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6章 亡国の竜王(3)

第31話 許せない奴ら

★★★(ユズ)



 黒づくめの男。


 忘れられるわけがない。

 私の目の前で、両親を殺した奴らの姿。


 今でも夢に見るときがある。


 何の抵抗もできず、目の前で両親を殺され、そして自分の命惜しさに命乞いをしてしまう惨めな自分を。

 両親を殺されたのに、殺した相手に恨みも怒りもぶつけず、ただただ自分の命を惜しむ。


 なんて情けないんだろう。


 この夢を見ると、私はいつも自分が情けなくて泣く。

 自分はなんて勇気が無いのか。


 それを自覚させられて、突き付けられて。


 それが情けなくて、辛くて。


 いつも、泣くんだ。


「あああ……」


 声が洩れる。


 足が震える。


 血の気がどんどん引いていく……。



★★★(ウハル)



 怪しい黒づくめの男の姿。

 全身真っ黒、顔も見えない。


 こいつに誘き出された……?


 まずいな、俺、丸腰だぞ……。


 状況から複数の思考が走り出し、俺は混乱しそうになった。


 なったんだが……


 ユズさんの尋常ならない様子に、逆に引き戻され、冷静になった。


「あああ……」


 みるみる真っ青になり、ガクガクと震えだすユズさん。

 普通の反応じゃない!


 俺が彼女を守らないと!


 俺はユズさんを背後に庇いつつ、一歩下がった。


「……何もんだよ、アンタ」


 そう、言いながら。


 そんな俺の言葉を聞いた黒づくめの男は、クククと愉快そうに笑い


「我が名を知りたいか」


 大仰に手を広げて言った。

 愉悦に歪んだ声で。


 なんだこいつ……

 芝居がかってて……


 不快だった。


「この方は……」


 するとだ。

 俺たちを騙してここまで連れて来た女が、言ったんだ。


 すごく嫌な笑顔を浮かべながら。


「この方は、竜王ユピタ様」


 うっとりとした響きさえ滲ませて


「この国の真の王よ」




 ユピタ……?


 ちょうど、今日観た演劇の内容。

 雷のブレスを吐く邪悪な竜を打ち倒す英雄の物語。


 よく覚えている。

 だからすぐに理解する。


 ユピタだって……?


「人間じゃないか」


 思わず、言ってしまった。


 ユピタはドラゴンだ。

 邪悪なドラゴン、雷の精霊力を宿した邪竜だ。


 何を言ってるんだ。こいつは人間だろう……!


 言ってることは理解できても、現実の内容がイコールにならない。


 そこから洩れた俺の言葉。


 その言葉を、女は嗤った。


「……外側はね」


 口元に手を当てて、嫌な笑い方をした。


「この方の魂は、竜。ユピタ様なの。私たち一族は、それを代々続けてきたのよ!」


 ……ここで、この女の言ってること。


 歯抜けの不完全な内容だったのに。


 それが俺の中でカッチリと噛み合った。

 ピーンと来たんだ。

 理解する。


 何故嚙み合ったのか。

 それはおそらく……


 俺自身が、憑依された経験があったからだろう。

 その苦い経験が、俺にこの不完全な言葉を理解させた。


 おそらく、こういうことだ。


 聖女ベルフェに打ち倒された邪竜ユピタは、肉体を失い、魂だけの存在になって……


 人間に憑依して、この世にしがみ付いていたんだ。

 そしてこの女の一族は、代々その「憑依される人間」を用意してきた。


 そう言っているんだ。


 ……


 ………


 おい。

 まさか。


「まさか……」


 演劇の中では、邪竜と一緒に倒されたことになっていたけど。

 本当はそうじゃ無かったのか?


「キュウビ一族……!?」


 ほほほほほ、と女は嗤う。


 俺はそれを肯定と受け取った。


「居なくなったんじゃないのか……!」


「我らは不滅よ!」


 俺の言葉に、女は高らかに叫ぶ。


「700年の我らの悲願! ベルフェの末裔どもが簒奪しているこの国の王位! 取り戻すまでは!」


 自分の言葉に酔っているのか。

 女の目は普通じゃ無かった。


 取り戻す……?

 こいつら、国家転覆を狙ってるっていうのか……?


 そんな奴らが、何故俺たちを……?


「何故俺たちを……!?」


「お前には用は無い」


 俺の言葉に、黒づくめが答える。


 スッ……と腕を上げ、指差す。


「我らが必要としているのはその女だ」


 ユズさんを。




「ユズさん……?」


 俺はユズさんをちらりと見た。


 彼女は怯え切っている。


 その理由が分からなかった。


 だが……


「その女が我が復活の鍵よ」


 黒づくめの次の言葉で、俺はユズさんの怯えの理由を知ることになる。


「その女を覚醒させるために、一度はノライヌに差し出したのだ」


 なんだって……!?


 と言う事は……


「お前たちがユズさんの両親を殺したっていう、黒づくめの奴らなのか!?」


 ユズさんは言っていた。

 自分はいきなり黒づくめの集団に襲われたと。


 襲われて、いきなり両親を殺され、自分はノライヌに引き渡されたと。


 最初聞いたときは意味が分からなかった。


 ノライヌのような文字通りケダモノたちと、友好も取引もありえないのに。

 何故、ノライヌの手助けのようなことを仕出かしたのか。


 その理由が、ユズさんの覚醒……!?


 覚醒……多分、ユズさんの異能の事だろう。

 憑依霊体を引き剥がし、別の身体に封入、復活させるあの能力……!


 あの能力で、復活するつもりなのか。

 目的がユズさんということは、そういうことだろう。


 そんなことのために、ユズさんの家族を……


 俺はユズさんが家族の思い出を話しているところを思い出した。

 その表情、悲しみを。


 ……許せなかった。


 こいつらは、そんなことのために、ユズさんの家族を躊躇いなく殺したんだ。

 絶対に、許せない。


「いかにも」


 黒づくめ……自称ユピタは、全く何も感じていない調子で、認めた。


「必要なことだったのよ」


 何の責任も感じていない調子で、女。


 こいつら……!


 こんな奴らの思い通りにしてたまるか!


 俺は、俺の背後に居るユズさんを守り抜くと心に誓った。

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