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せっかくなので覗きたい

「今日は普通なんだな」

 記念すべき宮廷学校初日、イリスを迎えに来たヘンリーの第一声がこれだった。

 どういう意味で言われたのかわからず、イリスは自身の格好を確認する。


 本当ならば連日残念な恰好で挑みたいところだが、残念ドレスやワンピースは手間暇とお金がかかる上に、体力を根こそぎ奪っていく。

 まだ魔法科での生活がどんなものかわからない以上、倒れるような失態を避けるために普通のワンピースにしたのだが……ヘンリーは気に入らないのだろうか。



 今日のイリスは、学び舎に相応しい紺色をベースにしたシンプルなワンピースだ。

 色と形が落ち着いているぶん白い襟と袖が映え、背中のリボンくらいしか大きな装飾もない。

 髪はハーフアップにして紺色のリボンで留めてあるし、地味と言うほどでもなく、残念でもないはずだった。


「……駄目?」

 何だか切なくなって聞いてみると、ヘンリーはゆっくりと首を振った。

「いや。似合っているよ。……ただ、牽制には使えないなと思って」


 ドレスで牽制というのは何だろう。

 思わず距離を取りたくなる臭いドレスとかだろうか。

 よくわからないまま校舎を進んでいくと、やがてたくさんの部屋が並ぶ廊下に出た。


「学園のような全員で受ける講義というのは、ほとんどないらしい。各々の勉強や研究をしていて、必要な講義にだけ顔を出すみたいだ」

「じゃあ、他の学生と顔を合わせることも少ないのね」


「騎士科は鍛錬やら訓練やらがあるが、魔法科は基本的に個人活動のようだから。定期的に試験や研究結果を報告して、相応の成績ならば何をしても自由みたいだ」


 それはまた、随分と性質が違うものだ。

 このぶんでは、騎士科の様子を見ようとしない限りはまったく関わることもないのだろう。



「……ヘンリー。少し騎士科を覗いてみてもいい?」

 危険が皆無ではないとわかってはいるが、『碧眼の乙女』の四作目はもう終了している。

 推しキャラが動く様を一度くらい見ても罰は当たらないだろう。


「どうして?」

 至極まっとうな疑問に、イリスは思考を巡らせる。

 ウリセスのことを言ってもいいが、何となく面倒なことになりそうだ。

 少し覗くだけで話をするわけでもないし、ここは穏便な理由を述べた方がいいだろう。


「ええと。レイナルドがいるみたいだから、挨拶くらいしたいなと思って」

「……まあ、いいけど」


 明らかに良くなさそうな表情ではあるが、反対はしないらしい。

 ヘンリーと共に騎士科の校舎の方に回ると、ちょうど中庭に面した広場で大勢が剣の稽古をしているのが目に入った。


「これ、新入生かしら。……あ、レイナルドがいたわ!」

 ひときわ目立つ赤い髪の美少年を見つけると、何となく嬉しくなって手を振る。

 それに気付いたらしいレイナルドが何かを言いかけ、イリスの隣に視線を移し、あっという間に背を向けて歩き出した。



「――レイナルド・ベネガス」


 ヘンリーが静かにそう呼ぶと、レイナルドの動きがピタリと止まる。

 そのままがっくりとうなだれたかと思うと、こちらに向かって歩いてきた。


「……何の用だ」

 不本意としか言いようのない顔ではあるが、視線はイリスの方に向いている。

 どうやらヘンリーを視界に入れたくないらしい。

 そんなに嫌なら来なければいいのに。

 一体、何がどうなってこうなっているのだろう。


「知った顔がいたから手を振っただけなの。邪魔してごめんなさい」

「ああ、いや。……イリスは別にかまわないが」

 視線を向けられたヘンリーは何故かにこりと微笑み、それを見たレイナルドが小さく悲鳴を上げた。


「ええと。レイナルドはどうして騎士科に?」

「それは……ある人に、相応しい男になりたくて。俺は跡継ぎでもないし、何の強みもないから」


 メイン攻略対象という最強レベルのスペック持ちのくせに、何を言うのだろう。

 少し呆れていると、ヘンリーが小さく息を吐くのが聞こえた。



「……オリビアか?」

「――何故それを!」


 そんな気はしないでもなかったが、今の言葉と態度でイリスにもよくわかった。

 レイナルドは思い込みが激しいとは思っていたが、どうやら馬鹿正直らしい。


「バレていないと思ってたのか」

「鈍感ねえ」

「……おまえが言うな」

 何故かヘンリーに窘められてしまったが、気にしないでおく。


 ふと気が付けば、広場で剣を振っていたはずの大勢の騎士科の男性が、その手を止めている。

 それどころか、数人はかなり近くまで寄ってきていた。


 何か用があるのかもしれないと声をかけようとすると、ヘンリーの指がイリスの唇の前に現れて言葉を封じる。

 何事かと見上げるよりも早く、ヘンリーは騎士科とのイリスの間に体を滑り込ませた。



「――もう訓練が始まるぞ。遊んでいないで、すぐに戻れ」


 何やらざわざわと騒がしいと思っていると、一際よく通る声があたりに響いた。

 ヘンリーの背からちらりと顔を出して見てみると、藍色の髪に水色の瞳の少年が広場の中央に立っている。


 周回までしてルートを堪能した、イリスの推しキャラ――ウリセス、その人だった。



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書影が解禁されたら、活動報告でお伝えします。

よろしければお手元に迎えてあげてください。

m(_ _)m


「竜の番のキノコ姫」の押しキノコ募集は昨日で締め切りました。

結果は昨夜の活動報告をご覧ください。

たくさんのキノコをありがとうございました。



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