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私も、男になる

「……大体、牽制って何なのよ」

「騎士科連中……まあ、魔法科もだが。あいつら、隙あらばイリスとお近づきになろうとしているだろう」


「そんなことないわ」

 そもそもろくに関わっていないのだから、近付くも何もない。

 どちらかと言えば、残念なイリスを避けるのではないだろうか。


「あるんだよ」

 表情を曇らせるヘンリーの意図が、よくわからない。


「それに、近付いたから何? くっついてダンスするわけでもないし、お話をするくらいでしょう? 別にいいじゃない」


「下心だらけの野郎共に、イリスを近付けられるか」

「下心って何よ。私には一応婚約者がいるんだし、そんなものを向ける人はいないわよ」


 独身の可愛らしい妙齢の女性とお近づきになりたいというのなら、イリスにも理解できる。

 だがイリスは婚約者がいる……つまりは売約済みだ。


 その上、見事に残念な令嬢なのだから、関わろうとするとは思えない。

 せいぜい、興味本位の世間話程度だろう。

 だが、ヘンリーの眉間の皺はどんどん深くなる。


「……イリスは男心をわかっていない」

「何よ、それ」

「とにかく、駄目」


「男だから?」

「男だから」

 有無を言わせない否定に、何だかこちらも不満が湧いてきた。



「……わかった。じゃあ――私も、男になる」


「……は?」

 ヘンリーがぽかんと口を開けてこちらを見ている。


「女だから駄目なんでしょう? 私も男なら問題ないわね」

「いや、そういうことじゃ……大体、男になるって何だ?」


「ドレスを脱ぐわ」

「――はあ?」

 突然の大きな声に少しびっくりしたが、それくらいではイリスの決意は揺らがない。


「男の人の服にする」

「……ああ、何だ。そういうことか」

 絵に描いたような動作付きで胸を撫でおろしているが、何なのだろう。


「いや、ドレスを脱ぐって言うから。……裸かと」

「何それ。ヘンリーの中で、私はどんな変態なのよ」


 日本ですら、女性が裸でうろついたら事件だ。

 それを脚すらほとんど見せないこの世界で素っ裸なんて、残念を軽く飛び越えて変態の頂点を目指せそうだ。


 イリスは残念ではあるが、モラルと節度はそこそこ守る。

 あまりに失礼な扱いに、イリスの頬が一気に膨らんだ。


「いや、変態ではないが……場合によってはやりかねないなとは思っている」

「やらないわよ!」


「そうだな。……俺の前だけにしてくれ」

「やらないったら! ヘンリーの前でもやらない!」


 裸にならないと言っているのだから、誰の前とか関係ない。

 大体、何故ヘンリーの前で裸にならなければいけないのだ。



「はいはい。それで? 男の服を着てどうするんだ?」

「……ええと?」


 そう言えば、何の話だっただろう。

 思い返していると、ヘンリーが呆れたとばかりにため息をついた。


「もう目的が迷子かよ」

「そ、そんなことない。 ――そうだ。夜会に行くわ。それで男性に声をかけられなければ、問題ないでしょう?」


「そうか?」

「むしろ、私が女性に声をかけるわ!」

「何でだよ」


 素晴らしい案を閃いたと思うが、何故かヘンリーの表情は曇っている。

 ということは、これだけでは不足なのだろう。


「じゃあ、声をかけずに骨抜きにする」

「……おい。目的が変わっていないか」

「変わっていないわ」

 イリスはハンカチをヘンリーに押し付けて返すと、紫色の瞳を見据える。



「私が男性に声をかけられるどころか、男性として女性を骨抜きにできれば、問題ないでしょう?」

「いや。だから、目的と話が変わっているし。……大体、おまえひとりが突然男装して参加なんておかしいだろう?」


 そう言われてみれば、確かに。

 普通の夜会にひとり男装だなんて、マナー違反だ。

 善良な人々に迷惑をかけるのは、残念の心意気にも反する。


「じゃあ、男装パーティを探す。ないなら、開催してもらう」

「誰にだよ」


「いいの。ヘンリーは関係ないわ。私が頑張るんだから。ひとりで行くの」

 イリスの決意を聞いたヘンリーは、それまでの呆れたような様子から一転して、眉間に皺を寄せる。


「馬鹿を言うな。イリスが男装したって、美少女が美少年になるだけだ。かえってヤバい奴に目をつけられる」

「わかった。ならダニエラ達を誘うわ。ひとりじゃないから文句ないでしょう」


 友人達なら、きっと一緒に来てくれる。

 特にダニエラあたりはそういったイベントごとに乗り気なので、一緒に男装してくれるはずだ。


「あのな、そういうことじゃない。婚約者をひとりで参加させられるか」

「……わかった」

 安堵した様子のヘンリーに、イリスは指を突き付ける。



「じゃあ、ヘンリーは女装ね」

「――は? 何でだよ!」


「私が男性なのよ。パートナーは女性じゃないと、おかしいわ」

「いや、おかしいだろう。何で俺まで」

 せっかく譲歩したのに、何だかぶつぶつと文句を言われ、イリスは顔を背けた。


「嫌ならいいわよ。他の人に頼むから」

「――待て。誰だ、他って」


「関係ないでしょう。ヘンリーは行かないんだから」

「そうはいかないだろう」

「じゃあ、女装して」

 イリスが紫の瞳を見つめて要求を述べるのと、馬車が停車するのは同時だった。


「……そして、私が女性を骨抜きにするのを、指をくわえて見ているといいわ!」


 高笑いと共に馬車を降りるが、これはかなり悪役令嬢っぽくはないだろうか。

 シナリオ真っただ中なら死亡フラグなので駄目だが、今は何だか気分がいいので楽しもう。

 意気揚々とアラーナ邸に向かうイリスを見送りながら、ヘンリーは深いため息をついた。


「……何で、そうなるんだよ」



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― 新着の感想 ―
[一言] 他のメンバーも男女逆装するパーティになりそう
[良い点] まさかここで男装パーティー!? ダニエラも誘うのならカロリーナ様男装バージョンもクルーーー(*'▽'*)ーーー!?!? 実現するかはまだ不明ですが、それでもワクワクを抑えきれません。そし…
[一言] 男装のイリスと女装のヘンリー、 とってもお似合いのカップルが出来そうです。
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