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第4話 理沙の幼馴染と死んだ妹と

 後日、呼び出された俺の目の前に女子高生、本条理沙が珍しく、もじもじしながら、おねだり視線を浴びせる。嫌な予感がしたのだが、彼女の本当の目的は、この案件だったようだ。幼馴染の少年が最近交通事故に遭い、ケガをした。そこで、後遺症が残って体に障害が残ることもあるという。だから、交通事故を起こさない方法を俺に考えろ、という話を持ちかけてくる。


「その幼馴染に惚れているのか?」


 俺は、弱みを握ることができた! とばかりに問い詰める。


「彼には最近彼女ができて、彼女は私の友達なんだ」


 どうにも照れくさそうに少しさびしそうに話をする様子を見て、


「三角関係なんだな。でも、思いは伝えていない。いや、友達を応援しないと、という臆病で、やたら正義を振りかざす友情ってやつか」


「ちょっと、そんなんじゃないよ、知り合いを助けたいという気持ちは純粋に誰にでもあるでしょ」


「じゃあ、その彼のこと何とも思ってないの?」


 理沙は正直で下を向く。意外とかわいいところがあるようだ。口には出さないけれど、好きという気持ちが隠しきれていない。その表情を見つめながら俺は笑う。


「ちょっと、何笑っているのよ?」


「どうして、俺の家族を助けるのを優先させた? 自分でまず幼馴染をたすければよかったのに」


「だって、ライト君の家族は亡くなっているけれど、幼なじみは生きている。それに、意識もあるから。本当は、怖かったの。不思議なスマホを持っても、私一人ではどうにもならない。でも、友達でそういった頭脳をもっている仲のいい子もいない。そんなときに、新聞記事で火災のニュースを知ったの」


「なるほど、俺は実験台ってことか。たしかに、リスクや不利益があるかもしれないしな」


 俺はわざといじけた表情をしてみる。


「そういう意味じゃないの。でも、私一人で使いこなせる自信がなくて、優しくてお人好しで真面目で優秀な頭脳を持った人ってライト君しか知らなかったし、一人より二人って思ったのよ」


 必死に弁解する理沙を見て楽しむ俺。


「わかったよ。でも、これはボランティアでやってやる。お前がいなかったら俺の家族は死んだままだったんだから。これで貸し借りなしだ」


 すると、理沙の顔がぱあっと明るくなった。わかりやすい奴だ。幼馴染の男もちゃんと想いを受け止めてくれるといいのにな。自分に彼女もいたこともないのに、やたら他人の恋には敏感な気持ちになる。


「じゃあ、病院に行って早速本人と相談しようか」


「彼、結構冷めていて、そういった話を信じてくれないかも」


「じゃあ、その彼のことを俺に教えろ。どうやってアプローチするか、今の本人に知らせずに過去の彼に教えたほうがいいのかも含めて検討してやる」


 いつのまにか不思議なスマホを使った解決人となった俺は、色々思考を巡らせる。


「幼馴染の名前は、草野豊。私の近所に住む高校1年生。豊の彼女はマイちゃん。私と同じ高校に通うクラスメイトで、豊にひとめぼれして、告白して、つきあうことになったというわけ。交通事故は1週間前の夕方、このあたりで車に接触したの。それで、足に後遺症が残ると、歩くときに一生足を引きずることになるかもしれないって言っていたの。だから、助けてあげて!!」


 少々必死な理沙を見て俺はちゃんとこの時代の本人に伝えたほうが理沙のためになるような気がした。


「やっぱり、この時代の本人に伝えよう。理沙のおかげで事故に遭わないと知ったら、絶対好きになるはずだ」


「そんなわけないでしょ。マイちゃんがいるし」


「マイちゃんのこと、豊が好きっていうのは告白されたから付き合おう程度かもしれないし。充分お前に可能性はあるぞ」


 俺は恩人の恋路を応援したくなった。もちろん、そういった経験が自分自身ないし、女友達もあまりいないのに、応援だけは一人前だ。


「入院先の病院に行こう」


「でも、信じてくれるかな?」


「俺の頭脳に任せろ」


 彼の入院先は市内の大きな病院の一室だった。外科入院病棟に見舞いを装い行くことにする。理沙はいつもと違った緊張した表情で向かう。いつも余裕の笑みを浮かべている理沙が緊張しているという様子は少し意外だった。案外、恋に関しては奥手らしい。彼の病室に向かうと、ちょうど豊一人しかいなかったので、話をしやすいと俺は密かに手ごたえを感じていた。


「こんにちは、大丈夫?」


 あくまでもクールに装う理沙が少しおかしくも思える。女子って好きな人の前だと意外にもおとなしくかっこよく装うという点は男子と同じなのかもしれない。お見舞い用のお菓子をさりげなく渡す。多分、この商品を選ぶのに時間をかけてじっくり選別したのだろう。俺は勝手に予想した。


「こちら、知り合いで大学生の影野光かげのらいとさん」


「はじめまして、草野豊です」


「こちら、お前の彼氏か?」

 豊がからかうように質問する。


「違うよ、実はすごいことができる人なの。過去の自分と連絡がとれるスマホを持っているので、今日は連れてきたんだ。事故がなかったことになるかもしれないでしょ」


「どういう意味?」


 不思議な顔をした草野豊。


「実はこのスマホを使って過去の草野君に連絡を取ろうと思う。そうすれは、事故を回避できるだろ」


「言っている意味がちょっとわからないというか……そういった空想的な非科学的なことは信じない主義で」


「この人、日本一難関と言われる難関大を現役合格した理系男子だよ」


「俺も難関大を目指しているんで、話を聞かせてもらえませんか?」


 草野が食いつく。なるほど、難関大の生徒と言えば草野が食いつくとわかって俺を選んだのかもしれないな。俺は、意外にもちゃんと色々考えているJK理沙の計画性について見直した。


「このスマホで俺の家族は生き返ったんだ」


 あまりにも突拍子がない話だったので、草野は突っ込むこともせず、ただ俺を見つめた。


「実は俺の家は火災で全焼して、俺以外の家族が死んだ。しかし、このスマホに出会って、過去の自分と連絡して犯人を捕まえて、火災を阻止した」


「まさか、そんなファンタジーな話ないですよ」


 彼は驚く。それはそうだ。しかし、ここは何としても信じ込ませないといけない。


「じゃあ、君が話したい人で、今はもうこの世にいない人と連絡してみないか?」


「死んだ妹がいるのですが、妹と話ができますか?」


「相手が話すことができる年齢ならば大丈夫だ」


「妹は病気で亡くなったから、その事実を変えることはできないですよね?」


「それは、難しいよね。連絡するだけで直接病気を治すとか、事故から自分が守ることはできないけれど、声を聞くことはできるよ」


「そうなのか、俺は普段そういったことを信じないタイプなんですけどね。でも、声だけ聞きたいな」


「じゃあ話したい年月日を入力して。あとは、電話番号」


「妹は携帯電話持っていなかったし、自宅にかけて代わってもらうのも怪しい人だと思われそう」


「兄として妹に用事があるからってかけてみたら?」


「でも、2年前と俺の声も変わっていると思うし」


「大丈夫。意外と電話の声って特徴でしかわからないものだぞ。電話で詐欺が流行っているだろ。見えない分、身内だということを勝手に信じてしまう人間の心理があるってことだ」


「じゃあ、どうせ、今の家族にかかるっておちだろ」


「でも、妹と話したいから君はスマホに年月日を入力しているんじゃないのか?」


「家族が出かけている可能性もあるしな。過去のこの時間に在宅しているか覚えていないけれど、多分夕方以降ならばいると思う」


 理沙は真剣な表情で見守る。きっとこの少年のことが大切なんだな。だから、幸せになってほしいという気持ちだろう。


 少年の手は少し震えているように思えた。半ば強引に勧められて電話をかけているだけなのだが、やはり信じ切れていないような顔をしている。ここはフリーハンズにしてみんなで聞いてみることにした。


「あ……つながった」


 少年は不思議そうな顔をしながらスマホを片手に耳を澄ませる。俺たちも真剣に見守る。


「もしもし、草野です」


 お母さんの声のようだ。


「もしもし、俺だけど。いぶきいるか?」


 いないはずの人間の名前を言ってみる。普通の電話で自宅にかければいるはずはない相手の名前だった。


「豊? いぶきにかわるよ」


「おにーちゃん? いぶきだよ」


 小学生低学年のようなかわいい女の子の声だ。いぶきちゃんがいたようだ。やはり、過去につながっていたのだ。


「いぶき、何してた?」


「いぶきはね、今テレビ見てたよ」


「何を見てたんだ?」


 涙があふれそうになるのをぐっとこらえる豊の姿があった。


「うたのテレビ」


「いぶきは歌が好きだったからな」


「また、いぶきにかけてもいいか?」


「毎日会えるのに?」


「いぶき、体を大事にしろよ」


 ただいまーという声が聞こえる。その時代の豊が帰ってきたらしい。


「じゃあ、またな。元気で」


 そう言ってスマホを切る。これはとても不思議だが、話したいけれど今は話すことができない相手と電話をするという極上の不思議な時間だった。豊は目頭を押さえた。


「ありがとうございます」


 深く礼をする彼からはお金で買えないものをもらったような気がした。


 このスマホはお金で買えない大切な時間を与えてくれるものだということをいまさらながら実感した。きっと、死んだ大切な人と話したい人はもっといるはずだ。そういった時間を届けられたらいいのに、そんなことを考えていた。でも、このスマホが表ざたになれば、スマホの奪い合い、盗み合いということも考えられる。やはりあまりたくさんの人に教えないほうがいいだろう。

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