悪役令嬢ズの残念ドレス
「残念令嬢」6/30コミックス1巻発売記念!
本編第8章の後を書いた、第8.5章をお届けしています。
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「イリスも、いよいよ結婚ねえ」
アラーナ邸で友人達とお茶を楽しんでいると、ぽつりとカロリーナがこぼした。
「結婚式後のパーティー用に、ドレスを仕立てないといけませんね」
カロリーナの前例があるので、モレノでは結婚式自体は限られた親族のみで行うと皆知っていた。
「イリスは残念ドレスも用意するの? あれは準備が大変そうよね」
確かに使用する生地の量は膨大だし、細かいパーツを用意しなければいけないし、仕立て自体も複雑だ。
結婚式の日取りが決まってしまった以上、そのあたりも考えなければいけない。
「カラーバーのドレスの時は、目が開けられなくなったわ。あれを作って着こなせるのは、イリスくらいのものよね」
楽しそうに話をする友人達を見ていて、ふと閃いた。
「皆をモチーフにした残念ドレスはどうかしら」
「……は?」
金の瞳をキラキラと輝かせるイリスに対して、三人の表情は困惑に彩られている。
「それぞれに合わせた、特注の残念! きっと素敵よ」
今までもテーマを持って取り組んできた残念だが、身に纏うのはイリスだけだった。
友人達は皆それぞれに美しいし、それに合わせた残念だなんて心が躍る。
「まずはベアトリスね。やっぱり、迸る色気を活かしたいわ」
友人達の中で一番の年長ではあるが、それとは別に淑やかさと色香を兼ね備える魅力。
これは是非とも残念に取り入れたいところだ。
「ベアトリスは色気、は賛成だけれど。露出を増やすわけにもいかないわよね?」
カロリーナが舐めるようにベアトリスを眺めるが、視線が胸のあたりから動かないのは気のせいだろうか。
「見せるだけが色気じゃないわ。ここはあえて隠して、想像力を刺激よ。……そうね。炭はどうかしら!」
「炭、ですか?」
カロリーナの顔を押しのけて無理矢理視線を変えたベアトリスが、不思議そうに首を傾げる。
「豊満な胸もくびれた腰も何もなかったことにする、まっすぐで真っ黒なボディライン。髪はまとめて、小さな炭を乗せましょう。触れると危険な美女のイメージで、ドレスには炭の粉をまとわせるわ」
「それ、触れると危険というか、触れると汚れるだけじゃないの?」
「聞く限り、ただの炭の粉まみれの黒い棒よね」
意気揚々とプランを発表したのだが、どうも反応がイマイチだ。
いや、ある意味では好評なのだが。
ベアトリスはどう思ったのだろうと視線を向けると、優しい笑みが返ってきた。
「イリスの気持ちだけ、ありがたく受け取りますね」
……つまり、却下か。
まあ、公爵令嬢であるベアトリスが残念になってしまっては社交界に激震が走るので、やめておいた方がいいのかもしれない。
「それじゃあ、カロリーナ。やっぱりすらりとした長身と格好良さがポイントよね」
普通に美少女だが、それ以上に凛とした佇まいが魅力であり、男装した際などにはそれが大爆発する。
これを逃す手はない。
「それも賛成だけれど、結婚祝いで男装させるわけにもいかないわよね」
「そうね。さすがに場にそぐわないと思うわ」
個人的には男装も好きだが、今回は残念で考えているので除外しておこう。
「すらりとして美しく、ぐんぐん伸びる……竹ね!」
「竹」
ベアトリスのティーカップを持つ手が止まったが、イリスの心は留まらない。
「爽やかな緑色で、いくつかの節を入れましょう。動く度にびよーん、と伸びる伸縮性が欲しいわ。それから、頭には当然笹の葉よね。せっかくだから短冊を飾ってもいいわ」
「それもう、ただの歩く七夕飾りじゃないの?」
「この世界に七夕はないはずなので、歩きながら伸縮する笹、ですね」
確かにこの場合、七夕を知っているかどうかでかなり印象が変わる。
せっかくなら観客にも短冊を飾ってもらいたいが、難しいかもしれない。
「どうせギミックを仕込むなら、胸の成長でお願い」
カロリーナに真剣な眼差しを向けられるが、これも却下ということなのだろう。
「あとはダニエラね。ここは小悪魔的な可愛らしさとあざとさをアピールしたいわ」
ダニエラは一見ただの可愛らしい系だが、それだけではない。
勘違いされがちなので、そのあたりをしっかりと伝えたいところだ。
「まあ、それは正解だと思うわ」
「ただ、結婚祝いの場であざとい友人というのも、どうなのでしょう」
ベアトリスの指摘はもっともだが、ダニエラはあざとくてもあくどいわけではないので問題ないはずだ。
「見た目は美しく、実は危険もある……トゲトゲの薔薇と同じね!」
「あ、一番まともなモチーフじゃない。一応、花だわ」
カロリーナがクッキーを摘まみながら、何かに感心している。
「全身を覆う緑のトゲで危険な女を表現し、頭の上には大きな薔薇の花を乗せたら華やかね。それから手袋にもトゲをつけて丸くすれば、完璧だわ!」
「それ、誰よりも先にダニエラに刺さるんじゃないの?」
「聞く限りは薔薇というよりはサボテンですし、サボテンというよりは緑のハリセンボンですね」
ハリセンボンとは言いえて妙だ。
海産物モチーフも視野に入れた方がいいかもしれない。
「私、痛いのは嫌だから。パス」
笑顔で断られたが、つまり全員却下ということか。
「そうよね……残念だらけじゃ残念じゃなくなるし」
友人達は残念ポイントを稼ぐ必要はないのだから、断るのも当然だ。
わかってはいるのだが、何となく寂しい。
「それよりもイリス。ヘンリー君とはいちゃいちゃしているの?」
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※「残念令嬢」がラジオで生朗読され、youtube配信されています。
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