2話 武器屋のオッチャン
2話
「よーオッチャン元気にしてたか? 久しぶりだな」
このまま1人でいるとおかしくなりそうだと思ったトールは街の木造建築で年期の入った武器屋に入った。
迎えてくれたのはスキンヘッドでマッチョのオッチャン。この街にトールを連れてきた本人だ。見た目がゴリラ以上に大きいため、どこにいても見つけやすい。
「おー、久しぶりじゃないかトール。いつものか?」
オッチャンはカウンターに砥いでいた剣を机の上に置いて、大きな背中を丸め、カウンターの奥にある、暖簾をくぐり武器の倉庫に入って行った。
オッチャンはワインを飲むのが趣味であるため、ワインの倉庫もあるのだ。勿論、カウンターにワインの瓶が隙間なく並ばされている。
「実は、さっき騎士団辞めてきたんだ」
トールはカウンターの1番右端のいつものカウンターチェアに座り、肘をついて話をしだす。
「へーー............は!? 騎士団を辞めた!?なんだと!?」
オッチャンが急いで倉庫から出て来て暖簾からトールの顔を覗く。オッチャンの目が武器屋にユリカと2人で来た時ぐらいに大きく開いている。
それにトールは少し引き気味な返事をする。
「そ、そうだ」
「何であんないい仕事を辞めたんだよ。収入も安定して大量に稼げるし、他にあんな良い仕事ないぞ?」
「それぐらい知ってるよ。けど俺には邪魔なくらい金も力もある。だから陰の実力者っぽく一軒家でのんびり静かに生きて行こうと思うんだ。つまり、スローライフってやつだな!」
「じゃあ、あの子はどうするんだよあの子は」
「ユリカか?」
「そう! ユリカちゃんだユリカちゃん」
「それが………。さっき振られたんだよ。植物園でな」
「…………」
「…………」
一瞬武器屋の時間が止まった。動いているのはオッチャンの瞬きだけ。あと外から街のにぎやかな声が聞こえてくる。
「そういうことだったのか。はっはっはっトールは分かりやすいな男だなー」
励ますように重くて太い腕をトールの肩に乗せた。いつもはただウザいとしか思えなかった腕の重さは今日だけその重さになぜだかホッとした様子で、いつの間にかトールの目は濡れかけていた。
「トールはまだ若いんだからまだまだいい出会いがあるだろうな」
と言いながらオッチャンは新しい黒の戦闘服を肩に乗せた腕と反対側の腕でトールに渡した。
それを受け取ったトールは
「ふんっ、褒め言葉としてもらっておくよ。サンキューなオッチャン」
「おう!また近いうちに来いよ!」
※※※※※※※※※※
トールは今、街の中心部に位置する武器屋を出て、中世ヨーロッパ風の街の大通りを歩いている。先程オッチャンから貰った黒い戦闘服を着て。
この街には色んな種族の人が歩いていて、道の中央は馬車やリザードマンが引く人力車が通っている。
そのせいで空気は砂埃で曇って見える。
道の両サイドには屋台のような出店が並んでいて商売人が群がっている。
とにかく活気のある賑やかな街だ。
トールは仕事を辞め、何もすることがなくなったのだ。
つまり、無職で、暇なのだ。
とりあえず気休めに街を歩き回っている。
そんなトールの目にふと、屋台の看板が入る。
フロッグ揚げかー。うまそうだな。とでもいう様に舌をぺろりと出すトール。
トールが騎士団に所属してた時は騎士団らしく振る舞わないといけなかったため、食べ歩きをしたことが無かった。
少し罪悪感を感じながらもトールは屋台の鉢巻を巻いたおばさんに声をかける。
「フロッグ揚げ10本」
「あいよ!」
元気よく返事をするおばさん。
「はい兄ちゃん。銅貨10枚だよ」
5秒もしないうちにフロッグ揚げが出てきた。
そしてトールは銅貨10枚を支払い、右腕に大量のフロッグ揚げが入った紙袋を抱え、左手には4本串を持ち、食べ歩きを始めた。
「いいもんだな、食べ歩きってのは。騎士団の時はいつも、男の汗臭い小さな部屋で食べていたからな。やっぱり外で食べるメシが1番上手い」
両手にフロッグ揚げを持ち、食べ歩きを満喫していると。
「きゃぁぁぁぁぁぁーーー!」
少女の叫び声が聞こえた。
街の人たちが立ち止まり、慌ただしい雰囲気になる。
何だ?何だ?とでも言うようにトールは人が群がって出来ている円の中心を除く。するとそこには
「誰か! 誰か助けてください! 弟のカリスが!」
13歳ぐらいの少女が助けを求めているのが見えた。
「おいおいお姉ちゃん。そんなに大きい声出したらカリス君の首にこのナイフが刺さっちゃうよーひっひっひっひっひっ」
髭を生やし片手にナイフを持った男が10歳ぐらいの少年を人質にしている。
「おい! そこの女! これ近づくな!」
周りにいた桃色ショート髪の女が怒鳴りつけられた。
「は、はい…」
怯えて下がる桃色の女。
「何だ、揉め事か。こういうのは関わらないのが無難だな。さっさとスローライフを送る準備始めよー」
トールがその騒ぎから背中を向けて歩き出すと、
「きゃぁぁぁーーー!やめてよおじさん! カリスの首から血でてるから、もうナイフ近づけないでよ!」
と、より大きくなった叫び声が聞こえてきた。そして少年の首に少しずつナイフが刺さっていく。
「おい! 止めろ!」
その声を聞き、見逃すことが出来なかったトールは円の中心に入った。
そして少女の頭を撫でて言う。
「助けてやるよ、こっからは俺に任せろ」
【つづく】