心の声がダダ漏れな彼女は一緒にいるだけで恥ずかしい
「〇〇な秋と言えば、私は間違いなく食欲の秋と答えるだろう。今日も仕事終わりに幼馴染みと何処か食事にでも行こうかと考えながら適当に仕事をするのであった」
「うん、聞こえてるから真面目に仕事をしようね?」
「隣でたまたま通りかかった二代目の社長がぼやいている。先代が築き上げた今の会社を維持するだけでもあっぷあっぷな若社長にこの不景気を乗り切るだけの力量があるのか、それだけが心配であった」
「うぅ、しどい……」
「鬱陶しい泣き方と女の子走りで去って行く若社長。それよりも早く幼馴染みをデナーに誘わなくては……。私はキーキー言いながらチーズを出しまくる機械を放置して幼馴染みの居る隣のコンベアへと向かった」
「幼馴染みは至って真面目な勤務態度で、私が隣で顔を凝視しても、眉一つ動かさない男だ」
「……聞こえてる」
「どうやら聞こえてはいるようだ。私は勇気を振り絞って」今夜……どうかな?「と努めて可愛らしく誘った」
「肝心なとこ言えてないぞ……」
「……どうやらこの男は、私に恥をかかせたいらしい。それともキュートよりセクシー派なのだろうか?」
「…………」
おい、今いやらしい事考えただろ……。
「隠しても無駄である。他の人には分からないが、長年見てきた私にはハッキリとマスクの下でニヤついている下世話フェイスが丸見えである。つまり、この男はスケベだ」
「言うな言うな。てか仕事に戻れ。そっちでチーズが溢れてるぞ」
「その時──私に天啓が走った!」
「…………」
「まさかこの男、私の乳にチーズを溶かしてかけて食べるつもりではないだろうか!?」
「──ブフォッ!!」
「やはり! この慌てよう……このスケベ野郎は」やっぱり牛乳とチーズはよく合うなぁ……!!「なんて言いつつ下品なプレイを私に仕掛けるつもりなのだ!!」
「何をだ!? なんのプレイをだ!?」
「しかし、か弱い乙女としては、そのやうな御遊戯に誘われるのも、またいとをかし……」
「…………」
「私は自分の持ち場へと戻り、溢れすぎたチーズの処理に奮闘した」
「君! 鼻血がコンベアに垂れてるじゃないか! 止めたまえ!!」
「向こうでスケベ君が若社長に怒られている。知ーらない」
「──で? 何処行くんだ?」
イタリアンが食べたい「と、私は笑顔で答えた」
「答えてない答えてない」
「発音が悪かったかな? それともピザをピッツァと呼ばないと通じない頑固者かな?」
「……ラーメンで良いか?」
「この男、人の話を聞いていたのだろうか? 何故イタリアーナがラァァメンになるのか、真夏のビーチで小一時間問い詰めたい」
「来年頼むわ」
「私達は職場の近くにある『腹下し食堂』と呼ばれる大変縁起の悪い名前の店へとやってきた。名前とは裏腹に、店内は綺麗で清潔感があり、なにより旨い」
「うん、名前は本当だから何も言えん」
「よう! いらっしゃい」
「唯一小汚い笑顔で出迎えたのは、私達の旧友である杉森という男だ。此奴は几帳面で真面目な男なのだが、如何せんネーミングセンスが悪い。子どもに『あじさい太郎』という名前を付けようとして、奥さんに泣いて頭を下げられたらしい」
「俺の恥ずかしエピソードを垂れ流すな!」
「杉森適当に頼むわ」
「おう!」
「何だか『大将いつもの!』みたいな感じがして、悪くない。私達が席に着き、杉森のタイプであろうバイトのお姉さまが、お冷やとおしぼりを持ってきてくれた」
「言うな言うな!」
「あらぁ? 店長私の事好きなのぉ?」
「……嫁の次に……ッスけど」
「全くもって悪い男である。後で奥さんにSNSで教えておこう」
「頼むから言わないで!?」
「杉森いじりを楽しんでいると、あっという間にラーメンが到着した」
いただきます。
「手を合わせて割り箸を割る。目の前の男は割り箸が上手く割れずに根元がグチャグチャになってしまっていた。こういう不器用な所は嫌いでは無い」
「人が食ってるときに変なことを言うな!」
「盛大に咽せた男は、お冷やを飲み、何度も胸を叩いている。この程度で恥ずかしがるとは……」
「昔からお前ら見てるけど、全く飽きねぇな」
「浮気野郎が腕組みをしながら私達を見ている。腹を下せ」
「しどい……!!」
「昔から変わらないこの三人。杉森が居て、私が居て、そして──この男が居る。私は何て幸せなのだろう」
「あのー、非常に食べ辛いんですけど……」
「今まで数多の奇異の目で見られることが多かった私を救ってくれたのは、言うまでも無くこの二人である。特に目の前のニヤつきながらラーメンをすする男は、先代の社長にダイナミック土下座をしてまで私の就業に力を尽くしてくれたのだ」
「正確にはお前が取引先の社長のズラを言っちまったのを謝ったんだがな!!」
好き
めっちゃ好きなの気付いてるのか?
「おい、急に無言になるなよ」
鼻チョンしてその味玉盗っちゃうぞこの野郎!
「おい杉森、訳してくれ。流石に無言は分からん」
「分かれ」
「しどい」
この鈍感野郎! 普通は女子と食事に行くならもっと素敵なイタリアーナで、よく分かんねぇ高いワインをグイグイ飲ませて酔ったところをグヘヘだろうが……!!
「すみませんねぇ、しがないラーメン屋で」
「なんでこれで分かるんだ杉森は……」
杉森! スパゲッティを出せ! ワインを置け! チーズをぶっかけろ! 浮気止めろ!
「だから浮気はしてねぇって……!!」
「おい、二人だけで謎の意思疎通するの止めろ」
「ははぁん、この男……ここまでハッキリと言っているのに分からないとは……さてはモットーは以心伝心だな?」
「あ、うん。それで頼むわ」
「ったく仕方ない。ならば思い切り念を込めてやる」
「お、おう……」
「好きだーーーー!!!!」
「うわぁ……恥いわ」
「何と言うことだろうか、目の前の男は私の以心伝心を感じ取って赤くなってしまい、恥ずかしさのあまり店の外へと出てしまったのだ」
「五分もすれば戻るはずだぜ? 外寒いし」
「……その隙に味玉盗っちゃえ」
「味玉を頬張っていると、男が手を擦り合わせながら帰ってきた。思ったよりも早く、男は寒そうにラーメンをすする」
「……こ、この後何処か行かないか?」
「店長、初々しいですね」
「ホント見てて飽きねぇんだよな」
「珍しいこともあるもんだ。この男の方から誘われるなんて……。味玉を頬張っている私は、無言で頷き次の言葉を待った」
「カラオケですかね?」
「バーかな」
「立ち食いそばでもどうだ?」
「ないわー」
「ねーな」
「やはりこの男はアホだ。そんな誘い文句で落ちる女が居るわけない……私以外は」
「あ、いいんだ」
「らしいな」
「まあいい。乙女の誘い方は知らない方が良い。そこの浮気野郎みたいな事になるからな」
「だからしてねぇって……!!」
──おしまい♪
読んで頂きましてありがとうございました!
他にもアホコメディやケツダイナマイト小説、ケツホモ祭りが400作近く御座いますので、お時間がありましたら宜しくお願い致します!