表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化・コミカライズ】 残念令嬢 ~悪役令嬢に転生したので、残念な方向で応戦します~  作者: 西根羽南
第四章 残念なお披露目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/276

肉の女神と杯

『いいわよね、残念ドレス。特に目潰しの効果は侮れないわ。着ているだけで自然に視力を奪うなんて、素晴らしい攻撃性だわ』


 かつてファティマが言っていたことを考えると、希望は視力を奪う攻撃的なドレスなのだろう。

 部屋で考えていても仕方がないので、イリスはミランダの店に向かうことにした。




「えー! 俺も一緒に行きたいです」

 もはやアラーナ家にいない日はない状態のクレトは、そう言ってイリスの後ろをついてきた。


「クレトは、お父様と勉強があるって言ってなかった?」

「そ、それは」

 だが諦めきれないらしく、クレトは悩んでいる。

 そんなに一緒に行きたいということは、クレトも服を仕立てたいのかもしれない。


「クレト様。仕立て屋では採寸すると思いますので、男性の同伴は……」

 ダリアのやんわりとした断りの文句に、クレトは暫し瞬いて考える。

 すると、みるみる顔が赤くなってきた。


「す、すみません! 俺、勉強してきます!」

 叫ぶや否や、勢いよく走って行ってしまった。


「お嬢様の採寸と聞いて恥ずかしがるのですから、可愛らしいものですね」

 ダリアが微笑んで見送っている。

 採寸する予定はないし、するとしても別室なので関係ないと思うのだが。



「……え? 待って。私、公開採寸する女だと思われてるの?」


 いくら残念なイリスでも、下着姿を公衆の面前に出すつもりはないのだが。

「もちろん違いますし、クレト様は単に想像して恥ずかしくなっただけでしょう。ですが、お嬢様ならやりかねないとは思っています」


「さすがにないわよ」

「そう願います」


 どうやら、今までの残念の数々のせいで、ダリアからの信用が無いらしい。

 己の残念を振り返って、強く否定できないのが悲しい。

 ダリアの微笑みにイリスは仕方なく口を閉ざした。



 ダリアはまだ、モレノ侯爵家の家業の存在を知らない。

 アラーナ家に残るのならこのまま。

 イリスについてくるのなら、婚儀の後に教えて良いと言われている。


 イリスの侍女とはいえ、雇っているのは父だ。

 ダリアのことは好きだが、ついてきてほしいと言って良いものなのかイリスは悩んでいた。

 年齢的にも結婚を考えていておかしくないし、これを機に辞める可能性は高い。

 寂しかったが、ダリアの人生の邪魔をしてはいけない。


 イリスが今後の話をすれば、別れが近付く。

 悪あがきだとわかっていても、もう少しだけダリアに甘えていたかった。




肉の女神(イリスさん)じゃありませんか!」

 ミランダの店につくと、灰色の髪の少年が喜色満面で出迎えてくれた。


「その呼び方はやめて。……ラウルは今日もお手伝いをしているの?」

「いえ。今まではちょっとした手伝いだったんですけど、本格的に仕立て屋修行を始めたんです」

「そうなの?」


「僕はガラン男爵を継ぐわけじゃないんで。手に職ですよ。それに、服作りにはもともと興味がありましたからね」

「そう、先を考えていて、偉いわね」

「あれからクレトとも仲良くなりまして。一緒に頑張ろうと言っているんですよ」

 笑顔のラウルはそう言ってイリスにお茶を差し出す。


「そうなの。良いわね」

「はい。共に肉の女神(イリスさん)を崇め、守るために頑張ろうと杯を交わしました」

「……え? 何それ」

 伯爵の跡継ぎと仕立て屋修行、共に頑張ることで意気投合したのではないのか。



「ああ、大丈夫ですよ? ちゃんとクレトはジュースを飲んでます」

「違うわ。アルコールの有無を確認しているんじゃないの。……何、崇めるって。何するの」


「大丈夫です。僕とクレトがイリスさんを守りますからね! ヘンリーもいますし」

「質問に答えてない。……え? ヘンリーも参加してるの?」


「僕たち友達なので!」

「……え、ええ?」


 確かにラウルはヘンリーに友達になってくれ、と言っていた気がする。

 だが、ヘンリーが了承した記憶はないのだが。

 そして、友達になっていたとしても、肉の女神を崇める集いにヘンリーが参加するとも思えない。


 していたらしていたで、何だか嫌だ。



「最近では、伯母についてバルレート公爵家にも行って来たんですよ。いやあ、公爵家はさすがに広いですね」

 イリスがヘンリーの肉への信仰について考えている間に、ラウルは仕立て屋修行の話を進めている。


 バルレート公爵家と言えば、ベアトリスの家だ。

「そう言えば、最近ベアトリスにも会っていないわ。元気だったかしら?」

「公爵令嬢とお知り合いですか?」

「うん。友達なの」


 すると、ラウルの顔に喜びが広がる。

「黒髪と金の瞳の美女同盟ですか、肉の女神の集いですか」

 何やら謎の理由で興奮しているようだ。

 よくわからないが、あと二人黒髪金目がいるのは言わない方が良さそうだ。



「公爵令息のエミリオ様の採寸を手伝ったんですが、美人な兄妹ですね」

「そうね」


 友人達とのお茶会がもっぱらバルレート公爵家開催だったために、エミリオとは何度も面識がある。

 穏やかで優しく、ベアトリスに似た端正な顔立ちだ。


「あ。でも、僕の肉の女神はイリスさんだけですからね」

「え、いいわよ。他の肉にしなさいよ」

「謙遜する肉の女神(イリスさん)も美しいです」


 基本的に、ラウルは話が通じるようで通じない。

 悪い人間ではなさそうなのだが、困った人間ではある。



「そう言えば、兄妹で何か揉めていましたけど。続きとか何とか……よくわかりませんが、家柄が良いと色々あるんでしょうね」

「ええ? あの二人が?」


 ベアトリスはもちろん、エミリオも穏やかで優しいのに、珍しいこともあるものだ。

 もしかすると『雨の後は三日間外出禁止』という謎のしきたりで、イライラしていたのかもしれない。


 モレノといい、上流貴族は何でわけのわからないしきたりが多いのだろうか。

 イリスは普通の伯爵令嬢で良かったと思う。


 まあ、今は残念な令嬢なので、ある意味普通ではないのだが。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

-


「残念令嬢」

「残念令嬢 ~悪役令嬢に転生したので、残念な方向で応戦します~」

コミカライズ配信サイト・アプリ
ゼロサムオンライン「残念令嬢」
西根羽南のHP「残念令嬢」紹介ページ

-

「残念令嬢」書籍①巻公式ページ

「残念令嬢」書籍①巻

-

「残念令嬢」書籍②巻公式ページ

「残念令嬢」書籍②巻

-

Amazon「残念令嬢」コミックス①巻

「残念令嬢」コミックス①巻

-

Amazon「残念令嬢」コミックス②巻

「残念令嬢」コミックス②巻

一迅社 西根羽南 深山キリ 青井よる

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ