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残念の先駆者

 

『碧眼の乙女』に応戦するため、イリスは一年間残念なドレスを着続けた。

 その影響で、世の中に変化が起き始めていた。


 まずは、有名な仕立て屋のミランダが、残念ラインというシリーズでドレスを作り始めた。

 激しい色合い、おかしな装飾などが目立つこのシリーズは、当初は嫌厭されていた。


 だが幸か不幸か、パステルカラーで装飾控えめの淑やかドレスの流行が下火に。

 それと同時に、正反対の残念ラインは注目を浴びはじめた。



 人は残念に慣れると学んだイリスだったが、まさか、残念が残念を卒業する日が来るとは思わなかった。

 感慨深いというか何というか。

 末恐ろしい世の中である。




「伯爵令嬢に戻ったって楽しくないと思っていたけど、残念ブームは面白すぎるわ。せっかくだから、残念なドレスで夜会に参加しましょうよ」

 半ば無理矢理修道院を出されたダニエラから、イリスに夜会の誘いが来た。


 何でも、残念なドレスの集いがあるらしい。

 なんて残念な夜会なのか。

 もう、普通のドレスで行った方が残念な扱いをされるんじゃないだろうか。

 色々思うところはあったものの、学園を卒業して暇だったイリスはダニエラの誘いに乗ることにした。


 となれば、久しぶりに残念なドレスを作らなければいけない。

 イリスは仕立て屋に赴いた。




「まあ、イリスお嬢様! いらっしゃいませ。……顔の傷はどうされたんですか?」


 仕立て屋のミランダはいくつもの布を持って忙しそうにしていたが、イリスを見つけると、それを放り出してやって来た。

「傷は、お化粧でつけてただけよ。……ドレスを作りたいんだけど、大丈夫?」

「まあ! 化粧で傷をつけるなんて。さすがは残念の先駆者(パイオニア)。発想が違いますね!」


 謎の理由でミランダに褒められた。

 というか、残念の先駆者(パイオニア)って何だ。

 いつ、イリスが残念の道を切り開いたというのか。


「おかげさまで、イリスお嬢様のドレスにあやかった残念ラインが大好評です。でも、イリスお嬢様は特別なお客様ですから、もちろんすぐに取り掛からせていただきます」

「……あ、ありがとう」

 もう、何が何だかわからないけれど、とりあえずドレスは夜会に間に合いそうだった。



「イリスお嬢様は、学園でいち早く残念なドレスを披露していましたよね。それで、残念界隈では有名なんですよ」

「待ってよ。残念界隈って何なの」

 残念とその周辺なんて、みんなまとめて残念なだけではないか。


「しかも、学園の騒動でやり直し開催された舞踏会で、急に残念ドレスをやめて普通のドレスにしましたよね?」

「え、ええ、まあ」

『碧眼の乙女』との戦いのための残念だったのだから、戦いが終われば当然のように残念も終わっただけだ。


「あのギャップに、心を撃ち抜かれた人間が続出しまして」

「え?」


「特に殿方の中では、イリスお嬢様の人気がうなぎのぼりだとか」

「ええ?」


 目が痛くて視力を奪われるとは言われたことがあるが、そんな話は聞いたことがない。



「それを見て、残念自体は嫌だという真っ当な感覚の御令嬢も、ギャップで魅力を演出する手法に食いついたのです」

「いや。もう、普通に魅力を上げればいいじゃない。なんで一度、泥の底に潜らなきゃいけないのよ。地に這いあがっても、泥だらけよ。カピカピになるわよ」

「泥パックというものもありますし、泥もいいものですよ。お嬢様」


 ミランダの表情は真剣そのもの。

 こうして話していると、イリスの方がおかしい気さえしてきた。



「しかもイリスお嬢様が、人気なのにつれない態度で有名だったモレノ侯爵令息と親しい、という噂も加わりまして。御令嬢に残念ドレスのブームがやって来たのです」

「そ、そう……」

「さあ、今回はどんな残念なドレスにいたしましょう」

 ミランダの輝く瞳が眩しい。


 残念って、目が輝いたら負けだと思う。

 目を潰す威力こそが、残念だ。

 ここはひとつ、残念というものをミランダに叩きこまなくてはならない。


 謎の理論を聞き続けてすっかり感覚が狂ったイリスは、意気揚々と生地を選び始めた。





「べアトリスとカロリーナも行ければ良かったんだけど。残念ね」

「二人も誘ったの? ダニエラ」

「カロリーナは予定があるって知ってたから、誘っていないわ。ベアトリスは……あれよ。昨日雨が降ったでしょう?」

「……ああ、そうか。雨が降ったら三日間外出しちゃいけないんだっけ」

「そう。わけがわからないわよね。公爵家ともなると、しきたりやしがらみが多くて大変そうよね」

「そうね。家柄が良いのも、大変ね」


 バルレート公爵家では、雨が降った後三日間は基本的に外出ができないというしきたりがある。

 理由は知らないが、しきたりである以上、従わざるを得ないらしい。

 おかげで、友人達が集うのはもっぱらバルレート公爵家の屋敷だった。



「それで、パートナーはどうするの?」

 ダニエラに尋ねられ、イリスは言葉に詰まる。


 この一年は学園の夜会にしか参加していないし、それらはすべてヘンリーがパートナーだった。

 だが、学園を卒業して会うこともほとんどないので、ヘンリーにわざわざ声をかけるのもおかしい気がする。

 そもそもイリスと過ごすのは嫌だから避けているのだろうし、迷惑だろう。


「……迷惑なら言うから頼れって、言ったくせに」

「え? 何?」


 あんなによそよそしくされて避けられたら、頼るなんてできない。

 それに、あれは約束していた一年間だけの話なのかもしれない。

 何だか、すごくモヤモヤする。


「何でもないわ。特にあてもないし、一緒に行きましょうよ、ダニエラ」


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