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黄金の女神とキノコの出会い

 黄金(きん)の女神の祝福とかいうとんでもない噂を警戒したイリスは、それからしばらくの間残念装備で登校した。

 額の傷に体幹のボリュームアップという基本の時点でそこそこ疲れたが、残念とは忍耐である。

 ドレスの装飾の重量を控えめにすることで何とか数日を過ごしたが、さすがに疲労がたまってきた。


 ということで休憩とギャップ残念を狙った今日は、普通のワンピースに両手に肉を装備した。

 残念ドレスに比べると騎士科の男性達が近寄ろうとする気配がみられたが、大抵はあるタイミングで引き下がる。

 これはきっと、普通のワンピースに肉という残念が効いているのだろう。


 嬉しくなってヘンリーに報告すると『そういうことにしておこう』と頭を撫でられた。

 ヘンリーにまで残念を褒められるのは久しぶりである。

 肉を持つ手は震えるが、それでも頑張った甲斐があるというもの。

 満足したイリスは、ヘンリーに肉を預けるとトイレに向かった。



「あら? あれは何かしら」

 トイレの帰り道、ふと庭の方を見てみると気になるものがあった。

 木の根元に生えたそれはキノコだろうか。

 紫色で樹枝状に分岐した姿は、かなり目を引く。


「何て変なキノコなの。これをドレスに取り入れたら面白いわね。……取ってもいいかしら。一本だけなら、いいかしら」


 そっと手を伸ばしてキノコをむしると、顔の前に持ってきてじっくりと観察を始める。

 樹枝か珊瑚かという枝分かれぶりも見事で、まさかの紫色も楽しい。


「これ、今度の毒祭りのドレスにぴったりな気がする」

 あの祭りは紫色がテーマカラーのようだったし、ちょうどいい。

 だが、ただのキノコでは普通に可愛いので、工夫しなければいけないだろう。


 ウキウキして残念なドレスに思いを馳せるイリスの背後に人の気配がして、振り返る。

 そこには見知らぬ男性がひとり、立っていた。



「こんにちは。少し、いいですか?」

「……わかりました」


 イリスはため息をつくと、そっとキノコを男性に差し出す。

 せっかくのナイスキノコだったが、仕方がない。

 幸せになるんだよ、と男性の手にキノコを乗せた。


「いや、これは何ですか? ……それよりも、黄金(きん)の女神ですよね?」

「――違います!」


 イリスが食い気味に返答すると、男性は少し怯んだ。

 何て失礼なことを言うのだ。

 さてはこの男性、騎士科なのだろう。


「え、でも。魔法科の次席、ですよね」

 それは間違いではないので、今度はうなずく。


「今度の対抗戦では、騎士科の強さを見せてあげますよ」

 これはいわゆる、宣戦布告か。

 イリスの中の残念な闘争心に火が点いた。



「勝つのは、私です!」

「え? ……ああ、魔法科が勝つと?」

「いえ、私が!」

 自信満々に胸を張ると、男性は少しばかり困った表情を浮かべた。


「まあ、何にしても騎士科と魔法科では基礎体力からして違いますからね。我らの強さをあなたにお見せしましょう」

「……まるで魔法科が負けるような言い方ですね」


「それは、ねえ」

 男性は笑う。

 それは明らかに相手を嘲笑うもので、何となく気分は良くない。


「うちの新入生首席は、ずば抜けた力を持っていますし。そちらの首席は魔道具専攻の研究者ですよね? よくまあ、承諾したものです。……おかげで黄金(きん)の女神の祝福をいただけるわけですが」

 そこまで言うと、男性は一歩ずつイリスに近付く。


「さすがに全員にというわけにもいかないでしょう。前祝いとして、その手に口づけを」

 にこりと笑って手を差し出す男性をみて、イリスは目を瞠った。


「え。嫌です」

「……いえ、私があなたの手に口づけを」


「嫌です」

 ぶんぶんと首を振るイリスに、男性は何故か困惑している様子だ。



「大体、何で私が祝ったり祝われたりしないといけないんですか。キノコをあげたから、もういいですよね」

 男性は手にしていた紫色のナイスキノコを見ると、忌々しそうに眉を顰める。


「こんなものは、どうでもいい」

 そう言うなり、手にしていたキノコを勢いよく放り投げた。


「ああ! 私の毒祭りモチーフ!」

 慌てて地面に落ちたキノコを拾おうとするすと、横から伸びた手がイリスの手を掴んだ。

 引き寄せられて男性の方に向き直るのと、男性の頭から何かが垂れてくるのとは、ほぼ同時だった。


「……騎士が聞いて呆れます。嫌がる女性にせまるとは」

 栗色の髪に水色の瞳の女性は、そう言いながら男性の頭に垂らしていた何かをしまった。


「何だこの液体は? 大体、おまえは誰だ」

 男性の口調が変わっているのは、怒っているからか、これが元々なのか。

 だが、低い声ですごまれても、女性はまったく気にする様子もない。


「今年の新人はなっていませんね。先輩への口のきき方すらわからないのですか? 大体、騎士科が勝っても代表でなければ祝福は貰えないでしょう。騎士科の首席を打ち負かして彼女の手を取るのなら、まだわかりますが」


「何を。魔法科ごときが」

 男性が吐き捨てた言葉に、女性はにやりと笑った。


「その魔法科ごときの作った薬を頭からかぶったわけですけれど。……どうなると思います?」



※夜に活動報告で特典情報をお伝えします。



書籍の「残念令嬢」は3/2発売、予約受付中です。

発売まで、あと1週間を切りました‼


まさかの緊急事態宣言中ですが(T_T)

残念パワーではねのけたい!



書影も活動報告でご紹介中。

イリス可愛い、ヘンリー格好いい、肉大きいです!


よろしければ美麗表紙と肉を、お手元に迎えてあげてくださいませ。

m(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[一言] まさか世界を超えてキノコを生やすとは、アニエス恐ろしい娘っ 釘バットよろしくキノコの生えまくった肉で武装するしか そして書籍版の肉はそりゃ持ってるだけで疲れるのも納得の大きさ、鈍器?
[一言] きのこでまさか来るのかと思ったら、誰?イケメン女性なのはわかったけど
[一言] まさかの出張キノコ! Σ(☉ω☉ノ)ノ
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