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首席は誰ですか

「……今日も、凄いな」

 入学式当日、迎えに来たヘンリーはイリスを見て暫く黙り、一言呟く。

 その残念なものを見る様子に、イリスは満足して胸を張った。


「今日は、入学祝いのくす玉ドレスよ」

 おめでたいと言えばパカンと割れるくす玉ということで、今回のドレスのモチーフはくす玉だ。



 本来ならば入学式で華麗にパッカンしたいところだが、それではただのめでたいくす玉。

 イリスはあくまでも残念な令嬢なのであって、めでたい令嬢ではない。


 当初はスカート部分を球体にしようかと思ったのだが、スカートが丸くて色とりどりのものが飛び出しているなんて、普通に可愛い気がする。


 ということで、パッカンする球体は頭の上に乗せてみた。

 もちろん既にパッカン済みなので半分に割れているし、そこから紙吹雪と紙テープに見立てた色とりどりのリボンが散らされ、垂らされている。


 イリスの髪が黒いおかげで一層鮮やかに映えるリボンは、動く度にシャカシャカと音を立ててうっとうしい。

 くす玉を頭に乗せているというよりも、カラフルな蛸を乗せている感じだが、それはそれで残念なので良しとする。


 ドレスの方にもめでたさが欲しかったイリスは、テープカットを取り入れることにした。

 山間部待望のトンネル開通という架空の設定に合わせて萌黄色で作られたシンプルなドレスに、紅白のテープが所狭しと巻き付く。


 胸元やウエストには、花を模した大きめのセンターリボンも取り付けて、テープカット気分が盛り上がる。

 だがこれだけではくす玉を乗せてリボンが巻き付いただけの女であり、テープカット感が薄い。


 そこでリボンを所々カットしてだらりと情けなく垂らし、ついでにテープカットに必須の白手袋をフリルのように並べた。


 最後にハサミが連なった形のネックレスを身につけたイリスは、額の傷を自分でつけたようにも見える、めでたくも危険な式典仕様になっていた。



「……くす玉って、何だ?」

 ヘンリーの質問に、イリスはハッとした。


 そうか、この世界にくす玉はないのか。

 となると、このめでたさが誰にも伝わらないではないか。

 ……それも、悪くない。


「ええと。お祝いの風物詩で、紐を引っ張るとパッカンして紙吹雪がわっさーなの」

「……うん。わからん」

 笑顔でそう言うと、ヘンリーはくす玉が乗っていない部分の頭を撫でた。

「いい感じに酷いから、結構な引かれ方だろう。……好都合だな」




 何故か御機嫌のヘンリーと共に会場に到着すると、集まっているほとんどが男性だった。

 騎士科が九割で、ほぼ男性と聞いてはいたが、実際に目にすると圧巻である。


「男の人だらけね」

「今日ここにいるのは新入生と一部の在校生だけだ。本来なら更に男だらけだろう」


 ひとりっ子で育ち、カロリーナ達とばかり遊んでろくに夜会に出ていなかったイリスにとって、これだけの男性を見るのは初めてのことだ。


 それに騎士科に入学するだけあって、皆上背もあり、体つきもたくましい人が多い。

 女性の中でも小柄なイリスは、満員電車の中の小学生のように埋もれそうである。


 とはいえ、今日はくす玉ドレスのおかげで遠巻きにされているので、安全だ。

 安心していると壇上では式典がいつの間にか始まっていた。


「アラーナ伯爵の挨拶が終わったぞ。聞いていたか?」

「え? いつの間に」

 そんなにボーっとしていたつもりはなかったのだが、浮かれているのだろうか。


「いや、一瞬で終わった。『入学おめでとう。それぞれの道を頑張って』だそうだ」

「……短くない?」


 日本の式典では誰だかよくわからないおじさんが、何だかよくわからないことを延々と話すのが定番なのだが。

 とにかく、集中していないとすぐに聞き逃すスリリングな式典のようだ。



「次は、各科新入生の首席と次席の発表。それから、首席の挨拶です」

 つまり、入学試験の一位と二位か。

 挨拶を頼まれていない以上イリスは違うのだろうが、ちょっと気になる。


「――魔法科次席、イリス・アラーナ。首席、ヘンリー・モレノ」

「ええ?」


 思わず声が漏れ、慌てて口を手で覆う。

 頭に謎の割れた球体を乗せたリボンの怪人状態のイリスが変な声を上げたことで、周囲の人が一歩遠ざかった。


「……ヘンリー、首席なの?」

 式典中なので小声で尋ねると、ヘンリーはあっさりとうなずいた。

「ああ。目立つつもりはなかったが、万が一にも落ちたら困るからな。手は抜いていない」

 イリスだって頑張ったし、次席でも十分凄いと思うのだが、何だか少し悔しい。


「――騎士科次席、レイナルド・ベネガス」

 まさかの名に辺りを見回すと、赤い髪に緑の瞳の見知った美少年の姿を見つけた。


 何だか嬉しくなって手を振ると、イリスの格好を見て眉間に皺をよせ、次いで隣のヘンリーに気付いて顔色を変えた。

 遠目に見ても怯えているのだが、一体ヘンリーはレイナルドに何をしたのだろう。

 今度、聞いてみてもいいかもしれない。


「――首席、ウリセス・ポルセル」



 その名前に、イリスの脳内の記憶がうごめき出す。

 乙女ゲーム『碧眼の乙女』、第四作目の攻略対象のひとり。


 イリスが唯一周回した、推しキャラの名前だった。



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― 新着の感想 ―
[一言] この試験結果も一通り出来る大抵のことの範疇かな 残念の隣にいるためにはこの超ハイスペックが必要なのか
[良い点] シャカシャカと鳴る蛸は良いな。 白手袋のフリルはとても残念で、 鋏のネックレスは残念以上に凶悪です。 悪意なくぶつかったら自分も相手も血まみれになりそう。 ヘンリー、残念衣装の方が恋敵が減…
[良い点] 想像してみました。相当もりもりですね これはけっこうな残念
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