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6話 ダークドラゴン



           6話




 その馬車の中は外見からでは全く予想できない豪華な赤色の塗装と金の飾りが隅々まで広がっている。そのような馬車に連行人を乗せるわけが無いと思ったトールは馬車内の見張り2人に話しかける。


「俺を連行するのは罪人としてじゃないんだろ? 本当の理由は何だ」


 その質問に答えていいのか戸惑った様子の2人は目を合わせ……頷いた。


「分かっていたのですか。流石トール様です」


「本当の理由とは、今日の早朝に騎士団総体と聖女ユリカ様とでダークドラゴンの侵入を防ぐため、国の入り口である大門で苦闘が繰り広げられまして。率直に言いますと、今の現状が続きますとダークドラゴンに結界を破られ、他のモンスターなども侵入してくるようになり、このアストレア国が滅んでしまう恐れがあるのです。そこでトール様のお力を貸して頂けたらなということで、連行という強制的な形でお連れさせて頂きました」


「そういうことか。仕方がない理由だな。協力しよう、ただし条件が2つある」


 低いソファーに座っているトールは足を組み直して言った。


「一つ目は、さっきクロエを吹き飛ばした男の名前を今俺に教えることだ。二つ目は、聖女と騎士団エースに俺が協力したことを黙っておくことだ」


「そしたら…………」


 トールは弁解しかけた見張りの男の話し声を潰すように喋り出した。


「別にトール様が見つからなかったとでも言えばいい。それで色々と察して理解してくれる筈だ」


「分かりました。では先に先ほどの茶髪の男の名前を”ベガ•カルティク”これが彼の名前です」


「分かった」


 それからしばらく馬車に揺られ、目的地の大門に到着した。

 そこには凱旋門のような高々とそびえ立つ大門の上に乗っている漆黒の翼を広げたダークドラゴンが見える。

 そのダークドラゴンに向かって騎士団の大軍が弓を引いているようだ。下から上へと逆流する流れ星の様に黄色く光る魔矢が飛んでいく。


 そんな、街が戦場と化した中、馬車からゆっくり降りたトールはそのドラゴンを見て絶句する。


 そして、口をポカリと開けたまま呟く。


「ラックスじゃねーか」


 そう、あのダークドラゴンはトールのドラゴン、ラックスなのだ。


「おい! 剣類なら何だも良いよこせ」


 トールがそう言うと、馬車の見張り人は片手剣を渡す。

 それからトールは騎士団の大軍をかき分けて大門に一直線に駆け、高さ100メートルほどある大門の側面を登り始める。

 壁に黒剣と見張り人の片手剣を刺しては抜いてを左右の手で繰り返してゆっくりと。


 そんな危険な状態であるトールが登っている壁に次々と騎士団の放つ魔矢が次々に刺さる。

 すでにトールの背中にも2本刺さっている。

 それでもトールは歯を食いしばり、背中から血を垂らしながら上っていく。


 そうしてようやく大門の頂上へと上り詰めたトールは、ふらつきながらも右足を前に出し、呼吸を整え、集中する。

 それから黒炎を吹くラックスに真っ黒の結晶を突き指し、


「うぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおーー!」


 紫色の光線を放った。その光線は辺り一面を紫色に染めたが、すぐに消えた。


 ラックスの暴走がおさまったようだ。


 しかし……


 トールはその光線の反動を踏ん張ることが出来ず、吹き飛ばされ、登ってきた血まみれになった壁に沿って落ちている。


 喉がつまりそうで空気が吸いにくい。耳も「ごぉごぉごぉごぉ」という音だけで封じられている。


 絶大な魔力と体力を消費したおかげで、もがいて助けを求める気力もない。


 それから落ちはじめて20メートルを過ぎた辺りで、

どこからとなく声が聞こえてきた。低く、図太い声だ。


『お前はこのまま死んでもいいのか?』


 その時、ふとトールの頭に記憶が蘇る。


「誰だ! お前の声はどこかで……」


 その時

 落ちているトールの目にラックスが黒い影の誰かによってしつけの呪文を掛けられているのが映った。

 そして、再び騎士団やユリカに向かって黒炎を吹いている。

 そう、ラックスを暴走させていたのはあの黒い影なのだ。

 それに気づいたトールは謎の声が聞こえたことを忘れ、枯らせた声で強引に魔力を絞り出し呪文を唱える。


「サンダームーブ!」


 瞬間移動の呪文。一瞬の間だけ稲妻になり、50メートル圏内ならどこへでも0.3秒で移動できる。

 その呪文のおかげでトールはラックスの尻尾にギリギリ手が届いた。


「ラックス! 目を覚ませ!」


 尻尾に両手で掴まったトールはラックスに振り落とされそうになりながらも声をかけ続けている。

 

 そんなトールに影の男が話しかける。


「お前がこの竜の持ち主か。悪いがこの竜は俺様が貰っていく。さらばだ」


 そう言うと、影の男はラックスに黒炎を吹かせて大門を超え、さらに東の方向へと飛んで行った。


「ラックスー!くっそおおおおーー!」


 トールは大門の頂上に取り残され、下にいる騎士団たちにも聞こえるような声で叫んだ。


「…………」


 そして、急に寂しくなる大門。


 ラックスの吹いた黒炎は燃え移らずすぐに消えたが、代わりに騎士団の男たちの驚愕した低い声が響いた。

 騎士団エースのハンスは剣を地面に刺して呆然と立ち、震えた声で、


「なんだ、、これは」


 ハンスの前には動かなくなった30人ほどの仲間たちが広がっている。

 色がついていた盾や装備、魔法の杖までも灰色になり、感触は盾と皮膚の柔らかさが同じになっていた。


 つまり、ラックスの黒炎は生き物の魂を吸い取り、石化させるのだ。



【つづく】

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