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【書籍化・コミカライズ】 残念令嬢 ~悪役令嬢に転生したので、残念な方向で応戦します~  作者: 西根羽南
第八章 宮廷学校

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番外編 クレトの安全

 落としたクッキーを拾おうと走るイリスを見ていると、馬の嘶きと馬車が高速で近付く音が聞こえる。

 急停止した馬車から飛び降りた男が、イリスにハンカチのようなものを当てた。

 男はぐったりと力をなくした少女を抱えると、馬車に飛び乗る。


 外の黒い地味な色とは対照的に扉の中は深紅の装飾で、金糸で彩られた模様も見えた。

 素早く扉が閉じられると同時に、馬車は急発進し、馬の嘶きが再び周囲に響く。


「――イリスさん!」

 突然の事態に声を上げることしかできないクレトの横を、赤髪の美少年が走り抜ける。


「――おまえは、ヘンリーに知らせろ!」

 レイナルドはそう叫ぶと高速で走る馬車にしがみつき、そのままあっという間に姿を消した。



 クレトは舌打ちすると、すぐに待たせていた馬車に飛び乗り、モレノ邸へ行くよう指示を出す。

 このカフェからなら、アラーナ邸に戻るよりもモレノ邸の方が早い。

 それにプラシドは宮廷学校に行っていて留守だ、

 ヘンリーに知らせる方が優先だろう。


「……情けない」


 イリスと一緒にいたのに、誘拐を防げなかった。

 それどころか、驚いて動くこともできなかった。

 これでは、ただの役立たずだ。

 拳を握りしめ、自身の膝を叩く。


「もっと……しっかりしないと。強くならないと」

 現状でクレトができるのは、ヘンリーとプラシドへの連絡。

 まずはできることをする……後悔は、その後だ。




 モレノ邸に到着すると、何だか慌ただしく馬車の準備をしている。

 どこかに出かけるのだろうか。

 出迎えたヘンリーの侍従に事情を伝えると、運良く在宅だったらしいヘンリーが飛び出てきた。


「――イリスが攫われたって⁉」

「すみません。俺も一緒だったのですが、ちょっと離れた瞬間に」


 部屋に通されたものの落ち着かず立っていたクレトだが、ヘンリーの視線に促されてソファーに腰かける。


「カフェから出て馬車に向かう途中で、イリスさんの同級生に会ったんです。その人にクッキーを渡そうとしたんですが、途中で落としたようで。拾いに行ったイリスさんが少し離れたところで、馬車が急にやって来て連れ去られました」


「じゃあ、クレトの目の前ってことか?」

 そう、目の前でみすみすイリスを攫われてしまった。

 クレトは悔しくて唇を噛んだが、ヘンリーは責める風でもなく何やら思案している。


「……そんな一瞬の隙を突いたのなら、恐らくずっと狙っていたんだろうな。その、同級生というのは?」


「レイナルド・ベネガスさんです。レイナルドさんはイリスさんを乗せた馬車にしがみついて、一緒に行ってしまいました。俺にヘンリーさんに知らせろと言って……」

 その名前を聞いたヘンリーは目を瞬かせる。


「レイナルドが? ……それは、悪くないな。他に、何かわかることはあるか?」

「ええと。馬車はとりたてて特徴のない、黒い色で」

 懸命に記憶を探ると、ふと気になることを思い出した。


「開いた馬車の中の文様、あれは紋章……。確か――ロメリ子爵家のものです」

 アラーナ伯爵家を継ぐにあたって学んだ中に、確かにそれを見たことがある。

 クレトの言葉を聞いたヘンリーは、にやりと笑みを浮かべ、立ち上がった。



「お手柄だ、クレト。そういうことなら話が早い。――ビクトル!」

 控えていた侍従から上着を受け取ったヘンリーは、流れるような動作で袖を通した。


「ポルセル伯爵に連絡を。騎士団か……代理でウリセスでもいい、至急よこすように。それから、馬車の用意を。――すぐに出るぞ」


「かしこまりました。馬車は既に準備できております」

 礼をして下がる侍従を見ると、ヘンリーはクレトの頭に手を乗せる。


「そんな顔をするな。連絡は大事だし、重要な情報も得た。あとは、アラーナ伯爵への連絡をお願いしたい。……イリスは必ず助けるから、なるべく穏便に頼む」


 唇を噛みしめながら、クレトはうなずく。

 今のクレトには、イリスを助け出す術はない。

 それが、どうしようもなく情けなくて、悔しかった。


「……イリスさんを、お願いします」

 どうにか絞り出した言葉を聞くと、ヘンリーは苦笑してクレトの頭を撫でる。


「それじゃあ、行ってくる」

 風のように去って行ったヘンリーを見送ると、クレトも立ち上がる。


 イリスの救出は、ヘンリーに任せよう。

 クレトにできる次のことは、プラシドへの連絡だ。

 そう考えて、ふと気付いた。



「……あれ? 俺、結構危険なことを引き受けました?」


 イリスに甘い親馬鹿なプラシドに、娘が誘拐されたと伝える。

 ヘンリーはなるべく穏便にと言っていたが、誘拐の時点で穏便とは程遠いので無理がある。


 温厚なプラシドではあるが、イリスが絡めばその限りではないのだから……どうなるのか見当もつかない。


「……まずはアラーナ邸に戻って……夫人に相談しましょう。そうしましょう」


 プラシドは留守なのだから、使いを出すにしても帰宅する必要がある。

 となれば、イサベルからプラシドに伝えてもらった方が安全だ。

 主にクレトの心が安全だ。


 少しの冷や汗をかきながら、クレトはモレノ侯爵邸を後にした。



番外編も明日で完結!

番外編終了後は「残念の宝庫 ~残念令嬢短編集~」で「残念令嬢」書籍発売感謝祭のリクエスト短編を連載開始します。


内容は活動報告参照。

※個人的に先代モレノ当主夫妻の行動の凍結のゴタゴタがおすすめです!



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よろしければ美麗表紙と肉を、お手元に迎えてあげてくださいませ。

m(_ _)m


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