初陣 怨霊との遭遇
久しぶりの更新です。
凛胡は、槻眞手は特別な土地だと言う。
こうして怨霊を長いあいだ封じ込めていられたのも、土地の恩恵によるものらしい。ただ自然が豊かな田舎ではないのだと、俺は驚いた。
夜に備えて、俺たちは少し休むことにした。
「守り人」として戦う時が近いと思うと、神経が昂ってなかなか落ち着くことはできなかった。
夜になり、身支度を整えていると、部屋に一匹の真っ白なネズミが入ってきた。ちょろちょろと足にまとわりついてくる。
「わっ、なんだコイツっ!」
ネズミは「ちゅう!」と鳴いて、器用に俺の足を伝って背中を這い上がり、最終的に頭の上で動きを止めた。齧られるんじゃないかとハラハラしながら振り落とそうとした時、頭上から声がした。
『我だ——』
祟り神様の声だった。
上を見上げても、目にうつるのは年季の入った天井だけ。はて……。
『我は今、ネズミを依代にしておるのだ』
するとネズミは左肩に降りてくると、小さな手で俺の頬をペチンと叩いた。
ギョッとして見ると、ネズミが口を開けてニタリと笑った。凶暴そうな前歯がこわい。
「ほんとうに神様、……なのか?」
『そうだ。これから怨霊祓いにいくのだろう? 素人のお前では心許ないゆえ、我が助太刀にきてやったのだ。感謝しろ』
「神様も戦うのか? その姿で?」
『五月蝿いっ、小童め! 我は助言役じゃ!』
機嫌を損ねたネズミの鼻面が、俺の頬に激突してきた。地味に痛ぇよ、神様……。
「準備はいいかい? 丁くん」
「ああ、大丈夫だ」
防寒もしたし、武器も忘れてない。
ネズミに取り憑いた神様は、凛胡に内緒で、俺の上着の胸ポケットのなかに鎮座してもらっている。
温くて良い感じだ。
そんな俺に比べ、凛胡は薄着で、巫女のような袴を着ている。
「寒くないのか?」
「戦っているうちに熱くなるし、これが正装だからね」
確かに厚着では動きづらいだろう。
……でもなぁ。
見ているこっちが震えそうなほど寒々しい。髪を結い上げていることで、真っ白な首が露わになっている。
「そうか、でも風邪ひいたら大変だから……」
俺は自分の巻いていたマフラーを外して、凛胡の首にかけてやった。指先が柔肌に触れて、心臓がはねる。
「いいの? 丁くんは寒くないのかい?」
「ああ、俺は大丈夫……」
もしも耐えきれなくなったら、神様をホッカイロがわりにしよう。
俺たちは、結界のある場所を目指し歩く。
冷たく纏わりつくような夜風が、不気味な音を立てる。
オオォォォ——……。
凛胡の足が止まる。ポケットから顔をだした神様が「くるぞ」と言った。
緊張が走る。
背中の矢筒から弓を引き抜いた凛胡が、素早く夜空に向かって矢を放つ。
俺も剣を構えた。耳の奥で自分の鼓動がやけに大きく響いている。恐怖を感じているのかもしれない。
「丁くんは、わたしの後ろにいて!」
凛胡はそう言って、二度目の矢を放つ。
矢は、まるで流星のように光の筋をつくり、闇夜を照らす。そこに……怨霊はいた。
オオォォォ——……
ゆらゆらと宙に浮いた、かつて「人」だった者たち。
苦しみなのか、憎しみなのか、声なき声が吹き抜ける風にまじって、身体の芯に響いてくる。
凛胡の矢が触れると、怨霊は霧散していく。
ただ、数が多い。
『なにをボサッとしている! おまえも戦うのだ!』
ポケットから出てきた神様が叫ぶ。
『空をいく怨霊は凛胡が祓っている。お前は、地上にいる怨霊を倒せ!』
地上にいる怨霊?
目を凝らせば、雪原を漂う無数の怨霊が、ずるずると凛胡にせまるのが見えた。
「!!」
凛胡が危ない!
そう思った時、俺の身体は勝手に動いていた。
お読みくださった方に感謝を!
この作品ですが、エタらせてしまいそうなので、
当初の予定より展開を早め、完結させる予定です。
宜しくお願いいたします。




