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5話 騎士団



           5話




 トールとクロエは夜中の静まり返った大通りをポツンと2人で歩いている。


「それが、覚えていない理由も分からないの。氷結岬の村の人たちは私が小さいころ伝説の勇者と仲良くしてたって言ってたんだけど、、」


「その伝説の勇者の名前は分からないのか?」


「分かるわけないじゃない!そんなの分かったら今頃、世界中で伝説の勇者を探し始めるわよ」


「確かにそうだな。って言うか、何で名前が分からないんだ?その伝説の勇者の親とか、村人から聞き出せばいいじゃないか」


「全部試してみたわ。その勇者の両親は勇者を産んでからすぐにどこかへ召喚されたらしくて今も行方不明なの、村人達はその勇者が「伝説の勇者」とだけしか名乗っていなかったらしくて本名は知らないらしいの。小さいころの私には特別、教えてくれてたみたいだけどね」


「そういうことか。誰かが伝説の勇者の情報を隠ぺいしたのかもしれないな」


「あ、あと言い忘れてたけど、これ」


 そう言うと、クロエは腰に掛けていた剣を抜いた。


「は? その剣。俺と同じ黒剣じゃねーか。何でお前がその剣持ってんだよ」


「知らないわよそんなの。けど実家に私が魔法の杖で書いたかもしれない紙に黒剣について書いてあったの」


「書いたのかもしれない?」


 眉を寄せ聞くトール。


「これ」


 そういうとクロエは今にも剣のグリップに結び付けられている破れそうな古紙を解きトールに渡した。

その紙には、


 ≪トールと私は永遠に親友を誓った。その証に誓いの黒剣をそれぞれ持っている。私たちは絶対に忘れない≫


 とだけ書いてあった。トールは、


「何だよこの紙」


「そう思うわよね。けどこの字は確かに私の書いた文字なの」


「お前、あれじゃねーの。頭にアホげ生えてるし、見た目通りアホになったんじゃねーのか?」


 トールがクロエの頭に指さして言った。すると


「うっさいわねっ!」


 と怒鳴りつけ、クロエはトールの背中を思いっきり叩いた。


「いっでぇぇぇーーー!」





         ※※※※※※※※※※





 トールとクロエは昨日の夜、近くにあった宿に泊まつた。

 そして現在。しつこくドアをノックする音が朝早くから部屋中に響いている。そのうるさいノックの相手が誰だか分かっていたトールはベッドの上からだるそうに声をかける。


「誰だ、朝からうるさいやつは」


 すると、


「トール様ー!早く起きてー!」


 すぐに返事が来た。クロエだ。


 朝から大声で起こされて少し不機嫌なトールは


「んっーーーーー!」


 ベッドの上で伸びをして、ダンゴムシのような猫背で何の罪もないドアを細い目で睨む。


「早く起きてよーー!」


「起きてるわ!あと、朝から廊下でうるさくすると隣の人に迷惑かかるから部屋に入ってきて。鍵開いてるか…………」


「ずっこぉぉぉーーーーっん」


 トールの眠そうな声に喝を入れるかのように大きな音が鳴った。


 その音でベッドの真っ正面にあるドア付近の空気が砂埃で覆われ見えなくなる。いつものトールなら飛び跳ねて驚くが、今のトールは起きたばかりで寝ぼけているのか、ボーッとただ砂埃を見つめる。


 5秒後……。


「は!? はっぁぁぁぁーーー?」


 窓から見える木の上にいた鳥がどこかへ飛んでいく。


 トールは生まれて初めて朝からこんな大きな声を出した。ついでに生まれて初めて目ん玉も飛び出そうになっている。


「いや、お前。普通に入って来いよ! 宿のドア粉々に壊してるんだよ! それとドアの破片が飛んできて地味に痛かったし!」


「ご、ごめんトール様ぁー!」


 粉々になったドアを下敷きに部屋の入り口で倒れているクロエからかすれた声が聞こえた。


「あと、もう様いらないから。敬語使わないのに無理やりつけてると違和感あるし」


「分かったわトールッ♪」


 木屑がついたままとーるの右腕に抱きつくクロエ。さっきのかすれた声はどこに飛んで行ったのだろうか。


「おい、様をつけなくていいって言っただけで抱きついていいとは言ってないぞ! あと、このドアどーするんだよ。忘れたとは言わせないからな」


「いいじゃーん。私達の仲なんだし」


「私達の仲ってなんだよ。まだ会って1日で全然仲良くなれねーし、仮に俺たちの仲が良くてもこのドアは直んねーよ。昨日の酒がまだ抜けてないのか?」


「流石に抜けてるわよ。私あんまりお酒飲める方じゃないから全部水で割ってたでしょ? 見てなかった?」


「誰がそんなの見てるかよ。んで、ドアはどうするんだ」


「なんとか謝りに行くよ」


「そうか」


 考えていた以上にクロエがまともなことを言い、反応に困ったトールは別の話を切り出す。


「ク、クロエは今日氷結岬の方に帰るのか?」


「そんなわけないじゃん。私がこの街に来た理由はトールに会うためなんだよ」


「は!? 会うためにだけにここまできたのか? かなり遠いいぞ氷結岬は」


「まぁね! だから私はこれからトールと一緒に暮らしていくの!」


 可愛く言えば男なら何でも許してくれると思っているクロエにトールは『はっ?』とでも言いそうな顔でクロエの顔を見て、


「嫌だ。断る」


 そのトールの言葉でクロエの顔が一瞬にして原型が分からなくなるぐらい酷い表情になった。この絶世の美女と一緒に暮らせるというのに、とでも思っているのだろうか。トールにはクロエの今までの自信が消えて行くのが分かった。


「何でー! 私竜使いなんだよ? ただ歩くことしか出来ないトールと違って空を飛べるんだよ?」


「歩くことしか出来ないだと!? 俺も竜ぐらい持ってるわ。黒くて大きなドラゴンな」


「え?トール持ってるの!? 何で? 竜使いじゃないのに」


 トールは座っていたベッドから立ち、ため息でもつきそうな喋り方で言う。


「うっせぇー。別に俺も自分の竜ぐらい持っていてもおかしくないだろ。そういうことだからクロエに世話になる必要はねーんだ」


「それと、俺はもう出るからな。じゃあなクロエまた会うことは無いと思うが」


 トールはそう言ってベッドの横にかけてある黒色のマントを手に取り、頭からかぶって、ドアの無くなった部屋から出た。


 するとクロエがベッドに飛び込み、寝転がって


「もう行くの? もうちょっとゆっくりして行こうよー。この宿朝食あるみたいだしー」


 全力でねだる。


 朝食という単語に反応し、廊下で止まるトール。


「そうだな。そうしようか。朝食は大事だからな朝食は。あと、勘違いするな。お前のためじゃないからな」


「やった!」


 それから二階の部屋に泊まっていたトール達は一階のレストランに入ろうとエルフのお姉さんに話しかける。


「ここで朝食を取りたいんですけど」


「…………」


 トールはその声にしばらく反応しなかったお姉さんの顔をマントの下から見る。


 するとトールの目には顔を青くしてトール達の後ろを指さしているお姉さんが映った。


 気になったトールはゆっくりと後ろを向く。


 するとそこには騎士団約20名ぐらいが押し寄せて来ていた。それに驚いたトールは黒マントを剥いで姿をあらわにし、


「何でお前らがここに」


「お前らってことは騎士団の人と知り合いなのトール?」


 と、すぐにクロエが聞くが


「まぁ、そんなところだ」


 と、適当に受け流された。


 入り口に壁の様にそびえ立つ騎士団の兵達の後ろから令状を持った男が出てきて言う。


「失礼。我たち騎士団は現エースのアルタイル様と聖女ユリカの命令により”あなた”元騎士団エースのトール様を連行する」


「え!? どういうこと?ちょっと待って。トールって元騎士団エースのトールだったの!?」


 今度はクロエの目ん玉が落ちそうなくらい目を開いて驚いた。その表情は少し怯えている様にも見える。


「まぁな、隠していて悪かった。悪気はないんだ」


 そう言うと何の抵抗もせずに手錠を受け入れ、素直について行く。トールは街の中のレストランで抵抗すれば大きな被害が関係ない人達に及ぶと考えたのだ。


「ねぇ! ちょっと待ってよ!トールが何か悪いことしたって言うの?何で連れて行くのよ?」


 クロエが剛鉄の装備をまとった騎士団の茶髪の男の腕を両手で掴み、必死に聞く。


 すると……。


「お前に用はないでやんす! 邪魔をするなら容赦はしないでやんす」


 そう言ってクロエを、突き飛ばし受付のカウンターに打ち付ける。そして剣を抜こうとする茶髪の男。


「おいっ! その女は俺の連れだ。乱暴に扱うんじゃねぇ」


 そう言って茶髪の男を睨みつけ、手錠で動きが封じられた両手と全身を暴れさせると茶髪の男は口元をニヤつかせて鼻でフンッとあざとく笑った。


「お前、今笑いやがったな。名は何だ、 名乗れ!」


 暴れて乱れたトールの前髪の下から殺気のこもった目が見える。トールの目は真っ赤だ。


「嫌でやんす。トール様に目をつけられたら怖いでやんすー」


 トールの全てを馬鹿にするような目で言われ、怒りが限界に到達したトールは


「じゃあな、クロエ」


 とだけ言って兵士を押しのけ、「バンッ」と勢いよく馬車に乗り込みドアを閉めた。


 そして立ち尽くしているクロエの心配そうな目が馬車を見送るなか、街の人混みを切り開いて出発した。



【つづく】

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