表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/276

未来の妹

「さて」

 シーロは打って変わって冷たい瞳でクララを見据えた。



「クララ・アコスタ侯爵令嬢。君の悪行は既に明らかになっている」

 対してクララは、熱を帯びた視線をシーロに送り続けている。




「ベアトリス・バルレート公爵令嬢に無実の罪を着せて婚約破棄させ、アベル第四王子との婚約を手中に収める。カロリーナ・モレノ侯爵令嬢にも無実の罪を着せ、名誉を貶める。ダニエラ・コルテス伯爵令嬢にも同じく。修道院に入らざるを得なくした。そして、イリス・アラーナ伯爵令嬢の命を狙った。」

 友人達の被害を正確に把握していることに、イリスは驚いた。

 だが、ヘンリーを見れば特に驚く様子もなく話を聞いている。


 もしかして、ヘンリーが初めに言っていたやりたいことというのは、カロリーナの冤罪を晴らすための調査だったのかもしれない。

 それならば、アベルの依頼を断ったのに、クララを調べた説明がつく。

 面倒見の鬼は、ここでもその威力を遺憾なく発揮しているようだ。



「……これだけの悪行、隠せるとでも思ったのか?」

「あなたに会うためですから、何でもします。私の運命の人ですから。会いたかった……!」

 抱きつこうと駆け寄るクララに、シーロは剣の切っ先を突き付けた。


「気持ちの悪い事を言うな。俺には、既に心に決めた人がいる。……まあ、君のおかげで出会えたのだから、少しは感謝するけどね」

「心にって、どういう……」

 クララは震えながらシーロに尋ねる。


「カロリーナが隣国に逃げたのは君のせいなんだろう? おかげで、俺はカロリーナと出会えた。運命の人、というやつだね」

「――そんな、馬鹿な!」


「連れていけ」

 シーロの命で動いた兵士が、わめくクララを連れ出すと、辺りは急に静かになった。

 突然の展開に、イリスは唖然として動けない。




「……カロリーナに、君の手助けをしてほしいと頼まれていたんだ」

「カロリーナに?」

 シーロはうなずく。



「彼女はこの国で目立つし、悪評がかえって足手まといになりかねない。侯爵家として助けられることはヘンリーに任せるから、イリスの望む剣の手ほどきをしてやってほしいとね。……信頼できる人間じゃないと、イリスのそばには近付けたくないって」


 そうだったのか。

 カロリーナの優しさに、胸の奥が温かくなる。

 なんて良い友達に恵まれたのだろう。



「……あれ、でも今、運命の人とか何とか」

「ああ、俺とカロリーナは恋人同士だ。近々婚約する」

「ええ!」

「はあ?」


 イリスだけでなく、ヘンリーまでも驚きの声をあげる。

 どうやら、ヘンリーも姉と王子の恋までは知らなかったらしい。



「じゃ、じゃあ、やっぱりこれは返すわ!」

 イリスは慌てて『碧眼の首飾り』を外すと、シーロに手渡す。

 シーロの攻略の証なのだから、恋人のカロリーナが持つべきだろう。

 いや、実際は攻略も何もないのだが、少なくとも大切なものをイリスが持ってはいけないと思う。


 すると、シーロは苦笑してイリスの首に『碧眼の首飾り』をつける。

「いいよ。あげるよ」

「でも」

「カロリーナは魔力の波長が合わなくてつけられないしね。それに、未来の妹に使ってもらえれば、カロリーナも喜ぶよ」


「未来の妹?」

「シーロ殿下」

 ヘンリーが何かを止めるように、声をあげる。


 隠し妹キャラが、存在するということだろうか。

 この場合、誰の妹なのだろう。

 やはりシーロか。

 というか、今から妹キャラが出てきてもどうしようもないと思うのだが。

 イリスは首を傾げる。



「あれ、まだ何も言っていないの? あんな、自分の瞳の色の石をはめた指輪を贈っておいて?」

「シーロ殿下!」

 シーロは呆れたと言わんばかりに首を振った。


 指輪というのは、ヘンリーがくれた指輪のことだろうか。

 確かに、指輪にはヘンリーの瞳と同じ紫色の石がついている。

 だが、『言っていない』というのは何だろう。

 やはり、代金の請求をされるのだろうか。


 魔法使用時の効果からして、高価であることは間違いない。

 貧乏というわけではないが、侯爵家と比べればアラーナ家は財政面で劣るだろう。

 果たして、払える額なのだろうか。


「……ヘンリー、せめて分割払いでお願い」

「何の話だ」

 訝しがるヘンリーと真剣なイリスを見て、シーロが苦笑する。



「ここの後始末は俺に任せて。イリスはヘンリーと中庭に行って、花でも見てきなさい」

「でも」


 周囲の人間は逃げたが、舞踏会の参加者すべてが会場を出たわけではないだろう。

 もう危険がないことを伝えなければ、無用な恐怖を与え続けてしまう。

 シナリオ通りだとしても騒ぎは起きただろうが、舞踏会を駄目にしてしまったのも申し訳ない。

 それに、クララが連れてきた男達の足元は未だ氷漬けで、寒そうだ。

 非常時だったとはいえイリスが原因なのだから、氷を取り除く手伝いくらいはするべきだと思うのだが。


「いいから行きなさい。これは王子としての命令だよ、イリス」

「……はい」

 命令という強い言葉を使う割に、シーロはウインクまでして、機嫌が良さそうだ。



「行くぞ、イリス」

 よくわからないが、行けと言われたのだから、行くしかない。


 イリスはヘンリーに手を引かれ、舞踏会の会場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

-


「残念令嬢」

「残念令嬢 ~悪役令嬢に転生したので、残念な方向で応戦します~」

コミカライズ配信サイト・アプリ
ゼロサムオンライン「残念令嬢」
西根羽南のHP「残念令嬢」紹介ページ

-

「残念令嬢」書籍①巻公式ページ

「残念令嬢」書籍①巻

-

「残念令嬢」書籍②巻公式ページ

「残念令嬢」書籍②巻

-

Amazon「残念令嬢」コミックス①巻

「残念令嬢」コミックス①巻

-

Amazon「残念令嬢」コミックス②巻

「残念令嬢」コミックス②巻

一迅社 西根羽南 深山キリ 青井よる

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[一言] カロリーナに4作目の知識を持たせなかったのは 最後に美味しい所をもっていく性悪女にしないためだったんですね なるほど、と思いました
2021/12/04 19:04 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ