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第2話 スマホと過去と頭脳と

「まずは、スマホを使って家族に知らせようと思うが、いたずら電話だと思われる可能性が高いな」


 俺は突然の朗報に戸惑いつつ、絶対に失敗しない作戦を立てる。自分のことや家族のことはよくわかっているが、過去の自分に対して失敗はしたくない。


「じゃあ、家族だけが知っていることを話すとか」

 JK理沙が提案する。


「うちの家族は警戒心が強いから、金庫のパスワードのようなものを言えば泥棒だと疑いにかかるだろう。一番信じてくれそうなのが、警戒心が薄い性格の妹だ。ファンタジーな話も好きだからな。しかし、ここは過去の自分に伝えるのが一番いいかもしれない、そして妹に伝えてもらう。しかし厄介なことに、自分自身が疑い深いからな」


「でも、この不思議なスマホの話を案外すんなり信じているわけだから、過去のライト君でも大丈夫そうじゃない?」


 いきなりライト君よびかよ。


「妹は、知らない番号の電話に出ないことが多い。俺は比較的知らない番号でも出るほうだ。まずは自分にメールを送ったほうが早いかもしれない。まず手始めに俺の死んだ祖父にかけてみる。真実かどうかを確かめる」


 俺は、祖父が生きていた3年前の年月日と時間を入力して、祖父の番号にかける。今は使われていない電話番号だ。これが本当につながれば、俺の未来が変わるかもしれない。すると、普通の電話と同じように、音がする。少しすると、トゥルルルル、という音が鳴る。これで祖父が出るかどうかだ。インチキという可能性も捨てきれていない。むしろ、インチキの可能性が高いと思っていた。電話がつながるということは、別な新たな契約者が使っていいるというわけではないのなら……本物だろう。


「もしもし、影野です」

 じいちゃんだ!! 懐かしい祖父の声が響いた。


「元気か? ライトだよ」

「ライトか!! 高校生活はどうだ?」


 3年前は高校1年生。滅多に俺が電話をすることはなかったので、うれしそうな祖父の声が響く。もう少し色々話したかったのだが、ここは家族を助けることが優先だ。


「じいちゃん、今ちょっとやることがあるから、またかけるよ」

「そうか、元気でな」

「じいちゃんも体に気を付けて」


 祖父の死因は病気なので、事故とは違い、防ぎようはない。早期に発見して助かる病気ではなかった。だから、祖父を長生きさせることはできない。不思議なスマホは万能ではないな。使い手次第で有意義な使い方はできそうだが、結構扱いは難しい。


 俺は気になることがあり、すぐにQ&Aサイトに質問入力する。


Q「この電話は番号通知されるのか? 固定の電話番号があるのか? メールアドレスは固定されているのか?」


A「この電話は非通知になっている。特に電話番号はないが、非通知拒否している電話にもかかるようになっている。メールアドレスでやりとりはしない。このスマホ独自のメッセージアプリがあり、その相手には、勝手にアプリがインストールされる。ガラケーでもメッセージは可能」


「そうなのか。ならば、メッセージのほうがいいかもしれない」


 俺は、自分自身にメッセージを送る。それは不可思議な行為だったが、家族を助けるために俺はいい文章を考える。


「それにしても、理沙の目的は町をよくすることなのか?」


 理沙の目的がよくわからなかった。自分でスマホをひとり占めしたほうがいいと思うのに。


「本当は日本をよくしたい、と言いたいところだけれど、私の頭脳じゃそこまで無理。それに、電話番号を知らないと連絡できないから、知らない悪人とか有名人に電話をかけることはできないし。どちらかというと、いじめている同級生を驚かしていじめを辞めさせたいとかそういった小さな願望。でも、一人じゃ勇気がないから、らいと君のような頭脳派とならできるかなって」


「あのなー。人頼みかよ」


「出前授業の時から話したいと思っていたんだけど、連絡先もわからないし……これはきっかけ。もし、こんなに不幸があればあなたは生きる希望を失うかもしれない。私はあなたに生きる希望を失ってほしくないし。あなたをこの世界から失いたくない」


 さっきから微妙に告白されているような言葉を並べるが、恋愛の告白とはちょっと違う。不思議なJKだな。


 生きる希望って壮大な話になっているけど、俺はそこまで彼女に何かいいことをした記憶もない。


「出前授業が生きる希望だったのか?」


「進路相談のときに、諦めるな、自分が好きだと思ったことを続けていれば自然と道は切り開かれるって言ってたでしょ」


「そういえばそんなことも言ったかもしれない」


「日本一の大学生に言われたら、そうかなって思ったの。私は単純だから」


「私は親の決めた大学に行かないとだめって言われていて、やりたいこともなくて……そんなときにやりたいことをとことん追求しているあなたの姿が凛としていてかっこよかったんだよね」


「そんなに褒めても何も出ないぞ」


 俺は少し照れていた。面と向かって自分の意志をちゃんと伝えられる素直な人間は意外と少ない。だから、まっすぐな気持ちで褒められるのは悪くない気分だった。


 俺は急いでスマホのメッセージアプリを起動させる。すると、指定年月日が出る。火事が起こる前の1週間前がいいかもしれない。あまり早すぎても忘れられるし、直前だとメッセージに気づかないという可能性もある。何度かやり取りをして信じてもらう時間も必要だ。


『このメッセージを送っている主は、少し未来の自分だ。信じてもらえないだろうが、これはいたずらではない。その証拠にインストールしたこともない見たことのないアプリが入っているだろう。令和2年2月2日夜10時に我が家が全焼する。出火原因は不明だ。放火犯の可能性もあるらしいが犯人は特定できていない。しかも、俺以外の家族が焼死する。だから、家族を避難させろ。できれば、放火犯に放火させないようにできればいいと思っている』


 俺はメッセージには気づくのが早いし、知らないアドレスでもチェックしてから消去するタイプだ。知らない番号の電話にもなるべく出る性格だ。自分のことは自分が一番わかっている。だから、俺自身に連絡するのが手っ取り早い。両親は携帯のチェックも頻繁にしないので、気づくのが翌日ということも充分ありうる。


 早速メッセージが返ってきた。この時間は部屋で一人で勉強か読書をしていることが多く、きっとすぐメッセージに気づくだろうと時間は夜9時を指定していた。


「本当にあなたは俺自身ですか? 何か証拠を見せてください」


「写真って添付できないのかな?」


 理沙が提案する。たしかに、その通りだ。マニュアルを検索すると、写真の添付はできないとなっていた。視覚で伝えられないとなると、今度は文章でいかに伝えるかどうかだ。小説家は情景を文章で表現しているが、漫画家のほうが絵で表すので、一瞬で伝えることは簡単だ。そんな心境だった。


「生年月日とかじゃなくて、もっと調べてもわからないものがいいんじゃない」


 JK理沙、ナイスアシストだ。


『今、はまっているのは家庭菜園や寄せ植えだが、今は自分で育てた野菜で料理をすることにはまっている。そして、気にしていることは寝ぐせがついて、髪がまとまらないこと』


 自分にしかわからないことを入力して送信した。


『たしかに、俺にしかわからない細かい点を書いている。しかし、本当に火災が起こるのか? 家族が死んだということも信じがたい』


 たしかに、信じてもらうにはどうすればいいのか? 自分に信じてもらい、妹にも協力してもらって、父と母にも避難させたい、どうすればいいのだ? 俺は自問自答を繰り返す。こういうときに知恵と知識というのものが別物だと感じる。参考書には書いていないことを実行することができたり、思いつく人が、本当に頭のいいやつだ。


「その時に、読んでいる本を当てたら」


 JK理沙はなかなかいいことを言う。しかし、俺があの時に読んでいた本を思い出そうとしても複数同時に読んでいた記憶しかない。読書家ということは、それだけ本をたくさん読んでいるのだ。


「じゃあ好きなタイプの芸能人とか、誰にも話していないフェチとかないの?」


「難しいな。あまり芸能人には興味がないからな。フェチ、そんなの別にない」


「本当?」


 興味津々な理沙がまじまじと見つめる。あったとしても、この人の前でそんなことを言う義理もない。


『最近怪しい人物がいなかったか? もしいたら放火の原因になった人物かもしれない。防犯カメラを取り付けるとか、見回ったりできないか?』


 無難なアドバイスを入れてみる。しかし、大学生の息子の一声で防犯カメラを導入するような家族でもないと思う。楽天的な一家だからな。穏やかな性格の人間しかいないので、なにか恨みを買うようなことがあったりしたとは思えない。


「妹って女子高生なんでしょ? 彼氏とかストーカーで怪しい奴いないの?」


 さすがJK視点だ。


『妹にストーカーや恋愛トラブルがないか調べてほしい。2月2日夜に友人何人かで見守りをして放火を防いでほしい、できれば家族を避難させたい』


 過去の自分からの返答が来た。


『うちの一家は夜10時前に就寝するし、その日だけ外泊させるのは難しいだろう。避難したとしても、帰宅したら家がなくなっていたというオチは困る。でも、お前の話を全面的に信じられないので、俺は静観する』


 俺らしい、実に的確な返答だ。今は、不幸の中にいて、動揺しているから、こういった不思議なスマホの話に便乗してしまったが、本来の俺らしい。仕方がない、妹のスマホにメッセージをしよう。俺は、伝えるだけのことは伝えた。でも、自分自身が助けに現場に行けないのはなんとも歯がゆくもどかしいものだ。

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