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戯画、現実になる力

ジャンルを、ローファンタジーに変えました。

 巨大なクレーターを見下ろす凛胡が、そっと目を伏せる。

 戦いに敗れ、強い怨念を抱いてしまった、かつての生者を(いた)んでいるのかもしれない。

 俺も手を合わせ頭を()れる。

 吹き抜ける冷たい風は、細く、悲鳴のような声をあげ、大地に降り積もった雪を舞い散らしていく。

 さっきからずっと、俺は背筋が凍りつくような悪寒(おかん)を感じていた。


「家に戻ろうか、(ひのと)くん。夜にはまた来ることになるからね」

「夜に?」

「良くないモノが集まりはじめているから、(はら)うんだよ。祓っても祓っても、また剛鬼に引き寄せられる。……その武器も、使うのは今夜になるね」


 両手に持っている武器。

 剣と、筆だ。

 今夜……。

 俺は「守り人」として戦うことになるのか。


「剣はわかるけど、その筆は?」

「さあ……、使ってみないと分からない。神様は、凛胡のそばで描いたものが具現化するって言ってたな」

「それは、すごいね」

「ああ。今までの守り人は何を武器にしてきたんだ?」

「剣だったり、鎌だったり……。ね、試しに何か描いてみてほしい」

「試しに、って?」

「そうだね。兎がいい!」


 ウサギか。

 ……俺に描けるかな。

 左手に握った筆先を、虚空に滑らせる。


「!」

「すごいっ!」


 真っ黒な流線が、空気のうえに浮かび上がる。

 長いふたつの耳。

 柔らかい毛足に、平べったい後ろ足。

 丸い尻尾。


「上手だね、丁くん」


 凛胡が、パンッと、両手を合わせる。

 目の前に光があふれた。

 塗り絵のようだったウサギの輪郭がゆらゆらと波打ったかと思えば、立体に変化していく。

 ふさふさとした毛むくじゃら、小さな鼻がヒクヒクと動く。……本物のウサギになった!?

 長い耳をぴんと立て、雪の上に降りたったウサギは、赤い目で俺を見上げた。


「丁くん、なにか命令してみて!」

「命令? ……じゃあ、『跳べ』!!」


 俺の言葉に反応したウサギは、跳躍し、すっぽりと凛胡の腕のなかに収まった。


「かっ、かわいい〜! ふさふさ〜! あったかい!」

「体温まであるのか」


 ここまで精密に具現化するのか。

 思う存分、凛胡はウサギを撫で回したあと、「ばいばい」と呟いた。

 すると腕のなかにいたウサギは徐々に色を失い、元の黒い線に戻り、吹いてきた風に掻き消されていく。

 これが凛胡の力、なのか……。


「便利な武器だね。それで虎とか熊を描いて、怨霊と戦ってもらうのもイイね」

「そんなことも可能なのか? すごいな。魔法みたいだ」

「魔法? ……そうだね。(みなもと)が6次元だから、魔法と同じかもしれない」

「……そう、なのか?」

「怨霊のいる次元に干渉するためには、少なくとも4次元以上の力を捉えなければいけないんだ。丁くんの武器は、4次元のエネルギーが備わっている」

「へ、へぇ」


 待て。

 全く付いていけないぞ、俺。


「怨霊のいる世界は、人の想念の世界。つまり4次元なんだよ。その4次元を思い通りにするためには、神々の想念……6次元的な力が必要なんだ」

「今までの当主にも、その力はあったのか?」

「ううん。5次元に力を求めることはできたけど、それ以上のことは……」


 ああ、だからか。

 ……だから凛胡は、特別な力を持っているからこそ、この長い戦いの歴史の終幕のためだけに、生まれてきたと思っているのか……。

 そんなわけ、ないのにな。

 例え神様から与えられた使命があったとしても、きっとこの3次元に凛胡がいる意味はもっと他にあるはずだ。槻眞手の閉鎖的な環境が、そういう孤独な考えにさせてしまったのだろうか。


「もっと、教えてくれないか?」

「え?」

「怨霊のことも、世界のことも。凛胡がなにを考えて生きてきたのかも」


 知らないと近づけない。

 たった一人で戦おうとしてきたキミに近づけないから。


お読み頂きまして、有難うございます!

次回もスピリチュアルな説明回になりそうですが、宜しくお願いします!

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