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ノー・太腿、ノー・ライフ

「へ?」

 今は残念な蓑虫ドレスの話をしていたのに、何故太腿を見せる見せないになっているのだろう。

 そこまで考えて、あのスリットの深さでは太腿が見えてしまうのだということにようやく気付く。


 だからカロリーナ達は人前に出るのは駄目だと言ったのか。

 ヘンリーも同様だが、二人きりの時はいいと言っている。

 それはつまり、二人きりでイリスの太腿を見せるということで。


「――だ、駄目! ノー・太腿! ノー・ライフ!」


 イリスは慌てて手と首をぶんぶん振る。

 焦り過ぎて『太腿がなければ、人生とは言えない』と叫んでしまったが、別に太腿がなくても人生は残念なので問題ない。


「ノー・残念! ノー・ライフ!」


 訂正して叫ぶが、これでは残念を賛美しているだけで太腿を防げない。

 挙動不審の極みとなったイリスを見て笑うと、ヘンリーは蓑虫ローブのフサフサを撫でた。


「……残念」

 にこりと微笑まれて、イリスは困惑する。


 残念という言葉は嬉しいが、この残念は何か違う。

 残念の奥深さに感心しつつ、恥ずかしさを消化するために蓑虫ローブの端をぎゅっと握りしめた。



「ところでこのローブ、何で必要なの? 動くなら邪魔よ?」

 胸元のリボンひとつですぐに脱げるとはいえ、ワンピースの丈よりも少し長い。

 その上フサフサして丸っこく、重量もある。

 走り回るのならば、明らかに邪魔だった。


「もったいないから」

 ヘンリーはそう言うと、にこりと微笑んだ。


「……何が?」

「いいから、着ていろ。汚れも防げる」

「え? その後の洗濯を見越したローブなの?」


 面倒見の鬼が、ついに使用人の仕事にまで目を向け始めた。

 何と恐ろしい面倒見。

 イリスが少し引き気味に見ていると、ダリアが苦笑している。


「お嬢様。ヘンリー様は可愛らしいお姿を他の男性に見せたくないのですよ」

「ワンピース自体は確かに可愛いけれど、ちゃんと肉を持つし、干物の髪飾りも万全よ。大丈夫、残念ポイントは稼げると思うわ」


「誰も、そんな心配はしていない」

 残念ポイント取得の話ではないというのなら、何だろう。

 ヘンリーは呆れた様子でイリスの前に立つと、ローブを少しめくった。



「……何しているの? ちょっとした変態行為よ?」

 まさか、まだ太腿を狙っているのだろうか。

 少し警戒してローブを奪い返すと、ヘンリーは何故か首を傾げている。


「いや。このワンピースは初めて見るなと思って」

「この間、カフェに行くのに着せられて。お父様が認めてくれなかったら、クレトにプレゼントされるところだったわ」


 イリスの心配をよそに、プラシドは快く支払いをしてくれた。

 残念ドレスは多少値が張るのでさすがに大量発注は検討するよう言われたが、ワンピース程度なら気にせず買っていいとも言われた。


 イリスに甘いとは思っていたが、やはり甘い。

 何にしても、クレトに無駄な出費をさせずに済んだのは良かった。


「……クレトがプレゼント? 何故?」

「お父様が認めてくれなかったら買えないって話をしたら、クレトが『その時はヘンリーにつければいい』って言ったのよ。でもラウルが……。とにかく、駄目ならクレトが払うって。そういえば、ヘンリーに『他意はない』って伝えてほしいって言ってたわ」


 ラウルの中ではモレノ侯爵家困窮疑惑が根強いが、その話をし始めるとイリスのお仕事や、それを始めるに至った理由まで説明することになりかねない。

 芋づる式に危険が迫るので、そのあたりは曖昧にしておきたかった。


「クレトの言う通りだ。支払いは俺に回していいぞ」

「嫌よ。何でよ」


「愛しい未来の奥さんのワンピースくらい、いくらでも支払うよ」

「まだ結婚していない!」


「なら、愛しい婚約者にプレゼント」

 何ら抵抗もなくそう言うヘンリーに、イリスはため息をついた。



「あのね。勝手にワンピースを買って支払いだけお願いするなんて、おかしいわ。それじゃあ、ただのお財布じゃない」

「他人ならな」

「まだ他人よ」


 父親であるプラシドにお願いするのだって、ちょっと心苦しいのだ。

 とてもヘンリーに支払いをさせる気にはなれなかった。


「大体、モレノ侯爵家のお金を勝手に私に使っちゃ駄目でしょう」

「うん? なら、俺の私財ならいいのか?」

「……それ、同じじゃないの?」


 要は、プラシドがイリスに対してお小遣いをくれるようなものだろう。

 ヘンリーの私財と言えば聞こえはいいし、実際何に使うのも自由ではあるだろうが、結局はモレノ侯爵家のお金だ。

 無駄遣いは良くないと思う。


「いや、違う。領地とかの収入なら家のものだけど、俺個人が稼いだものだから」

「稼ぐって何? まさか、ついに面倒見の鬼印のお弁当屋を……?」

 確かに宮廷学校で需要はありそうだが、侯爵令息のお弁当売りというのはいかがなものか。


「何でそうなるんだよ。普通に特殊技術の開発料とか、古文書の解読バイトとかだよ」

「全然、普通じゃないわよ。何それ」

 開発料を取れる特殊技術もわからないが、古文書の解読も意味がわからない。

 それはバイトではなくて、考古学者がすることではないだろうか。


「だから、大抵のことは一通りできるよう仕込まれている、って言っているだろう?」

「どこが大抵のことよ。大抵の人は特殊な技術を開発しないの! 古文書なんて読まないし、そもそも出会わない!」

 範囲とクオリティがおかしいとは思っていたが、想像をはるかに超えておかしい。



「……こうなると、ヘンリーにできないことはないんじゃないの?」

 驚きすぎて呆れたイリスが呟くと、苦笑したヘンリーが蓑虫ローブの間からイリスの手をすくい取った。


「そんなことないぞ。……未来の奥さんに心ゆくまで甘えてもらえない」

 そう言うと、そのまま手の甲に唇を落とす。


「な、何言っているの! 何してるの!」

 慌てて手を振りほどいて抗議するが、何だかヘンリーは楽しそうだ。


「そういうことで、家の金を使うわけじゃないから気にしなくていい。どんどん俺に支払いを回してくれ」

「財布宣言するとか、面倒見の鬼の面倒見が悪化しているわよ」


 直接面倒を見るだけでは飽き足らず、ついに財政面まで面倒を見ようとするとは。

 ヘンリーの将来が心配で仕方がない。


「愛しい未来の奥さんのためなら、財布でも何にでもなるよ」

「だから、ならなくていいの!」


 ヘンリーが本気で財布になろうとしたら、恐ろしい額を叩き出しそうだ。

 この面倒見の鬼は、面倒見のレベルがおかしい。

 触らぬ面倒見に祟りなし、である。


 イリスは笑顔のヘンリーと、何故か更に笑顔のダリアに背を向けると、宮廷学校に向かうべく部屋を出た。



いよいよ本日、書籍の「残念令嬢」発売です!!


「残念令嬢」書籍発売感謝祭!

活動報告で内容をご紹介しています。

夜の活動報告もご覧ください!


他にも書影、電子書籍、特典情報、試し読みのご紹介をしています。


よろしければ美麗表紙と肉を、お手元に迎えてあげてくださいませ。

m(_ _)m


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