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生存コースがいいそうです

「そんなこともあるんですね。……そうだ、クレトは?」

 ヘンリーに連絡してくれたということはモレノ邸に行ったのだろうが、今はどうしているのだろう。


「アラーナ邸に帰している。伯爵にも事情を伝えていると思うが……イリスの無事を早く連絡した方がいいだろうな」

 ヘンリーが扉の方に視線を送ると、いつの間にか控えていたビクトルが頭を下げる。


「すぐに手配いたします」

 ビクトルにうなずき返すと、ヘンリーは視線をレイナルドに移す。

 小さい悲鳴が聞こえたような気がするが、聞かなかったことにしよう。



「それで、レイナルドは馬車に飛びついたんだって? 一応聞くが、子爵の仲間じゃないよな?」

「も、もちろん!」


「イリスと同じ部屋に閉じ込められていたらしいが。……何もしていないだろうな?」

「もちろん!」


 レイナルドは背筋をこれ以上ないくらいに正し、勢いよく返事をする。

 ただの質問のはずなのに、レイナルドの額には既に汗が滲んで見えた。


「……まあ、そこまで馬鹿じゃないよな」

 ヘンリーはもともと疑っていない様子だが、レイナルドの方は命がかかっているかのような必死さだ。


「たまたまカフェの前でイリスに会って、攫われるところに遭遇したんだ! そのまま馬車にしがみついてここまで来た。奪還して逃げるのは無理だったから、とりあえずイリスをひとりにしないようにずっと一緒にいた!」

 ずっと一緒という部分でヘンリーの眉が動くと、レイナルドの体がびくりと震える。


「ソファーに寝かせたのは俺だが、それ以外には触れていない! あいつらにも触れさせていない! 本当だ! ――俺は死ぬ気はない!」


 ヘンリーがじろりと見れば、レイナルドが再び震える。

 その様子が何だがかわいそうになり、イリスはヘンリーの袖を引いた。



「ヘンリー。レイナルドはメイン攻略対象の正義の行動に見せかけて、恐怖に支配されているの。助けてくれたのよ」


「……理由はどうかと思うが」

 ヘンリーはため息をつくと、明らかに怯えるレイナルドの前に立ち――そのまま、頭を下げた。


「……へ?」

 目を見開いて固まるレイナルドを、ヘンリーはじっと見つめる。


「イリスひとりじゃ、どんな目に遭ったかわからない。……イリスを守ってくれて、ありがとう」

 もう一度頭を下げるヘンリーに、レイナルドの挙動不審ぶりが止まらない。


「……珍しいな」

「助かったんだから、礼を言うのは普通だろう」

「まあ、そうだが。……礼を言ってあんなに怯えられるのは、おまえくらいだろうな」


 ウリセスの指摘通り、レイナルドはふるふると震えている。

 雨に濡れた子犬のような状態に、イリスもため息をつかざるを得ない。



「それよりも。ベネガスに()()()()のは、どうするんだ?」

 ウリセスの指摘に、イリスもハッとする。


 さっき、ヘンリーは恐らく『モレノの毒』を使った。

 そもそも、ただの侯爵令息が陛下が云々で禁止薬物がどうこう言うのはおかしい。

 ウリセスは騎士科の校長からの特別指示だというからまだわかるが、ヘンリーの方は説明がつかない。


 というかウリセスは『モレノの毒』のことを知っているような素振りだが、どういう関係なのかがわからない。

 一体どうするのだろうと心配するイリスに対して、ヘンリーは何故か少し楽しそうだ。


「そうだな。()()見られたわけだが……放置はできないな」

「――お、俺は何も見ていない! 聞いていない! だから殺すな!」


 何故殺す前提なのかはわからないが、レイナルドの表情は本気だ。

 本当に、ヘンリーはレイナルドに何をしたのだろう。


「そうだな。レイナルドの剣の腕は悪くない。今後も研鑽しつつ、たまに協力してくれるなら……不問にできるが」


「――それで! 生存コースで頼む!」

 勢いよく手を上げて返答するレイナルドを見て、ウリセスがため息をついた。


「いくらでも見せないようにできただろう。わざとだな?」

 ウリセスの指摘に、ヘンリーは笑みを返す。

 嵌められたのだと気付いたレイナルドの表情が一気に曇る。


「ず、ずるいぞ! おまえとは関わらない! 撤回だ!」

「そうか。俺の手伝いを任されたと知れば、オリビアにも親しみを持ってもらえるだろうに……」

 ヘンリーの言葉に、レイナルドの緑色の瞳がこれ以上ないほど輝くのが見えた。



「――やる。やらせてください、お兄さん!」

「誰が兄だ」


 姿勢を正して迫ってくるレイナルドに、さすがのヘンリーも少し体を引いた。

 それにしても、何だか色々酷い。

 翻弄されているはずのレイナルドが幸せそうなのが救いではあるが。


「……俺は、眷属にならないからな」

 成り行きを見守っていたウリセスが眉を顰めながら呟くが、ヘンリーに気にする様子はない。


「知っているし、聞いていない。レイナルドは、仮の仮だ。そこらに吹聴するような人間でもないだろうし、させないしな。……いい駒は、揃えておいて損はない」

 楽しそうなヘンリーを見て、ウリセスが舌打ちするのが聞こえた。


「それじゃあ、レイナルド。手始めにこの男達を連行するウリセスの手伝いをしてもらおうか」

「――はい! お兄さん!」

「だから、誰が兄だ」


 敬礼でもしそうなレイナルドと不満そうなウリセスを残して、イリスとヘンリーは部屋を後にした。




第8章も明日で完結!

本編終了後は、そのまま番外編を連載します。


番外編終了後は「残念の宝庫 ~残念令嬢短編集~」で、「残念令嬢」書籍発売感謝祭の短編を連載開始します。

(内容は3/2の夜の活動報告参照)


4/1からは「初投稿から毎日更新2周年感謝短編」として、第8章の男装夜会の裏側をお届けします。



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― 新着の感想 ―
[一言] レイナルドの口癖に、 「俺は死にたくない!」のほかに 「お兄さん!」が追加されたようです。
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