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つまんない

「どうでしょうか、お嬢様」

 店長の真剣な眼差しを背中に浴びながら、イリスは目の前のものを注視する。


 カフェのどんぐりケーキの改良を相談され、試作品ができたということで訪ねてみたのだが、テーブルに並ぶケーキはなかなかの出来栄えだった。


「……うん。凄く良くなったと思うわ。殻斗はサクサククッキーだと段々しっとりしそうよね。やっぱり硬めに焼いた方がいいわ。あとは、表面に凹凸を入れると更に殻斗っぽい気がする」

「頑張ります!」

 店長は激しくうなずきながら、メモを取っている。


「肝心のどんぐりの艶だけど……ミルクチョコとビターチョコ、どちらも可愛いわね。半分ずつ使ってどんぐりの表面の模様を描くのはできそう?」

「頑張ります!」


「ケーキ自体は十分に美味しいから、このままでいいけど。季節によって、中に違う味のクリームを入れても楽しいかも」

「頑張ります!」

 何だか体育会系教師と生徒のようなノリになっているが、店長の瞳はキラキラと輝いている。



「いやあ、本当に助かります。それで、ご相談のお礼なのですが。お嬢様に伺うのも失礼かと思いますが、いかほどご用意すればよろしいでしょうか」

「お礼って、お金ってこと? うーん。別にいいんだけど……」


 イリスとしては楽しいので無料でもかまわない。

 だが、残念のアドバイスという名のお茶会はお金を取っていたのだろうし、カフェだけ無料では不平等だろうか。


「でしたら、一年間カフェでの飲食代は無料というのはいかがでしょうか」

「ええ? でも、それは申し訳ないわ」

 来店回数にもよるだろうが、一年間というのはかなりのものだ。

 さすがに代価として高すぎる気がする。


「いえ。お嬢様が店内にいるだけでかなりの宣伝効果になるので、むしろお願いしたいくらいです。何なら、お連れ様のぶんも無料にしますので」

 何故かランクアップした代価に加えて、試作品だという巨大どんぐりケーキをお土産に渡され、イリスはカフェを後にした。




「……それにしても、大きいわね」

 箱に入れられているので今は姿が見えないが、中に入っているケーキはイリスの頭よりも大きい。

 ケーキというよりもどんぐりのお化けという感じだが、ロマンが溢れていて素晴らしい。


 ただ、どう考えてもひとりで食べられる量ではない。

 となれば、せっかくなので誰かと一緒に食べたくなるのが人間だ。


「カロリーナは新婚だからやめなさいって言われたのよね。シーロ様は喜びそうだけど、今回はやめておこう。ベアトリスは……何か、危険らしいし。ダニエラのところに行こうかしら」



 だがコルテス邸を訪ねてみると、ダニエラは留守だった。

「……つまんない」

 馬車に戻ってぽつりとこぼすと、同情していたダリアが苦笑した。


「では、モレノ邸を訪問してはいかがですか? ヘンリー様なら、喜んでくださいますよ」

「……どうせ、いないもの」

「行ってみなければ、わかりませんよ」

 笑顔のダリアに諭され、馬車はモレノ侯爵邸に進路を変更した。




「――申し訳ありません。ただいま、ヘンリー様は所用で出ております」

 ヘンリーの侍従であるビクトルに丁寧に頭を下げられたイリスは、小さく息を吐いた。


「そうよね。じゃあ、いいわ」

 そのまま踵を返すと、ビクトルが慌てて前に出てきた。


「もうじきお戻りになると思います。というか、戻します。よろしければ、少しお待ちになっては」

 戻すって何だろうと思いつつ、イリスは首を振った。


「邪魔するつもりはないから、いいの。……そうだ。ビクトルは甘いもの好きなんでしょう?」

 シーロ曰く、ヘンリーの侍従も甘党らしいから、ビクトルのことだろう。

「ええ、まあ」


「じゃあ、これあげる」

「え? これは? ――イリス様?」

 ダリアが持っていたケーキの箱を渡すと、何か言っているビクトルにかまわず、そのままモレノ侯爵邸を後にした。




 帰宅してみたものの何だかスッキリしないイリスは、庭に出ていた。


「何だかつまらないわ。こういう時は、別のことをするのが一番よね。――打倒ヘンリーのため、魔法の練習よ!」


 対抗戦に向けての準備だと気合を入れると、早速氷柱を出す。

 何もない空気の隙間を狙って凍結させるのも、だいぶできるようになってきた。

 精度はまだまだではあるが、出せるようになったというだけでも格段の進歩だろう。


 気が付けば庭には大小の氷柱が無数に並び、ちょっとしたオブジェのようだ。

 転がる氷柱のひとつに腰をおろすと、自身の吐く息が白いことに気付く。


「だいぶ頑張ったし、そろそろやめようかしら」


 凍結の魔法を使いすぎて熱を出すとダリアがうるさいし、ここらが潮時かもしれない。

 そう言えばダリアの姿が見えないが、どうしたのだろう。


 庭の入り口に視線を移すのと、扉が開いて茶色の髪の少年がこちらに向かってくるのは、ほぼ同時だった。



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― 新着の感想 ―
[一言] どんぐり本体の殻だって硬いのにそれを柔らかいケーキにするのだから、殻斗も柔らかくしてもいいんじゃ って問題じゃないんでしょうね。
[一言] ダリアのおかげでビクトルの寿命が守られた、のでしょうか。
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