1章 俺の初恋の相手は最強の女戦士(4)
第4話 彼女は戦士で神官で異能使い
「一応、理由は聞くでござるが……何ででござる?」
ガンダさんは渋い顔で俺にそう言った。
アイアさんは分からないけど。
ガンダさんにはバレバレのようだった。
俺は言ったよ。
こういうときに物怖じするのは、男を下げる気がするし。
「アイアさんが冒険者だからです」
俺の答え。
アイアさんが冒険者だから、俺も冒険者になる。
どうしてそうなる?
そんな事……言わなくても分かるよな。
普通。
ガンダさんはそのあたり、鈍くも何ともないみたいで。
小さくため息を吐いて、俺に言ってくれたよ。
「……正直、ここしばらくウハル殿と一緒に生活して、貴殿は真面目で実直な男だと感じては居るでござるが……」
おお。
アイアさんの叔父さんであるガンダさんの俺の評価は、高いのか……。
俺は嬉しくなった。
お世話になってるからと、礼儀を忘れないようにしたのがここで生きるなんて。
真面目に頑張るもんだよな。やっぱり。
顔には出さなかったけど、俺は少し浮かれた。
頭の片隅で、アイアさんとの仲を取り持ってもらえて、恋人になったり、夫婦になったりした自分を想像してしまった。
……童貞臭いと笑いたければ笑えばいい。事実だし。
そう、明るいことを考えていたら
「拙僧の姪は、少々ワケアリでな」
……へ?
一気に、不安になる一言。
「ワケアリって言うと、すでに結婚してるか許嫁が居るとか?」
俺にとって絶望の流れ。その場合は。
諦めないといけないわけで。
初めて、心から恋い焦がれた女性なのに。
不安な気持ちを抱えながら訊くと
「違う。……あの子は、生涯独身を貫くと公言しているのだ」
……へ?(2回目)
なんで? どーして?
「あの子は、最強の戦士を目指して冒険者になったのだが、その過程で男性冒険者関係で嫌な目に遭ってな」
そのせいで、自分の人生から男を排除する、そう言ったらしい。
……何があったんだろう?
「……何があったんですか?」
俺は、思わず聞いてしまった。
そしたら
「……それは拙僧の口からは言えぬよ。あの子の人生の重大事でござるからな」
うっ。確かに。
……自分の人生の重大事を事細かに他人に話されるなんて、嫌に決まってるもんな。
叔父さんとはいえ、言えるわけ無いよな。
ましてや、相手は女性なんだし。
「すみませんでした」
「いや、好きな女子おなごの過去だ。気にはなるだろう。仕方ござらぬ」
俺の気持ちは理解はしてくれてるみたいで、安心。
他人の評価なんて、下落するときだけは一瞬だもんな。
気をつけないと。
……前の世界で、俺が五味山一族だとバレたとき、周りが俺を見る目が一瞬で変わったみたいに。
しかし……そうか。
だったら、冒険者になっても、近づくことはできないのか……
どうすれば……
俺が、あまり性能の良くない頭をフル回転させて、アイアさんに接近する方法を模索していると
「……正直、な」
ポツリ、とガンダさんが語りだした。
俺は目を向ける。
ガンダさんは、言ったよ。
「……アイアは、拙僧の兄の子なのだが、兄夫婦はあの子が生涯独身と言い続けている事を残念に思っていてな。そこについては、同情しておるのだよ」
……つまり?
「アイアに、拙僧から貴殿の気持ちを伝えても良いでござるよ? ……直接、あの子の心境を聞けば、貴殿も動きようがあるかもしれぬしの」
……おお!
マジですか!? 俺、そこまで信用してもらってます!?
場合によっては、アイアさんを俺にくれるってことですよね!?
俺の目の前が明るくなった。
ガンダさんに取り持ってもらえれば、ひょっとしたらアイアさんと付き合えるかも!?
そしてアイアさんが俺の事を気に入ってくれれば、俺の恋人に……いや、お嫁さんにだってなってくれるかも……!?
超浮かれる俺。
そんな俺に。
「ただし」
ガンダさんの言葉が突き刺さった。
「ひとつ、言っておくでござる」
続いた言葉。
俺は、耳を疑った。
「アイアは……あの子は異能使いにして、神官……つまり魔法使いでござる」
へ……?
前に、この世界には魔法と異能という、2種類の特殊能力があるという話をしたかと思う。
ふたつとも、体内の魔力を消費して発現する特殊能力なのだが。
魔法は、他の超常存在(神、精霊)に魔力を捧げて発動する特殊能力。
異能は、持って生まれた超常才能を、魔力を燃料にして発動する特殊能力。
前者は、力を持ってるのが他の存在なので、条件さえ整えれば理論上誰でも扱えるが。
後者は、100%才能なので、才能が無い奴は努力しても一生手に入らない。
そして前者は「依頼する」という関係上、魔力消費が激しく、1日にそう何回も使うのは無理だが。
後者は自分の力なので、消費する魔力は必要最低限で済み、そのため普通の異能なら普段使いしても魔力切れはまず起こさない。
らしい。
アイアさんは、その力を両方持ってるのか……!
神官ってことは、神様にその精神を認められて、神様にお願いして奇跡を起こしてもらう事が可能な人だって事だよな……?
(ちなみに、ガンダさんもその「神官」なんだよね)
なんてすごい女性……。
続けてガンダさんは、彼女の異能の内容について話してくれた。
そこで、俺は何でこんなことを教えてもらったのかを知ることになる。
「……異能の内容は『身体能力異常強化』……あの子の身体能力は、常人の域を超えているでござる」
……えっと……
つまり、馬鹿力ってこと?
その辺を確認すると
「それだけではござらぬ。聴力視力も常人の域を超えていて、夜目も利くし、生命力、怪我の治り、毒への耐性、病気への耐性。全て人外の域に強化されているのでござる」
つまり……
俺が勢い余って、男の力を使って、強引に何かしようとしたとしても、あっけなく返り討ちにされるってことですか?
……
………
ああ。
だから、ガンダさんはわりとあっさりと「姪っ子にお前の事を話してやる」って言ったのか。
間違いなんて起きないから。
……納得してしまった。
「……紳士を貫きます」
そういう以外、無いよね。
この場合。
そして。
ガンダさん経由で「ウチの下宿人が、お前の事を見初めたらしい。会うだけでいいから、1回会ってやってくれないか?」
そう言う事を伝えてもらった。
そしたら……
「会ってもいい、ってあの子が言ったでござる。……後は貴殿次第でござるよ」
ポンポン、と俺の肩を叩いた。
……俺は紺色の法被みたいな、人足風の服しか持ってなかったから、日々の稼ぎから捻出してた貯金で、濃い緑のシャツと、紺色のズボンを古着で買ってきた。
新品が欲しかったけど、しょうがない。
だってこの世界、服は自分で作るのが常識っぽいんだもの。
で、それをデート用の衣装として、約束していた日に、彼女を待っていた。
待ち合わせ場所は、広場の銅像の前。
何でも、昔ここで街の運命を左右するすごい戦いがあったとかで、その記念碑と銅像が建ってて。
絶好の待ち合わせスポットだった。
……花でも持って行った方が良いのだろうか?
少し思ったが、花屋というものを見つけられなかった事と、そもそも俺が花言葉というものを知らないなということで。
少し抵抗があったが、手ぶらで彼女を待っていた。
約束の時間は、昼過ぎ。
……女性の準備は時間がかかるって言うし。
待たされるのかな……?
そう、思ったけど。
「お待たせしました」
……時間ピッタリ。
彼女は時間通りに、白のシャツ、黒のズボン。
この前の男装衣装で現れた。
一応俺は、待ち合わせの時間の1時間前に現場に来てたけど、この結果。
……ますます、この人の事が好きになってしまった。
多分、その気は無くて、叔父さんへの義理のために俺と会ってくれてるんだと思うのに。
そこに胡坐をかかないで、こうして誠意を見せてくれる……。
ああ、こんな人が、俺の大事な人になってくれたら、どんなに良いだろう……!
そう、心から思った。
「来てくれてありがとうございます」
思わず、そう礼を言った。
恥ずかしい話かもしれないけど、これが俺の生まれて初めてのデートなんだ。
その初デートが、こんな綺麗で誠実な、素敵な人だなんて……。
これだけでも、俺は幸せだった。
「今日は、どうします? 特に予定がないなら、お芝居を観に行きますか?」
俺が計画を切り出す前に。
アイアさんに先に言われてしまった。
……一瞬、迷ったけど。
「いえ……これから、アスレチックに行ってみませんか?」
……アイアさんは、戦士にして、身体能力に関する異能使い。
身体を動かすことは大好きなはず……。
そう思って、今日のために俺が必死で調べて来たデートプランだった。