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丸腰の素人です

 翌朝、イリスは早々にモレノ邸に向かった。


 一人で出歩かないという約束をしているので、一応馬車を使ってダリアも一緒に来てもらう。

 本当は一人でこっそり歩いて行きたかったのだが、仕方がない。

 あえて危険な目に遭うつもりもないし、一人歩きが見つかればヘンリーが飛んで帰ってきかねない。

 もしもそうなれば、ヘンリーと距離を置きたいという目的が一瞬で破壊されてしまう。


 面倒でも、安全策をとる。

『急がば回れ』とは、つまりこういうことなのだろう。

 先人の知恵は侮れない。



「カロリーナに会いに来たんだけど、いるかしら?」


 努めて平静に、侯爵家の使用人に声をかける。

 ドロレスに会いに来たと言えば、何事かと思うだろう。

 ヘンリーに連絡されてしまえば、ゲームオーバーだ。

 ここは、カロリーナに会いに来たという体で取り次いでもらうのが、一番自然で安全だろう。

 ついでに、『碧眼の乙女』の記憶と引き換えにしたものの話をしたい、というのもあった。




「お祖母様と一緒に、田舎に行きたい? どうしたの、イリス」


 突然のイリスの訪問と報告に、カロリーナも混乱した様子だった。

 瞼の奥に走った閃光と記憶の代償の話をすると、腕を組んで考えこんでいる。


「……つまり、何? 羞恥心ゼロの無敵状態から、急に取り戻した羞恥心を扱いきれないということね?」

 飲み込みが早くて、助かる。

「そうなの。私が残念なのは変わりないんだけど、自信満々で残念ではいられなくなったというか……」

「まあ、イリスは元々かなり鈍感だったけど。羞恥心ゼロのおかげで、拍車がかかっていたわけね」


 ……そうか、元々かなり鈍感だったのか。

 道理で残念がはかどるはずだ。

 自分ではあまり把握できていなかった事実をかみしめつつ、うなずく。


「カロリーナはどうなの?」

「……そうねえ。思い返せば、確かに当初は闘争心みたいなものが薄かったかもしれないわ。でも、最初のうちだけよ? 隣国で噂を聞くたび、襲撃してやろうかとイライラしていたから」

「そうなの?」


 では、イリスだけがこんなに遅れて代償にしたものが復活しているのだろうか。

 最後の四作目というのが影響しているのかもしれない。

 機会があれば、ベアトリスとダニエラにも聞いてみよう。



「それで、ヘンリーに会いたくない、と」

 核心に迫る言葉に、イリスは一瞬言葉に詰まる。


「会いたくないわけじゃないけど、今は困るのよ。敵は残念の無敵装甲に攻撃し慣れているのよ? 歴戦の戦士なのよ? なのに、こっちは素人で丸腰よ。このままじゃ流れ弾でも死んじゃうわ」

 真剣な訴えに、カロリーナは苦笑する。

「ああ、まあ。……ヘンリーが知れば、何だかんだで喜んで攻撃してくるでしょうね」


 やはりか。

 そんな気はしたが、実の姉が言うのだから間違いないだろう。

 ということは、ヘンリーはしばらくの間は近付きたくない危険人物ということだ。


「面倒見の鬼なのに、こんな時は本当に鬼なの?」

 思わず愚痴をこぼしてしまう。

「あいつも男だから。まあ、これに関してはイリスも悪いというか」 

「そんな。残念だったのは悪気があったわけじゃないのに」

 一応、こちらだって命がけの残念状態だったのだ。

 ヘンリーを苛むために残念だったわけではないのだから、それは許してほしい。



「そこじゃなくて、なんて言ったらいいのかしら。……お預け食らい続けたから、ちょっと意地悪したくなるというか」

「そんな」

 では、イリスが距離を置いたとしても、結局は攻撃されてしまうのか。


「そんなの、絶対に会えないじゃない」

 こうなったら、しばらく遠方に療養という形で離れた方が良いのだろうか。

 でも、何の療養だろう。

 残念は、休めば治るのだろうか。


 泣きそうなイリスを見て、カロリーナが苦笑する。

「ちょっと落ち着くまで離れる位なら、協力するわ。私もお祖父様には最近会っていなかったし。一緒に行きましょう。お祖母様には私からもお願いするわ」

 カロリーナが天使に見える。

 なんて頼もしいのだろう。

 丸腰の素人(イリス)に攻撃しようとする戦士(ヘンリー)とはえらい違いだ。


「ヘンリーは暫く忙しいと言ってたし、ちょうど良いわね」

「ありがとう」

 イリスは目を潤ませながら礼を言うと、ほっと息をついた。


「……こんなに反応の良いイリスを見たら、ヘンリーも暴走しかねないしね」

 安心感でいっぱいのイリスには、カロリーナの呟きは聞こえなかった。




「ああ、別に構わないよ。一緒に行こうか」

 カロリーナが同行をお願いすると、ドロレスはあっさりと認めてくれた。

 やはり、孫のカロリーナが一緒というのが効いたのだろう。


「ロベルト……ヘンリーの祖父もイリスに会いたがっていたしね。それと、ちょっとイリスにお願いしたいこともあるんだ」

「お願い、ですか? わかりました。掃除でも何でもします。ありがとうございます」

 体力はないが、別に不器用なわけではないから、それくらいはできるだろう。


「そんなことじゃないよ。イリスを連れて行ってわざわざ掃除させたなんて知られたら、私がヘンリーに睨まれるよ」

 ドロレスは面白そうに笑っている。

「ただし、モレノ侯爵家の本拠の一つだからね。イリス以外は連れていけないよ」

 ダリアもまだモレノのことを知らないので、駄目ということか。


「着替えを数着用意だけしてくれれば、後は大丈夫。アラーナ伯の許可を取れたら連絡してくれるかい? 昼には迎えに行くからね」

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