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さて妖精の靴を手に入れた女王ですが、肝心なことに気が付きます。靴が小さすぎて、履くことができないのです。
それもそのはず。妖精の靴は、女の子の足に合わせて、呪文で小さくなっているのですから。
「これじゃあ、何の役にも立たぬではないかえ」
怒った女王は、たくさんの兵士を連れて妖精の森へ赴きました。
「出てきな、妖精。いるのは判っておるぞ」
すると、森の奥から、妖精が姿を現しました。
「やあ、人間の女王。ぼくに何か用かい?」
「この靴は、おまえが作った物だろう」
女王は、女の子から奪い取った妖精の靴を見せつけました。
「どうしてこれを、女王が持っているんだい?」
「あの小娘に献上させたのさ。妾の国の物は、全て妾の所有物だからね」
「ずいぶん変わった決まりだね」
「妖精なんかに、妾の国の素晴らしさが理解できるものかい」
女王は、馬鹿にしたような冷たい目で、妖精を睨みつけました。
「この森も妾の領地だ。従って、ここの木は全て妾の物なのさ」
「でもこの森は、女王の国ができるずっと前からあるんだよ」
「口答えをするでないよ。今すぐにでも、この森を焼き払ってしまってもいいんだよ」
女王が命令すると、兵士たちが手に持っていた矢に火を点けだしました。
あの火矢に射られたら、森はたちまち大火事になってしまいます。木々は怯え、がたがたと震えました。
「だが妾は寛大な女王だ。もしおまえが、妾の国の兵士全員に妖精の靴を作るというなら、火矢を射かけるのはやめてやろう」
「そんなにたくさんの靴を、いったい何に使うんだい?」
「決まっているだろう。隣の国に攻め込むのさ。妖精の靴があれば、あっという間にたくさんの兵士を移動させられるからねえ」
何と女王は、妖精の靴を戦の道具にするつもりだったのです。確かに、一瞬で別の国に行けるようになったら、相手が戦の準備をする前に占領することができます。
「女王の国は充分大きいじゃないか。どうして戦をしてまで、領地を広げる必要があるんだい?」
「妖精のおまえに、崇高な妾の考えが判ってたまるかい」
「だいいち、そんなにたくさんの靴を作るとしたら、精霊樹を切り倒さなくちゃならない。そんなことをしたら、どんな災いが起きるか判らないよ」
「ばかなことを。そんな迷信なんて知ったことかい。今すぐその精霊樹とやらを切り倒して、妖精の靴を作るんだよ。さっさとおし」
女王は聞く耳を持ちません。しかし逆らえば、森は燃やされてしまうでしょう。
妖精は少し考えると、名案を思いついたとばかり手を叩きました。
「女王の命令なら、言う通りにするしかないね。ただ、たくさん作るのには時間が掛かるから、まずは他の木たちが履いている靴を献上するよ」
「そうかい。そりゃあいい心がけだ」
女王はその答えに満足しました。
「とりあえずそれだけあれば、偵察や暗殺を行うことはできるからのう」
何とも物騒なことです。
妖精は呆れながらも、言葉を続けました。
「ところで、寛大な女王。靴を献上する前に、みんなでダンスを踊ってもいいかな?」
「ダンスだって? 時間が掛かるのはご免だよ」
「最後の思い出にしたいんだ。すぐに終わるから」
「なら、さっさとおし」
女王の許しを得ると、妖精は歌を歌いだしました。
すると、歌に合わせて、森の木々が軽快にダンスを始めました。
それは奇妙な光景でしたが、とても楽しそうで、女王も兵士たちも思わず魅入ってしまいました。
すると踊っていた森の木々が、少しずつ宙に浮いていくではありませんか。
「これはどうしたことだ?」
女王が妖精に訊きました。
「楽しくて飛び跳ねているのさ。途中で止めたらやり直しになっちゃうから、そっとしといておくれよ」
やり直しは勘弁願いたいので、女王は言われた通り、木々のダンスを黙って見物していました。
やがて森で一番古株の精霊樹も、空に浮かび上がりました。妖精はその枝に腰かけ、楽しい歌を歌い続けます。
そのうち精霊樹と森の木々は、踊りながらみるみる空の向こうへ消えていきました。もちろん妖精もいっしょです。
「ああ、しまった」
女王が気付いたときには、もう手遅れ。
妖精の森があった場所には、一本の木も残されていませんでした。




