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1話 アリエット植物園



           1話




 トールが村を出て2年後……。


「ごめんなさい。今の私はトールを愛することが出来ません」


 鳥籠の形をし、直径50メートルほどあるアリエット植物園にいる。天井が高く、更に広く花畑が広がっているように見える。

 植物園の天井も壁も何もかもがガラスで造られているため、天井から透けて見える晴れた空がきれいだ。


 そんな、アストレア国のベストデートスポットに、二人きりの貸切状態でトールは一人の女の声を真剣に聞いている。


「は? 何を言ってるんだよユリカ、俺は愛しているぞ。騎士団の仕事で忙しくて会えなかったからか?」


 ユリカは目をそらし、耳に艶のある銀髪をかけて声を響かせる。


「ほ、他に好きな人が出来てしまったのです」


 これを聞いたトールは口を開けて呆然としている。


「…………」


 実はトール、こうなってしまうことにに薄々気づいていた。

 付き合いたての初めの頃はダンジョンに出た時

HPが20%減っただけで、回復魔法をかけてくれたが、最近となっては残り40%を切ってからようやくかけてくれることなど、扱いが雑になってきているのを感じていた。


 他にも沢山ある。


 メシを食べる時も窓の方ばかり向いて一切顔を合わせようとしないし、街を2人で歩いている時にも前より肩と肩の間を保とうと意識してくる。


 つまり、嫌ってるってことをトールに認知させたかったのだろう。


「あの、一つお願いしたいことがあるのですけど…」


「何だ、金か?」

 

 むしゃくしゃしたトールは口調を強くして聞いた。


「わ、私をそんな人だと思っていたのですか!?」


 結果、更に減滅。


ユリカは驚いた表情を見せたが、すぐに通常営業に戻り、冷たく喋りだす。


「今頃あなたがどう思っていても私には関係のないことですが。どうかこのままアストレア国の騎士団の1人として務めてくれませんでしょうか?」


「断る」


 トールはユリカに会うためだけに騎士団に所属していたから。ただそれだけだからだ。振られて用がなくなっては騎士団に入り続ける意味なんてない。


「お願いします! あんなことを言った直後で申し訳ないのですが、トールがいなければこの国がモンスターの襲撃によって滅んでしまうのです」


 トールはこのアストレア国の騎士団エースを務めていた。ユリカを一目見るためだけに王宮の庭でこっそり剣術の練習をしていたらいつの間にか強くなっていたのだ。

 元々トールは森の奥にある小さな村に住んでいたただの農民だったが、たまたま村に訪れた武器屋のオッチャンがトールの斧を振る姿に惚れたらしく、剣術の才能があると認められてこの国に連れてこられたのだ。。親に売られて。


「おい、トール! 聖女ユリカ様の頼みごとを断るとはどう言うことだ! 国王と聖女の言うことは絶対なのだぞ!」

 

 植物園に男の怒鳴り声が響く。小さなガラスのドアを開けて騎士団副エースのアルタイルが入ってきたのだ。


そのアルタイルの言葉に、トールは一瞬苦虫をかみつぶしたような顔をしたが、無表情に戻り、


「別にどうもしていない。確かに聖女の命令を拒否することは罪なのかもしれないが、騎士団に戻るくらいなら金貨1枚の罰金なんて軽いもんだ」


 この国では騎士団の収入が高いため、騎士団エースだったトールはこの国で2番目ぐらいに稼いでいた。金貨1枚は平民にしたらだいだい10年間毎日働いてようやくもらえるぐらいの収入だが、1日金貨20枚もらっているトールにとっては擦りギズぐらいにしかならない。


「そういうところだぞトール。その金貨一枚でどれだけの人が幸せに暮らせるようになるか、今現在もお金がなく苦しんでいる人も沢山いるんだぞ」


「黙れアルタイル。貨幣は溜め込まずに、あるならあるだけ使ってしまった方がお金がない人にお金が回るだろう。逆に溜め込んでいるお前の方が悪質だと思わないか? お金持ちってのはな、沢山消費して経済を回さないといけないんだ」


「確かにそうかもしれないが、俺が言いたいのはそう言うことじゃない! ……俺が言いたいのはもっと一つ一つのことを大切にしろってことだ」

  

 アルタイルはため息をしながら喋るかのようにダラダラと言った。


 何か言い返そうと、ムズムズしているトールは、カラフルなお花畑の真ん中で、黙りこんでいる。


「…………」

 

「アルタイル、もう行きましょうよ。私には大門に結界を張る仕事があるの」


 アルタイルに話しかける時だけユリカの声が生き生きとしていることに気づくトール。


「そうだな、そろそろ戻ろうか。じゃあなトール。騎士団の寮で持ってるぞ」


 と言い、口元をにやけさせた後、トールをちら見して、アルタイルはユリカと手を繋いで、出口の方に背中を向けて歩き始めた。

 

 「そう、だったのか…………」


 トールは下を向いたまま呟く。

 あまりの驚愕に声が勝手に出てしまったのだ。同時に怒りが込み上げてきたトールは周りをちらちらと飛ぶ蝶たちにまで怒りを覚えた。


「どうかしましたか?」

 と、その声が聞こえていたらしく二人は立ち止まってこちらに振り向いてくる。


 そんな二人に、


「じゃあなっ!」

 と、トールは怒りに任せて言い放ち、立ち止まっている2人に金貨1枚を投げつけて、裏の出口からアリエット植物園を走って出た。


「何をしてるんだ俺は! クソッ! ダメだ、何でこんなことで泣いてるんだよ!」

 

 トールは歯を食いしばり、目から溢れ出す涙を右腕で塞いで、隙間なく屋台が並ぶ街中を駆けている。


「何で、こんなに愛しているのに。いくら努力して強くなって金持ちになってもアルタイルと俺との顔面偏差値の差には勝てないのかよ」

 

 そしてトールは泣き声に混じりながら叫んだ。


「くそアルタイルが!正義のヒーロー気取りやがって!」

 

 トールにはただ愚痴を言うことしか出来なくなるほどに余裕が無かったのだ。



【つづく】

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