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第3話 妹のスマホと未来への希望と

 妹のあかりに連絡を取る。自分がだめでも妹がいる。それに、俺だってあんなメールをもらったらやはり当日は警戒して、その時間には帰宅するだろう。あの日は研究室の実験が長引いたが、何かと理由をつけて帰るような気がする。俺自身だったらの話だ。しかし、過去の俺が同じことをするかはわからない。


『未来から連絡している兄だ。妹に大事な連絡がある。今年の2月2日夜10時に火災が起きる。だから、その時間は避難してほしい』


『知らないアプリだと思ったけど、もしかして出会いの広場の方ですか? 兄のふりなんて新しいですね。私はJKやってます。彼氏募集中だよっ』


 ずいぶん能天気なメールだ。しかし、この文面からすると、妹は彼氏を求めるがあまり、出会いの広場というものに登録して見ず知らずの人とメールを交換しているのか? 妹の知られざる一面が見られた。


『俺は、未来の影野光だ。その時代の俺自身にも連絡したが、なかなか信じてもらえない。一家全焼、俺以外全員死ぬ。だから、家族に避難するように伝えてほしい』


『はぁ? 迷惑メールですかね? あまりからかうならばメッセージ拒否にしますよ』


 妹、全然信じてくれない。というか出会い系をやっていたならば、そこで個人情報を特定されてストーカーされているのでは? 


『最近、ストーカーがいるなら気をつけろ。住所を特定されると放火されるぞ』


『もしかして、本当にお兄ちゃん? 私、たしかにストーカーまがいなことがあって。でも、出会いの広場の話を言えなくて、誰にも相談していないの』


『そいつには偽の情報を与えろ。住所をすでに特定されているならば、その時代の兄に相談しろ。既に過去の自分に火災のことはメッセージで知らせている』


「意外と妹ちゃんって遊んでいたんだね。でも、そういった相談ってしにくいよね。出会い系なんて親兄弟に一番知られたくないだろうし」


 JK理沙は納得している様子だ。


『妹にストーカーしている男がいる。警戒してほしい』


 シンプルなほうが俺自身が納得するだろう。そう思って詳しい内容は伏せて過去の自分にメッセージを送った。


 それ以降、過去の妹からも自分からもメッセージが来ない。そして、スマホは俺が持ち帰ることにした。いつ過去から連絡があるかもわからないからだ。そして、当日の夜に時間を合わせて、自宅の電話に嘘の電話をして、一家を避難させようと俺は考えていた。もし、過去の妹と自分に信じてもらえなかったら、家の電話に犯人を名乗る男として放火予告をすれば家族は警戒するだろう。そして、警察のほうにも怪しい人物がいるということを通報すれば見回りにくると考える。


「もし、これが失敗したら、またやり直しできるのかな? 過去の事件の時刻が変わっていたとか、よく物語であるよね。その辺は大丈夫なの?」


 理沙は素朴だが大切な疑問を投げかける。


「マニュアルを調べよう」


 俺は質問を入力する。


Q「思ったようにならなかった場合、何度も同じ時期の過去に連絡ができるのか?」

A「できますが、同じ失敗をしないためにもう少し過去に遡って連絡したほうがいいと思います」


Q「すでに過去が変わっているということはありますか? 例えば事件の時刻が変わっているとか」

A「過去が既に変わっていることはないです。しかし、もっと未来の誰かが、このスマホで時間を変えていれば変わる可能性もあります」


 なるほど、もし失敗すれば、もっと前の自分と接触して信じてもらうというのもありなのか……。しかし、もっと未来の誰かが変えていたら、過去も変わってしまうかもしれない。俺の火災事件は最近起こったことなので、比較的誰かが操作するという可能性は薄いような気がする。そんなスマホがこの世にたくさんあるはずもなく、あえて俺の一家全焼事件を助けようとするものはいない。俺は希望を少し見いだせたような気がした。このスマホと女子高生が俺に希望の光を与えたのだ。


「じゃあ、ライトさんの電話番号を教えて。影野光って影の中にある光みたいで本当はあるのに見えない、みたいな不思議な名前だね」


「名字と名前が合わさると変な名前なんだよ。小さいころに、よくからかわれた。でも、光があるから影ができるんだよな。そういう元となる存在になれっていう意味でライトって名付けたみたいだけどな」


 理沙のガラケーに俺の番号を追加し、俺のスマホに理沙の番号を追加する。そして、メールアドレスも交換する。自分の問題を解決したら彼女の問題を解決するという条件で、スマホを借りることにした。


 それにしても、俺がこのスマホでできること、家族を死ななかったことにするっていう事実を変えることができるのだろうか。そして、それが解決したら、このスマホでどんなことができるのだろうか? 無限の可能性をこのスマホに感じていた。


 俺は、ホテルに戻り、気になったことを検索する。念には念を。それが信念だ。


Q「スマホが消えることはないのか?」

A「消えることはありません」


Q「何度でも通話ができるのか? 制限はないのか?」

A「何度でも通話できます。誰とでも可能です」


Q「スマホは誰の持ち物なのか?」

A「今の所有者は理沙と光です」


Q「所有権が変わる条件は?」

A「手放したいときに所有権は放棄されます。そして、新しい所有者が現れたら所有権は譲られます」


Q「過去が変わっているという可能性は?」

A「ありません。変わる可能性は未来のみです」


Q「このスマホはたくさん存在しているのか?」

A「この時代に1つしかありません」


 俺は、あの様子では事件当日に過去の自分が動かないかもしれないという思いから、事件当日の時間にスマホを合わせた。そして、自宅に電話をする。まだ夜9時だ。事件が起こる1時間前。


「もしもし」

 今は亡き母の声だ。

「今から、お宅を放火します」


 俺は変声機械を使って電話をする。とはいっても、簡単なボイスチェンジャーアプリを使っただけだ。非通知だし、特定はできないだろう。


「いたずらですか?」


「いたずらじゃありません。夜10時をお楽しみに。避難したければしておかないと、一家全焼、一家全滅になりますよ」


「通報しますよ」


「どうぞ、通報してください」

 

 よし、通報しろ。警察が来るだろう。そして、念入りに過去の警察にも電話をかける。それは、放火予告を宣言するためだ。こちらは時空が違うし、足はつかない。


 俺は部屋の中にいるだけで何もできなかった。そして、そわそわした時間だけが流れた。そんな時に、理沙からメールが来た。


「どう? 状況はかわった?」


「事件当日の実家に電話で放火予告をした。何も見えないから、どうなっているか確認できない」


 そんなやりとりを理沙とメールで行っていた。


――すると、

『放火魔を捕まえた。未来の俺の電話のおかげで警察も動いてくれた。家族も一時避難するべく、その時間は自宅から車で避難していた。放火魔は妹のストーカーだったらしい。俺は、大学の武道をやっている知り合い何人かに声をかけて、家の周りを見回った。君のおかげだ、ありがとう』


 俺の今は本当に変わったのか? 自分のスマホから家族に電話をする。すると、妹が電話に出た。生きていた。そして、両親も当たり前のように生きていたのだ。信じられないのだが、俺は、そのまま自宅に向かう。自宅はもちろん無事で、いつもどおりの我が家がそこにあった。俺は時空を超えてもう一度家族に会える事ができた。俺は、自分の部屋で思わず、喜びのあまり理沙に電話をした。


「よかったね。やっぱり私が見込んだ男だけはあるわ。合格よ。これからは、私のために頭脳を貸してね」


 妙に大人びた冷めた声が聞こえた。理沙は、スマホを使いこなせる人間を探していたのだろうか? まさか、偶然だ。俺が出前授業に行ったから、そして、俺の身に不幸が重なったからだと思う。そう思いたい。


「もしかして、俺を試していたのか? スマホを拾ったのは本当か?」


「スマホを拾ったのは偶然だし、本当よ。人助けだよ。困っている人にスマホを貸して幸せになってもらいたいだけ。本当は色々な人にお金を払ってもらってスマホを貸すバイトをしようと思っていたんだけれど。あなたには無料で貸したのよ。家族が戻ったのだから、お金で買えない幸せよね。あなたのような優秀な人材と不思議なスマホを使えば、きっと世の中が良くなるでしょ。だから、困っている人を助けるバイトを始めることにしたの」


「バイトは禁止だろ?」


「こういったバイトなら、ばれないでしょ」


「さて、代表はライト君ということで、さっそく困っている人をスマホで助けましょうか。バイト代も入ればウィンウィンでしょ?」


 したたかな女子高生理沙は俺の想像を超える知能を持っているような気がした。知識と知能は別物だ。この女子高校生は勉強以外の社会で生き抜く力を持ったたくましく合理的な思考の持ち主のようだ。そして、恩がある故、俺の性格上そういった申し出は断ることはできない。


「さて、さっそく私の友人のことであなたの頭脳を貸してほしいの」


「はいはい、どうせ頭脳だけの男ですから」


「そんなことはないよ、優しそうで華奢な体格は相手を警戒させないタイプとしてうってつけよ!! この時代の光になりましょう」


 やっぱり計算高い理沙は俺の中で、頭のあがらない相棒となったようだ。

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