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【書籍化・コミカライズ】 残念令嬢 ~悪役令嬢に転生したので、残念な方向で応戦します~  作者: 西根羽南
第三章 残念な戦い

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おまえのじゃない

「いくらヘンリーは残念な状態が良いといはいえ。ヨロヨロなのは、さすがに良くないわよね」



先日の失敗を活かして考えた結果、鍛錬の内容を少し減らすことにした。

一番身につかないくせに一番疲れる剣の稽古を減らしたおかげで、少しはふらつきも落ち着いた。


おかげで魔法の精度も上がって、今日はダリアの靴と床の間を凍らせるのに成功した。

転びそうになったダリアに怒られたが、動いているものに対応できるようになったのはかなりの成長だと思う。

この調子で、隙間という隙間を凍らせていきたい。


イリスは当初の目的を忘れて、すっかり隙間の凍結に夢中になっていた。




「イリスさん、今日はご機嫌ですね。」


ほぼ毎日アラーナ家にいると言っても過言ではないクレトが、庭に出て来た。

辺りを見回すと、クレトは首を傾げて腕をさすっている。

「……何だか、この庭寒くないですか?」


それは、イリスが片っ端から凍結させている冷気のせいである。

ついでに、庭に出る扉をクレトがなかなか開けられなかったのも、イリスの凍結のせいだ。

イリス自身はボリューム調整コルセットをしているので、多少は温かいとはいえ、さすがに凍らせすぎた。


「そうね。確かに、ちょっと冷えたかも。……せっかくだし、一緒に散歩する?」

「――はい!」

クレトがお手本のような元気な返事をするので、イリスは思わず笑ってしまう。


ヘンリーに一人で出歩くなと言われていたが、クレトがいれば一人ではないので問題ないだろう。

屋敷の周りを一周すれば体も温まる。

気分転換をしたら、また鍛錬の続きを頑張ろう。

今日はヘンリーが来ると言っていたから、それまでに鍛錬を終わらせておかなければ。




「イリス・アラーナさん。一緒に来てもらえますか」


屋敷を出てしばらく歩いたところで、少年がイリス達の前に立ちふさがった。

灰色の髪の少年は、イリスを見て嬉しそうに微笑んでいる。


「……誰?」


知らない顔だし、知らない声だし、何で呼ばれたのかもわからない。

「イリスさんの知り合いですか?」

「違う、と思うけど」


イリスの言葉に、少年は肩を落とす。

「……覚えていないですよね、やっぱり」

「え? ごめんなさい。どこかで会ったかしら?」


夜会の残念を目指す男性の中にでも、いたのだろうか。

だとしたら、申し訳ないが全く記憶にない。



「まあ、いいです。とりあえず、行きましょう」

そう言ってイリスに伸ばした手を、クレトが払いのける。


「イリスさんに気安く触らないでくださいよ」

「何だと」

少年がクレトに向かって手を動かしたのを見たイリスは、咄嗟に魔法を使う。

靴と地面を凍結させ、動かした右手の指の間を凍結させた。


「な――」

動きを妨げられた少年が、驚いて自分の手を見る。

地面にくっついて動かせない足に何度か力を入れると、急に歓声をあげた。



「――凄いです! これが噂の氷の魔法ですか? 感激だなあ!」

「……は?」


「教室中の蝋燭を氷の塊で覆ったというのは聞いていましたが、これがそうなんですね。まさか目の前で見られるとは。幸せです」

恍惚と言っていい表情の少年に、イリスはもちろんクレトも反応できない。


教室の蝋燭に氷というのは、学園の授業のことだろうか。

だとすると、この少年は同級生か、その知り合いなのだろうか。

いや、それよりも。


「氷で覆った、って。何でそれが私のせいになっているの?」


不思議な蝋燭が勝手に凍ったことにしてあるはずだし、イリスが凍らせたという証拠はないはずなのだが。

「何でって……見た人間は全員、イリスさんの魔法だろうって言ってましたよ」


「何てことなの!」

イリスは頭を抱えた。


残念令嬢作戦の重要な『成績が悪い』要素が、上手くいっていないではないか。

これでよく『碧眼の乙女』との戦いに勝てたものだ。

きっと他の残念ポイントでどうにか穴埋めしたのだろう。

地道に努力しておいて良かった。


「いやあ、イリスさんの魔法を体感できるなんて、僕は幸せですよ。指の感覚がなくなっていくところもまた、たまらないですね」

少年は嬉々として氷のついた手を眺めている。

足元の氷は溶けたらしく足踏みをしているが、妙に楽しそうだ。


「……どうしよう、クレト。何か気持ち悪いんだけど」

「……俺も同じ意見です」



「さあ、それでは。行きましょうか、イリスさん」

「――どこに行くって?」


「ヘンリー?」

いつの間にか背後にいたヘンリーは、イリスの頭を撫でると、少年との間に立った。


「お前は、諸悪の根源、ヘンリー・モレノ!」

少年は叫んで飛びかかるが、難なくかわされる。

何度かそれを繰り返すと、少年の息があがってきた。


「……で、おまえは誰だよ。イリスをどこに連れて行く気だ?」

全く息を乱さないどころか、退屈そうなヘンリーが問いかける。


「どこでも良いだろう! お前のような野蛮な人間がそばにいたら、イリスさんに悪影響だ!」

「……つまり、無計画か。なら、もういいか」


つまらなそうにそう言うと、ヘンリーの右手が少年の鳩尾に吸い込まれる。

一瞬の静寂の後、少年は地面に転がって呻く。



「結局、何なんだ、こいつ。……怪我はないか、イリス」

「うん、大丈夫。クレトもありがとうね」

「い、いえ。大した役には立ってないです」

クレトは頬を赤らめながら、首を振る。


「イリスを守ってくれたのか。ありがとう、クレト」

ヘンリーのお礼の言葉に、クレトは固まった。

「ヘ、ヘンリーさんこそ、凄かったです!」

「ん? そうか?」

クレトのヘンリーを見る目が、輝いている。


これは、憧れの眼差しというやつだろうか。

何だか急にクレトがヘンリーに懐きだしたが、仲が良いのなら問題ない。



「……最小限の動きで体に食い込む一撃。……凄かったです」

少年が地面に転がったまま、何だか楽しそうに呟いている。

「……おまえ、大人しく転がってればいいのに。何がしたいんだ?」

ヘンリーが呆れたように問いかけると、少年は呻きながら起き上がる。


「僕のイリスさんを守りたかったんですが」

「おまえのじゃない」


「ヘンリー・モレノ。君になら託せます。僕のイリスさんを頼みました」

「だから、おまえのじゃないって」


「そして、僕と友達になってください」

「何でだよ」


「共にイリスさんを守りましょう」

「――なら、俺も参加します!」

ヘンリーは輝く瞳の少年と、更に輝く瞳のクレトにまっすぐ見つめられている。



「ヘンリー、モテモテみたいよ?」

ヘンリーは深いため息をつくと、イリスの肩に手を置く。


「……こういうのもいるから、一人では出歩くな」

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