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迫る『碧眼の乙女』

 今日はベアトリスと一緒に、修道院にいるダニエラに会いに行く。

 つい最近『碧眼の乙女』三作目が終わり、ヒロインを応援し続けたダニエラは無実の罪で修道院に送られたのだ。

 報われない話だが、ダニエラは修道院が性に合っているらしく、楽し気なのが唯一の救いだ。




「……随分と頑張りましたね」

 ベアトリスは残念令嬢状態のイリスを見て、穏やかに微笑んだ。

「その傷が化粧なんて、凄いわ。ちょっと触ってもいい?」

 ダニエラは興奮して、額の傷を突いてきた。

 カロリーナはこの場にいないけれど、友人の変わりない様子にイリスは顔が綻んだ。



「それで、まだ婚約していないの? アベル王子」

 ダニエラはすっかり修道服に馴染んでいて、まるで生粋の修道女のようだ。

 話す内容は、かなり俗っぽいが。

「まだみたいですよ」

「平民のヒロイン……なんて言ったっけ?」

「クララです。クララ・オルタ」


「それそれ。四作プレイしてると、もうごちゃごちゃになってくるわ。その平民ヒロインのクララのために、ベアトリスは無実の罪で婚約破棄されたっていうのに。まだ婚約してないって何なの? もう二年も前の話でしょ?」

 ベアトリスが持ってきた差し入れのクッキーを頬張りながら、ダニエラは怒りを隠さない。


「平民だったから、難航しているのかしら」

「あら、でも王子との婚約のために、貴族の養子になったはずよ? ゲームでは、ベアトリス断罪イベントの直後に婚約していたと思ったけど」

 イリスの疑問に、ダニエラが即座に答える。

 さすがは四作すべてをプレイした人間だ。


「じゃあ、ベアトリスが頑張って回避した結果、婚約が遅れたってこと?」

「微妙過ぎて、そんな戦果はいらないです」

 ベアトリスは大きなため息をつくと、粗末なカップのお茶を口にした。



「そう言えば、カロリーナの二作目はどうだっけ?」

「一作目と同じ、平民ヒロインよ。名前はメラニア、だったかな。でも、結局貴族の子だと判明するのよね」

「ええ。確かその異母兄弟が、三作目のヒロインのセレナが捨てた婚約者だったような気がします」

「ああ、そうだわ。それが四作目のメインのレイナルドよ。確か」

「……どうでもいい繋がりがあるのね」


 イリスは感心した。

 実際は、後付け設定だろうが。

 セレナに捨てられたレイナルドの人気が出て、四作目でメインになったという話を聞いたことがある。

 乙女ゲームは、所詮、顔なのかもしれない。


「ゲームでは、私達の繋がりはありませんでしたよね?」

「悪役令嬢だもん。わざわざ背景を語らないわよ。誰も興味ないでしょ」

「なのに、なんで死ぬと明言するのかな! 四作目だけ!」

 三人は揃って盛大なため息をついた。




『碧眼の乙女』四作目の流れはこうだ。


 まずは学園で、ヒロインのリリアナとレイナルドが一緒にいる所で、婚約者ぶって絡む。

 夏の夜会で、レイナルドをパートナーにして参加して、リリアナに見せつける。

 秋の夜会で、レイナルドとの婚約を発表して勝ち誇る。

 ここからはリリアナに本格的に嫌がらせと、レイナルドに執着。

 冬の夜会で、一気に盛り上がる二人を発見して、卒業と共にすぐ結婚するように迫る。

 春の舞踏会で断罪、婚約破棄、二人は公認カップルとなり、イリスは牢へ行って謎の死。

 卒業と共に二人は婚約する。




「レイナルドとの婚約は阻むとしても。回避せず、逃避せず、応援もしないって、難しいですね」

 ベアトリスは頬に手を当てて、困ったように首を傾げる。

「とりあえず、何で死ぬかわからないから、武力はあった方が良いと思うの。だから、魔法を学んでるし、剣も習っているわ」

「ええ? 剣?」

 手袋の下の血豆だらけの手を見ると、二人は息を呑んだ。


 皆、生粋の御令嬢だ。

 日本の記憶が多少戻ったところで、今までの記憶がなくなったわけではない。

 その常識からすると、年頃の御令嬢が剣に触れること自体がありえない。

 まして、手が血豆だらけなど、想像すらしたことがないだろう。

 蝶よ花よと育てられ、何不自由なく生きてきた。

 イリスにとっても、それが普通だった。

 でも、それでは駄目なのだ。


「本当に、頑張りましたね」

 ベアトリスは涙を浮かべながら、イリスの手を撫でる。

「まだ、これからよ。回避も逃避も応援も駄目とわかっただけでも、理不尽な死への対策になるわ。あなた達の戦いを、無駄にはしない」



 そう、これからだ。

『碧眼の乙女』の四作目は、学園生活と共に始まるのだ。

 それは、ヒロインのリリアナにとっては、甘い恋の始まり。

 そして、イリスにとっては、生きるための戦いの始まりなのだ。


「私は自由に動き回れないけど、応援しているから。いつでも、頼ってね」

「一緒に、戦いましょう」

「ありがとう」




 いよいよ、一年間の学園生活が始まる。


「まずは、最初が肝心よね」

 本当は、関わらずにいたいけれど、それでは死ぬだけだ。

 やるしかない。

 そして、どうせやるなら、とことんやるのだ。


 立派に残念な令嬢になって、必ず生き残ってみせる。

 イリスは教室の入り口で、大きく深呼吸をした。


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