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結局は手作業です

 ほぼ中央に立ったイリスは、正面の騎士科の男性達を見据える。

 フラビア曰く、二十五人。

 普通に剣を向けられたら、終わりだ。


 十人ほどが何故か笑顔でこちらに向かって歩いてきたのを見て、イリスは小さく息を吐く。


「ここは、先手必勝ってやつね」

 手前に出ている十人の、靴と地面を――凍結する。


 イリスの描いたイメージ通りに魔力が流れ、十人は突然動きを止めた。

 足が動かないことで混乱しているようだが、イリスの方にも問題があった。


「……これ、どうやって花飾りを取ればいいのかしら?」


 遠隔で凍らせることはできるだろうが、凍ったところで勝敗には関係がない。

 かえって花飾りを守る盾になりかねず、意味がないだろう。

 氷の粒を飛ばせばいいのかもしれないが、そんなピンポイントで当てる自信もない。

 かといって大雑把な狙いでもいいように巨大氷柱をぶつけるのも、何だか危ない。


「手作業、かしら……」



 両手に肉を持ったまま、とことこ歩いて足元が凍結した男性達のそばに近付くが、今度は別の問題が発覚した。

 花飾りをむしるのならば、手が空いていなければいけない。

 一番近くの騎士科の男性を、イリスはじっと見上げた。


「あの。このお肉、持っていてもらえる?」

「――喜んで!」


「大事なお肉なの。お願いね」

「――お任せください!」


 元気のいい返事の男性に肉を渡すと、その隣の男性の花飾りをむしる。

 そのまま隣へ、隣へ。

 五人ほどむしったところで、我に返ったらしい男性達が剣に手をかけた。


「きゃあっ?」

 驚いて思わず小さな悲鳴を上げると、男性達は全身凍結されたかのように動きを止めた。


 よくわからないが、動かないのなら好都合。

 そのまま更に四人むしると、最初の男性のところに戻る。


「お肉、持ってくれてありがとう」

 お礼を言いながら花飾りをむしると、男性は何故か満面の笑みで涙を流している。


「いいえ。どういたしまして。……たとえ非難を浴びようとも、悔いはありません……!」

 肉をイリスに返した男性は、凍結が溶けたらしい他の九人と共に、ゆっくりと味方の待つ場所へと戻っていく。


「試合に負けて、勝負に勝った」という言葉が聞こえたが、何のことかわからない。


 さすがに十人一気にいなくなったことで焦ったのか、残りの騎士科が動き出す。

 今度は始めから剣に手をかけた十五人。

 広範囲かつ強力に凍らせなければいけないだろう。


 両手の肉を握りしめて集中しようとすると、小さなくしゃみが出た。

 さすがに少し寒くなってきたので、早くしなければ……。



「――そこまで」

 声と共に、いつの間にかそばに来ていたヘンリーに後ろから抱きしめられる。


「何? まだ平気よ?」

「駄目。もう冷えている」

 言うが早いか、ヘンリーはイリスを抱き上げる。


「きゃああ! 何? やだ、放して!」

 じたばたと暴れるイリスをものともせずに運ぶと、フラビアのところまで戻っておろされた。


「おかえりなさいませ、イリス様」

 フラビアが持っていてくれた蓑虫ローブを肩にかけると、寒気はすぐに落ち着く。

 これならまだ魔法を使えそうだ。


「それじゃあ、もう一度行ってくる!」

「だから駄目だ。体が冷えるだろう。……大体、普通はあんな方法無理だからな」

 無理というのは凍結のことだろうか。


「でも、花飾りを凍らせても無意味だし。炎ならかすっても花飾りが燃えてくれるけれど、氷の粒をピンポイントに当てるのは難しいし。かといって氷柱で押し潰すわけにもいかないし」

「そういうことじゃない」


「イリス様以外では絶対にできない方法でしたね。敗者もとても幸せそうで。実に平和な勝負でした」

 フラビアが何度もうなずいているが、敗者が幸せそうとはどういう意味だろう。



「……さて。仕方がないから、行くか」

 イリスの頭を撫でると、ヘンリーは騎士科の方を向く。

 騎士科の男性達は、燃えるような闘志を感じる視線をこちらに向けていた。


「うわあ、やる気ね!」

「直前に負けた者は幸せを噛みしめていますし。目の前でいちゃつかれていますし。残った彼らが苛立つのも道理かと」


「フラビア嬢。イリスが近付かないように見ていてくれ」

「了解しました」

「ちょっと、私も!」

「駄目。少し待っていて」


 もう一度イリスの頭を撫でると、ヘンリーはにこりと微笑んだ。

 ヘンリーが会場の中央に到着するのと、騎士科の十三人が到着するのは、ほぼ同時だった。



黄金(きん)の女神に花飾りをむしられるのは羨まし……いや、女性に剣を向けるわけにはいかないが。おまえが相手なら遠慮なくいける」

「ひとりで丸腰で出てくる度胸は買ってやる」

「魔道具専攻の首席様のお手並み拝見といこうか」


 ニヤニヤと楽し気な男性達の後ろには、前に出てこなかった騎士科が二人……ウリセスとレイナルドの姿があった。


「……まずは雑兵、か」


 ぽつりとヘンリーがこぼした言葉に、騎士科の二人が飛びかかった。

 二人の拳をするりとかわしたヘンリーは、すれ違いざまに男性の剣を抜く。

 攻撃を避けたことと剣を奪ったことで、会場内にどよめきが起こった。


「少しはやるようだな。だが、黄金(きん)の女神の祝福は、我々がいただく!」

 剣を奪われた男性が手をかざすと、炎の塊がヘンリーめがけて飛び出した。



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― 新着の感想 ―
[一言] なぜでしょう、イリスがにっこり笑って 「花飾りをくださいな」と騎士科一人一人に言えば、 すべてが終わった気がします。
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