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肉短編 モモ肉一皿、喜んで1

「残念令嬢」12/2書籍2巻発売&12/3コミカライズ連載開始に感謝を込めて。

本日より肉祭りを開催します!


まずは「いい肉の日」の肉短編。

書籍1巻・なろう版第1章の学園の食堂でのお話です。



 その学園は、主に貴族の子女が一年間学ぶ場所だ。

 一部優秀な平民も通うとはいえ、ほとんどの生徒は貴族。

 となれば、当然その食事も生徒の質に合わせられていた。


 食堂と聞くと、平民が気軽に入るお店のようにも感じられるが、学園の食堂はまったく違う。

 カウンターで注文して受け取るという部分だけは庶民のお店に似た要素かもしれないが、それ以外は完全に貴族仕様と言ってよかった。


 肉料理に魚料理やサラダはもちろん、優雅なティータイムのスイーツまでも提供できる万能さ。

 もちろん、食材も新鮮な旬のものを選んである。

 食堂自体も天井が高く広々とした窓からは美しい庭も臨め、テーブルや椅子も一級品だ。

 少し形を変えただけの、貴族の社交の練習場と言っても過言ではない。



 その厨房で働く者は、素晴らしい食堂を支える自分達の仕事に誇りを持っていた。

 貴族ということで、中には無茶な要求をしてくる生徒もいる。


「ケーキの苺を自分のぶんだけ増やせ」とか、「パンを全種類よこせ」というような、量に関する要求は一番多く、かつ対応は難しくない。

 贅沢なわがままだなと思いはするものの、その材料代を支払うのは生徒達貴族の親だ。

 はいはいと従って苺を盛ればいいのだから、たいしたことではない。


 少し厄介なのは何を出しても「美味しくない」「質が悪い」と文句を言うタイプだ。

 実際に味が悪いのならば改善するし、貴重な意見だ。

 だが何度もこれを繰り返す生徒は、味をどうにかしたいというよりも厨房を困らせたいというタイプが多い。


 試験の前後に多発することから察するに、ストレス発散なのだろう。

 迷惑ではあるが、そのおかげで試行錯誤を繰り返して生まれたメニューもあるので、悪いことばかりでもない。



 色々な生徒の多様な要求に応え続けた厨房は、鍛え抜かれたプロ集団。

 多少の無理難題で揺らぐようなことはない……はずだった。





「……肉、ですか?」

「そうよ」


 厨房のカウンターの向こうにいるのは、一人の女生徒だ。

 対応する係が困惑した様子でなかなか注文を伝えに来ないので、厨房内の人間も何人か様子を窺う。

 その全員が、ぴたりと動きを止めて眉間に皺を寄せた。


 女生徒の額には大きな傷がある。

 貴族令嬢という容姿が重要視される人種において、顔というものはかなり大切な部分だ。

 不幸にも傷を負うこともあるかもしれないが、その場合には髪型で隠したり、化粧で誤魔化すだろう。


 だが、この女生徒は前髪を編み込みにしているせいで、あますところなく見せつけるような状態だ。

 この時点で困惑必死なのだが、それだけでは終わらなかった。


 優雅で清楚で可愛らしいことが前提のはずの服装は、珍妙で奇抜で首を傾げてしまう。

 くびれたウエストや細身の姿が好まれる中、胸を凌駕する腰と腹回りは圧巻の一言。


 顔立ち自体は可愛らしいのに、それをすべて帳消しにしてもお釣りがくるほどだ。

 そして追い打ちとばかりに、注文内容までもがおかしかった。



「ええと。どの肉をお召し上がりになりますか?」

「だから、二皿よ。ポークソテーと、ローストビーフ」


 注文内容は今日のメニューとして事前に下ごしらえしているので、用意自体は問題ない。

 体格からしてそれなりの量を食べるのだろうから、二皿というのもまあ納得できる。


 だが、今は昼食をとうに終えたティータイム。

 周囲の御令嬢はスイーツと紅茶を楽しむ人ばかりなのに、何故ここにきて二皿も肉を頼むのか理解に苦しむ。


 しかもパンやサラダは必要とせず、肉の皿と紅茶だけ。

 一体どれだけ肉食なティータイムなのかと呆れるばかりだ。



「お腹が空いているようでしたら、少し多めに盛りつけましょうか?」


 この女生徒は空腹のあまり、スイーツではなく肉をティータイムのお供に選んだのだろう。

 貴族令嬢としてどうなのだろうとは思うが、ここはその道のプロとして喜ばれる提案をしていきたい。

 だが、良かれと思ったその言葉に、女生徒は慌てた様子で首を振った。


「駄目よ。それじゃあ一皿も食べきれなくなっちゃう」

「……お腹が空いているのでは?」


「ボリュームもいいけれど、皿の数を稼ぎたいの」

「では、一皿に盛る量を減らしますか?」

「でも、見た目のインパクトが大事だもの。減らしたら寂しいわ」


 ティータイムに肉を注文するくらいお腹が空いているかと思えば、量は増やしてほしくないというのだから意味がわからない。


「二皿に多めに盛りつけますので、あとは残していただいて結構ですよ?」


 動機はさっぱりわからないが、とにかくこの女生徒は「沢山の皿」「肉料理」「インパクトのあるボリューム」を求めているようだ。

 だが、解決策を提案したつもりだったのに、女生徒は真剣な顔で首を振った。


「せっかくのお料理を残すなんて駄目よ。一生懸命作ってくれた人に失礼だわ。普通の量にして」

「……かしこまりました」

 カウンターで注文を受けていた係が、厨房内に肉三皿の注文を伝える。



 先程まではおかしな格好の生徒が変な文句を言っているのだろう、と厨房内の人間は冷やかしのつもりで覗いていた。

 だが女生徒の言葉に、揶揄する気持ちは消え去っていく。


 学園の厨房で、どんな注文にも対応できると誇りを持って働いていた。

 だが、それでも貴族である生徒達とは身分という大きな隔たりが存在する。

 どれだけ心を込めて対応しても伝わらないこともあるし、時には罵られた。


 味に関しては評価されているので、それで十分と思っていたのだが……自分達が作った料理に敬意を払って大切にしてくれるその一言に、胸の奥がほんのりと温かくなる。



「あの、頑張るから。残さないようにするから。……やっぱり、モモ肉一皿追加して」


 申し訳なさそうに上目遣いで訴える様子に、カウンターばかりか厨房内の人間の口元が一斉に綻んでいく。

 好きに注文すればいいし、いくらでも残してくれて構わない。

 それでもこうして気にかけてくれるこの女生徒のために、最高のお肉を届けてあげたいと思うのだ。


「――モモ肉一皿、喜んでえ!」


 厨房内の心を集約したような叫びが、あたりにこだました。



「残念令嬢」

12/2書籍2巻発売!

12/3一迅社ゼロサムオンラインにてコミカライズ連載開始!


詳しい情報は活動報告をご覧ください。


※明日から

「後宮で皇帝を(物理的に)落とした虐げられ姫は、一石で二寵を得る」

略称「一石二寵」

を連載開始します。


中華後宮風蒙古斑ヒーローラブコメ!

活動報告であらすじを公開しました!

こちらもよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[一言] アイスクリームの天ぷら誕生の話を思い出すような…思い出さないような…
[一言] 流石その辺元日本人だよね まあ自力で食いきれないから保護者が食べ尽くすのだけれども
[一言] 笑いしか出ない
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