幸せ骨抜き計画
「――私が、両手に花にするのはどう?」
「いや、イリスだと両手に姉になるわよ。ただの家族団らん」
「そんな!」
いい案だと思ったのにダニエラに一刀両断されてしまい、ちょっと切なくなる。
「……なら、カロリーナを囲みましょう。謎の美青年とその取り巻きです。せっかくなので、ダニエラも小悪魔枠で」
「それ、ライバル設定?」
「いえ、同志です」
「――乗った!」
ハイタッチをする二人を見て、カロリーナがうなずく。
「ベアトリスが色気担当で、ダニエラが小悪魔担当ね。悪くないわ」
「可愛いのはイリスの担当なんだけど……仕方ないから、頑張るわ」
「いいなあ。つまんない……」
三人で楽しそうだし、イリスが仲間外れのようで切ない。
すると、カロリーナがにこりと微笑む。
「いざとなれば、美少年イリスも侍らすわ」
「――乗った! 観客を虜にするいい男をよろしくね、カロリーナ」
「了解。会場の女共を骨抜きにしてやるわ」
「……何をしに行くんだよ、おまえ達」
呆れた様子のヘンリーだが、一緒に行くからには女装することになる。
わかっているのかいないのか知らないが、来ないならそれはそれでカロリーナの取り巻きに入れるので楽しそうだ。
「ヘンリー様、頑張ってくださいね」
「他人事みたいに言わないで。ビクトルも女装するのよ。ヘンリエッタの侍女なんだから」
「嘘ですよね、イリス様」
「――待て。勝手に人の名前を変えるな」
「楽しみね」
皆で夜会に参加できるだけでも、イリスには嬉しい。
それが今回は男装したり女装したりと、更に面白そうだ。
ワクワクが胸を躍らせ、自然と笑みがこぼれる。
すると、ヘンリーとビクトルが何故か言葉に詰まっている。
「……結局、イリスが最強かもしれないわね」
カロリーナの呟きに、ベアトリスとダニエラは苦笑しながらうなずいた。
「――なんて可愛らしいのでしょう!」
男装夜会の当日。
イリスの支度を終えたダリアは、魂を吐き出しそうな程の感嘆の息をついた。
紺色の上着に白いズボンにブーツ、黄色のリボンタイを結んだイリスは、どこからどう見ても貴族の少年だ。
髪の毛はまとめてカツラをかぶっているので蒸れるし、胸は全力で潰してあるので正直苦しい。
だが、日頃残念ドレスで鍛えてあるイリスからすれば、この程度の蒸れと圧迫感は問題ない。
運動するのは厳しそうだが、少しダンスを踊る程度ならいける。
やはり、地道な残念は実を結ぶ。
こうして別な方向にも残念が応用できることを知り、イリスは大変に満足していた。
「これで会場の女性はおろか男性も虜です。……危ないですから、ひとりにはならないでくださいませ」
「大丈夫よ。ヘンリーもカロリーナ達も行くから」
「……ヘンリー様は、本当に大変ですね」
何やら意味深な声音だが、御機嫌なイリスは気にしない。
「カロリーナの魅力で、女性を骨抜きにするのよ!」
「目的がおかしいですが、素晴らしいです」
「私も頑張るわ」
言い出したのはイリスだし、骨抜きという目標もある。
カロリーナに負けてはいられないのだ。
「カロリーナ様のそばに侍るのもよろしいですが、ヘンリー様がパートナーでしたらエスコートする姿を見せつけるというのも有効だと思います。小柄な美少年が、年上の女性を背伸びしてエスコート……そそります」
「年上って何?」
イリスとヘンリーが同い年なのは知っているだろうに、どういう意味だろう。
「小柄で華奢な美少年と長身の美女ですよ? 同い年と言い張るのは難しいです。ここはひとつ、年の差恋愛の醍醐味である、恋する少年の初々しさを出していただきたいのです」
色々突っ込みたいところはあるのだが、ダリアの表情が真剣すぎて口に出せない。
それにしても、恋する少年の初々しさとは何なのだろうか。
「エスコート、できそうですか?」
「頑張るわ。骨抜き作戦だもの」
ダリアの主張はよくわからないところも多いが、要はイリスがちゃんとエスコートできればいいはずだ。
「ではまず、馬車の乗り降りに手を貸すのは基本ですね。移動はイリス様が腕を貸す形になります。ダンスは踊れますか?」
「男性パートは、無理だわ」
エスコートはヘンリーや周囲の男性の真似をするにしても、ダンスはそうもいかなかった。
「カロリーナは踊れるのよね、確か」
長身の痩身で凛とした雰囲気の美青年でダンスも完璧とは、友人として誇らしい。
「こんなことなら、私も男性パートを習っておくんだったわ」
「いえ、お嬢様では身長もアレですし。何より、ヘンリー様がどう仰るか」
確かにイリスは小柄なので、カロリーナのように優雅にリードするのは難しそうだ。
だが、ヘンリーは何も関係ない気がするのだが。
「いっそ、カロリーナ様と美少年の二人で踊って、禁断の扉を開いてください」
「きんだん?」
更にわからないことを言いだしたところに、扉をノックする音が聞こえる。
ヘンリーが迎えに来たのだろうと思って見てみると、そこにいたのはビクトルだった。
……メイド服を着た、ビクトルだった。
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