首を縦に振った。
そして、彼は何事もなかったように店の喧しさに霞んでいった。
(さっき私をつけてたやつだ…)
と思ったものの、アキラは口にしなかった。
さっきの男が不自然にカウンター机に置いた手があった場所を見ると、紙切れがあった。
“305号室”
(ここに来いってことか。…いいだろう)
アキラは紙切れを見ると、口の端を上げた。
彼女にとって依頼が来て単純に喜んでいる表情をしているつもりなのだろう。
だが、近くにいたマスターとリリカ以外の奴らはその顔を見て、寒気を覚えた。
当たり前だろう。
その顔はどう見ても獲物を見つけた獣の様な顔をしていたのだから。
アキラは丁寧に紙切れを折りたたみ、ズボンのポケットに入れた。
「マスターいつもの頼む。」
いつものってなんかカッコよくない?
「飲み物はどうする?」
「んー、おすすめで」
アキラは特に気に入っているものがないので、いつもおススメを頼んでいる。
お酒?ん?なんか言った?
「分かった、ちょっと待っててね。」
アキラはマスターに注文し終わるとリリカの方を見た。
「今日はまだ、部屋空いてるか?できれば泊まりたい。」
リリカは部屋と名簿が書いてあるノートを取り出すと、確認し始める。
「えーっと…空いてるよ!103号室と、306号室。」
リリカに聴くと、すぐ返事が返ってきた。
(さっすが宿屋の一人娘。もう仕事が様になってる。)
「じゃあ、306号室でお願いしよう。」
「わかった!お代は後払いにする?」
この宿屋では信用している客は後払いができる。
本当に信用されてないと無理だけど。
「忘れそうだから先払いで。」
「おっけ!中貨3枚です!」
アキラはリリカの手の中に中貨4枚を置いた。
「ん?一枚多いよ?」
「チップだよ。今後もよろしく。」
「んもー。」
リリカは人タラシなんだからぁと呟く。
そして丁度注文が入ってしまったので行ってしまった。
リリカが注文を取るのを目で追った後、マスターが料理を持ってきてくれたので、アキラは食事を摂ることにした。
店が少し静かになってきた頃。
注文が途切れたのか、リリカはアキラの隣に座ってきた。
ちなみにアキラは食べるのが遅い。
食事くらいはゆっくりしたいのである。
リリカが座るその時も、もぐもぐしていた。
[[[可愛い]]]
「ねーアキラさん、ま〜た身長伸びた?」
「……そう、かも。」
内心では身長が高いのを少し気にしているのか、ボソボソと返事をする。
「ここに来るたび伸びてるよねぇ。いいなぁ〜。私なんてアキラさんと出会った頃からちょっとしか伸びてないのにぃ。」
アキラはリリカをチラッと見る。
そして目の前のまだ半分くらい残っている料理に視線を戻す。
「そうかな。」
アキラの半笑いの返事にリリカは言った。
「なんで苦笑いしてるの?格好いいのに……。!ロングスカートとかワンピースとか履いてみたら?」
目をキラキラさせてリリカが言うものだからアキラはその勢いに圧倒される。
「えっ?い、いや私そういうの得意じゃないし…戦いやすさ重視で服を選んでるからなぁ…」
正直女の子っぽい服は苦手だそうです。
「それに今はそういうの興味ないし…。」
「恋愛とかしないの?」
突然リリカがぶっ込んできたのでアキラはギロリとリリカを睨む。
「リィーリィーカぁー?」
「キャー((棒))」
アキラの睨みにリリカはこわ〜い!というように笑顔で反応する。
本当に…と言いながら、ポスっとリリカの頬にパンチを喰らわせる。
ムニッ
「リリカこそ…縁談はどうしたんだ?結婚が決まってたって1ヶ月前に言ってた気がするけど?」
リリカは動きを止めると目を伏せる。
「それは…お断りさせてもらったの。」
「何で?」
リリカは少し黙り込むと、気まずいのかゆっくり口を開く。
「実は…話では見せて一緒に働くのが結婚の条件だったの。だけど…2週間前かな。
あの日、私はいつものようにここにいて、仕事をしていたの。そしたらいきなりドアが開いて、彼がいたの。なんて言ったと思う?店なんかで働かない!そんなのほっといて俺の家に来ればいいだろう!って。
意味わかんないよね。だから私我慢できなくて。」
「………そっか。」
「それにね!あの人女癖悪いことで有名だったんだよ!っていうかアキラさん狙いだったのかも…私に情報が回らないようにしてたみたいだったけど…あの時、『ふざけないで!!!!って勢いで断ってよかったよまったく…」
アキラは自分の情報は聞き流すことにした。
「リリカはここを継ぐんだもんな。」
リリカは一人っ娘であり看板娘である。
まだ16歳だが、宿の仕事は幼い頃からマスターと2人でずっと頑張ってきたのだ。
今更店を捨てられるわけがない。
「他にもっといい人見つけるもん。…いっそのことアキラさんがお嫁に来る?」
アキラはジト目でリリカを見る。
(ここまでアキラの表情はあまり変わっていませんw)
「やめてくれ。私が料理ができないのは知ってるだろ?力加減が難しいんだ。迷惑かけるよりかは客の方がずっと良い。」
アキラは冒険者、ハンターである。そんな彼女の食事はほぼ、宿に頼りっぱなしである。
野宿も、もちろんする。
しかし野宿の時は、狩った魚や肉を捌いて食べるだけ。
そんなアキラが料理スキルを持っているはずないのだ。
「けどアキラさん掃除とか洗濯とか特技でしょ?ねぇ〜お金は出すからさぁー。」
そう。
アキラはハンターであり何でも屋なのだ。
仕事上料理以外はお手のもの。
掃除《こ●し》に洗濯とかまぁ得意でしょうなぁ。
ころ●?ううん…半●ろし…かな。
息の根は止めたことないよ!
諜報員なんかもやっている。
ある時はメイド、ある時はウェイター、ある時は剣士、ある時は謎の情報屋、ある時は盗賊殺し、etc…と幅広いのである。
だが、そんな彼女の本当の顔を知るものはリリカと数少ない者だけだ。
もちろん失敗はしたことない。
腕利きの何でも屋なのである!
「有名なお屋敷に突然現れたメイドさん。不定期でバイトをしているなぜか見かけるウェイターさん。神出鬼没の仮面剣士。顔は確認できない謎の情報屋…それがここにいるなんて誰も思わないでしょ!」
「リリカ…秘密だろ、それは。」
興奮してお喋りの過ぎるリリカに、アキラはムッとして顔を顰めた。
(実際には眉毛が少し動いただけですけど…)
「わかってるって!大丈夫だよ!私だってアキラさん専属の情報屋だもん。」
表は宿屋の一人娘、裏ではアキラ専属の情報屋。
彼女はこう見えて、器用な性格をしている。
(こう見えてって何よ!ヽ(`Д´)ノプンプン)
わかるものには見えるのだ。
宿屋の看板娘は笑顔を絶やしたことがない。
しかしわかる人にはわかるらしい…
(本当に少数ですけどね。誰がこんな可愛い子が情報屋なんて思うんでしょうかねぇ)
少し、…………いや、結構遅くなってしまったが、先ほどから大人っぽいというか男っぽいというか…圧))なんでもないです。
まあしゃべっている主人公さんはですね、髪が短く、大人っぽい見た目というか成長しているというか圧))ごめんて。
そんな吊り目の彼女はアキラ。
先程の会話通り、ハンター兼便利屋である。
料理と水泳は苦手だが、その他はほぼ何でも出来てしまう多才な少女(?)である。
褒めてるよ?褒めてるからね?
口調は可もなく不可もなく中性的。
装飾に気を配る様子を見せたことがないくらい自分に無頓着。
ただ、必要とあらば、布から服を作るぐらい器用である。
他人に採寸というかサイズを知られたくないそうです。
何故ならば、
一般には凄腕のハンター、整った目鼻立ちの女性などと言われ人気爆上がりだが、本人はそのことをあまりよく思ってない。
その中には、訪れる街々で、大量のラブレターにプレゼントが用意されていて中身が自分にぴったりの服や下着だったことや、ストーカー被害という災難に遭遇してしまったりと嫌な思い出があるからだという。
そして隣に座る髪を結っている元気な少女はリリカ。
宿屋の一人娘で、アキラとは仲良しである。
アキラが人気なことは重々承知しているが、それでも心配なので情報屋として依頼主の観察をして吟味する。
彼女は専属の情報屋として、主に情報の収集、交換や依頼の取り扱いをしている。
まぁ情報が欲しければ合言葉が必要ですがね。
この2人の出会いは後々…
リリカはアキラに言いたかった要件を口にする。
「そういえば来なかった間の依頼が溜まってるよ、どうするの?後、さっきの人、明らかに依頼だよね?…断る?」
「いや…とりあえず話を聴いてから考える。…もし受けるんだったら長旅になるかもしれないな。」
「そう、だよね。…寂しいーなぁー。」
アキラがこの宿に来るのは1ヶ月に2、3回と少ないが旅となると、戻る暇がなくなる。
もちろんすぐに駆けつけることはできなくなってしまう。
1人なら身軽なのでアキラはリリカに会いに来るだろうが。
そしてアキラもリリカも彼の首元にあったエラにとっくに気がついていた。
「海か霧の村だな。」
「うん。」
アキラの憶測が正しければ彼はここから遠く離れた場所を探しているかもしれないのだ。
水関係の印を持つ彼は親兄弟に会いたいのか、それとも…
真実は彼の口から聴かなくてはならない。
やっと食事が終わったアキラは席を立つ。
「じゃあリリカ、話を聴きに行ってくるよ。」
「いってらっしゃい!」
アキラは宿舎のある別館へと歩いて行った。
「旅じゃなければいいのに。」
リリカがそう呟いているとも知らずに。
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