高次、想念の世界
説明回。
ずっと疑問だった。
人間として生まれた者なら、誰もが一度はこの命題にぶち当たるんだろう。
——『俺たちは、どこからやってきて、どこへいくんだ?』
文明進化の大きな流れに身を任せながら、時折、無性に思いを馳せるように星を見上げ、身体の奥底に燻る切ない「なにか」を考える。
ただ漠然と「幸せ」になりたいし「満たされたい」と願う。豊かな暮らしだけじゃ足りない。孤独じゃなければ良いってわけでもない。
だから、いつも不足を抱えて、堪え忍ぶように生きてる人のほうが大半だと思う。
何が正しいことで、何を信じたらいいのか。
何も知らないけれど、何かに縋り付きたくなる。
不安だから。
目に見えないものが多すぎるんだ。
心も、魂も……。死んだ先にいく世界も。
人という存在の意味も、分からないことが多すぎるんだ。
俺が知りたいのは、そういう「真理」を含んだすべて——。
「教えてくれ。心とは——魂とは……怨霊とはいったい……」
凛胡が語ったことは、途方もない、見えざる世界の「在りよう」だった。
「この地球は物質的な3次元の世界で、人間は肉体を持ちながらも心や感情といった想念をもつ存在だ。人の想念の世界は4次元だ。現実にはない夢や妄想といったものも4次元なんだよ。人はね、肉体を覆うようにオーラと呼ばれる幽体と、感情を司る想念体を持っている。死ねば肉体は朽ち、幽体は四十九日を迎えるとともに消滅し、強い未練があれば想念体だけが残る……これが幽霊や怨霊の正体なんだ」
「憎しみや、恨みの想念か……」
「うん。そして魂と想念は別物なんだよ。肉体を失った魂は次の旅に出る。亡くなった者が「あの世」から見守っていてくれるというのは、人の想念が行き着く4次元のこと。想念体があるから可能なんだよ。人の想いは強い……そして人の祈りは4次元に繋がっている」
ということは、亡くなった人の魂は輪廻転生し、生きた時の想いは別物として4次元にいるってことか。
理解するのは難しいけど、納得できる点はある。
死とともに魂が転生するのだとしたら、遺された者は墓参りしても無駄ってことじゃないか? って、いつも思ってた……。
でも、在るんだな。
生きていた時の想いは、ちゃんと残ってるんだな。
じゃあ怨霊になった想念は本来は4次元的存在ということになる。
「つまり怨霊退治は、4次元をどうにかする力が必要ってことか……」
「自分のいる場所から、下の次元を書き換えることは簡単にできる。私達も1次元や2次元のことは創造できるよね? だけど4次元の想念の世界に干渉するのは難しい。だけど、さっきも言ったけれど、私の力や、丁くんの武器に込められた力は、6次元から得たものだよ」
「6次元……」
そんな途方もない高次元の世界のことなんて、物理の授業でも習わなかったぞ。
「5次元は神々をあらわし、6次元は神々や精霊たちの想念の世界なんだ。6次元の力を使うことで、4次元に干渉し、怨霊に対抗することができる」
「あ、」
「そう。だから、丁くんの神様から授かった武器は、怨霊を滅する力を秘めている」
神は神でも「祟り神」で、かなり禍々しい存在だったけど、怨霊よりは格上ってことか。
俺のご先祖様は、一体なんの祟りを祀ったんだか……。黒い触手に縛り上げられたことを思い出して、俺は背筋をぶるりと震わせた。
「そういえばさっき、凛胡の力は6次元が源って言ってたよな?」
「私? 私はね……」
そう言って、凛胡は両腕を大きく広げた。
すると風が巻き上がる。
空から光が落ちてくる。きらきらと雪の大地に反射したかと思えば、一面が虹色に染まっていく。
——綺麗だ。
奇跡としか言いようのない美しい光景が、凛胡を中心に広がっている。まるで世界が、彼女を祝福しているようだ。
「私はね…… ——この地球に助けてもらってるんだよ」
お読み頂き有難うございました。
お彼岸の時期に、このネタを書くことになるとは…。