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肉短編 モモ肉一皿、喜んで2

「残念令嬢」12/2書籍2巻発売&12/3コミカライズ連載開始に感謝を込めて。

肉祭り開催中!


今日も「いい肉の日」の肉短編。

書籍1巻・なろう版第1章の学園の食堂でのお話です。

 顔に傷を持つ変な格好の体幹だけ体格のいい肉食女子は、イリス・アラーナ伯爵令嬢というらしい。


 その名前を厨房内の人間が覚えるのに、そう時間はかからなかった。

 毎日の昼食は、肉。

 ティータイムにも、肉。

 相棒として選ばれるのは、葡萄や木苺のジュースか紅茶だ。


 野菜が苦手なのだとしても、せめてパンくらい食べてはどうなのかと思うが、やはり注文するのは肉と飲み物だ。

 偏食にも程があるし、手足や顔はほっそりとしているのに体幹だけ丸い謎の体型の原因は確実におかしな肉食のせいだろう。


 だが厨房内ではイリスに好意的な者がほとんどだった。


 何せ貴族の子女が通う学園なので、基本的に食べる量が少ない。

 女生徒に至っては学園在籍の一年間、紅茶とスイーツと野菜しか食べていないという者も少なくないほどだ。


 もちろん食は個人の自由なので無理に食べてほしいわけではないが、それでも腕によりをかけて用意したものが日の目を見ないのは寂しい。


 その点、イリスはその日のおすすめの肉を必ず注文してくれる。

 そればかりか感想を伝えた上に感謝までしてくれるのだから、食堂で働く者からすれば嬉しい存在だ。




「昼食のお肉のスープは、玉ねぎの甘みが効いて美味しかったわ。それから、揚げ物もサクサクの衣とお肉の相性が最高よ。いつも美味しい食事をありがとう」

「こちらこそ、ありがとうございます」


 今日もティ―タイムに元気にやってきたイリスは、早速昼食の感想を教えてくれる。

 常に肉しか注文しないイリスに少しでも野菜を摂ってほしくて肉入りスープにしたが、好評のようで安心だ。

 それなりの量の野菜も入っていたのだが、この様子では問題ないらしい。


「注文は何になさいますか?」

「ええと。紅茶と肉団子と蒸し鶏でお願い」


 予想通り、今日のティータイムも肉だ。

 こうなるとティータイムというよりも肉タイムと呼んだ方がいい気もする。


「蒸し鶏のソースは胡麻とピリ辛がございますが、どちらになさいますか? 今日のピリ辛は普段よりも辛みが強くて人気ですよ」


「選べるの? あんまり辛いのはちょっと……あ、でも人気ならヘンリーはそちらの方がいいのかしら。いや、駄目よ。今日こそ私一人で食べるんだから」

 何やらぶつぶつと呟くイリスの背後から手が伸びると、用意された肉団子の皿を掴んだ。


「ちょっと、私のお肉よ!」

「別に奪うわけじゃない。イリスは何皿も持って歩けないだろう」


 そう言って呆れた様子でため息をついているのは、茶色の髪の美少年だ。

 凛々しく整った顔立ちのその男子生徒に、食堂内の女生徒が熱い眼差しを送っている。


 自分のものらしい飲み物とフルーツを持った男子生徒は、器用にイリスの肉団子の皿を持っていた。

 給仕係ならいざ知らず、貴族令息が何故複数の皿を上手に持てるのかは謎だが、あまりに自然なのでそういうものかと納得させられてしまう。



「それで、何を迷っているんだ?」

「蒸し鶏のソースが選べるの。胡麻とピリ辛ですって」


「そんなに悩むことかよ。好きな方を頼めばいいだろう」

「そうよね。……ちなみに、ヘンリーはどちらが好き?」

 ヘンリーという名の男子生徒が一瞬固まるが、イリスに気付く様子はない。


「俺はどちらでも。まあ、この肉団子は味が濃そうだからピリ辛の方がさっぱりするかな」

「そ、そうなのね」

 イリスはうなずくと、暫し考え込んでいる。


 当初、ただの肉食女子だと思われていたイリスだが、どうもそこまで肉を食べるわけではないらしい。

 それどころか一皿食べるのもやっとという感じで、肉食どころか少食と言っていい様子だ。


 では散々注文した肉がどうなっているかというと、このヘンリーという男子生徒が食べている。

 ヘンリーが食べる肉を代理で注文しているのかとも思ったが、そういうわけでもなく。

 イリスは残す前提で冷やかしの肉を注文する人間でもない。


 あくまでも自分が食べるつもりで何皿も肉を注文し、結局食べきることはできずにヘンリーが完食しているのだ。


 もはや子供と保護者のような状況だが、ずっと様子を見守る厨房の人間はそれだけの関係ではないことに薄々気が付いていた。



「イリスは胡麻のほうがいいんだな?」

「どうしてわかるの?」


 丸わかりな上にバレバレな返答に、ヘンリーも苦笑いしている。

 イリスはその要望や格好に行動までおかしいので、よく遠巻きにされた上で笑われている。

 だが、ヘンリーがイリスに向ける笑みはそういったものとは質が異なっていた。


「胡麻の方で用意してくれるか」

「いえ、二種類を小さな皿に入れましょう。そうすればお二人ともに美味しく召し上がっていただけるかと」

 すると、その提案にヘンリーがにこりと微笑んだ。


「そうしてくれると助かる。同じ味が続くよりも楽しいしな」

「そうね。……って、待ってよ。全部私が食べるんだってば」


「わかってるよ。気持ちはいつでも完食だろう?」

「有言実行するのよ!」


「はいはい」

 適当にイリスをあしらうと、ヘンリーは蒸し鶏の皿とソースまで持つ。

 謎の安定感に感心していると、イリスの頬がどんどんと膨らんでいくのが見えた。



「わかったわ。蒸し鶏はヘンリーにあげる。私はモモ肉のグリルを追加するから!」

「おい。さすがにティータイムの三皿目にしては多いんだが」

「だから、私が食べるの! 鶏モモ肉のグリル、一皿お願い!」


 食べきれないくせに肉を注文し、そのくせ残すのは失礼だと言い、毎回厨房に感謝を伝えてくるイリス。

 謎の行動しかしないイリスと共に過ごし、その肉を肩代わりするヘンリー。


 このままの関係で卒業してほしい気も、進展してほしい気もする。

 だが、それよりもまずは自分達の仕事をしよう。



「――モモ肉一皿、喜んでえ!」


 今日も厨房には、歓喜の声がこだました。



※「後宮で皇帝を(物理的に)落とした虐げられ姫は、一石で二寵を得る」

略称「一石二寵」

連載開始しました。


中華後宮風蒙古斑ヒーローラブコメもよろしくお願いいたします。



「残念令嬢」

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12/3一迅社ゼロサムオンラインにてコミカライズ連載開始!

詳しい情報は活動報告をご覧ください。


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― 新着の感想 ―
[一言] イリスとヘンリーって食堂の人たちの癒しだったんですね。 イリスを見てほっこり、ヘンリーとセットでにこにこ。 仲間に入りたいです。
[一言] 遊ぶわけでも無駄にするわけでもないしいちいち感謝と感想伝えてくるし、食堂スタッフのアイドルになるわな、そりゃ アイドルというか愉快な珍獣だけど
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