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ヒロインに謝罪されました

 結婚式に参列したのは、ごくわずかな人数だった。

 モレノとオルティスの両家と国王しかいない。

 カロリーナは友人は呼べないと言っていたが、それにしても思った以上に小規模な集まりだ。


 荘厳な衣装を身にまとった老人が、さっき言っていた大司教なのだろう。

 大司教が差し出して机に置いた聖典に、カロリーナとシーロが握った短剣を突き刺す。

 随分と物騒だが、夫婦初めての共同作業のウェディングケーキ入刀みたいなものだろうか。


 短剣の切っ先が少しだけ刺さり、刃が淡く光ったような気がした。

 短剣を抜くと聖典と共に下げられ、大司教が祝福の言葉をかけている。

 毒の祭りの地面に短剣を刺すのと似ているが、結局何だったのだろう。


 結婚式に出るのは初めてなので基準がわからないが、聖典に剣を刺すなんて話は聞いたことがない。

 ということは、これは公爵家などの上位の貴族のしきたりなのかもしれない。

 イリスもヘンリーと結婚するのなら、同じことをするのだろうか。

 ヘンリーなら一人で聖典を真っ二つにできそうだが、さすがにおめでたい場では自重するだろう。


 それにしても、何とも変な誓いである。




 あっさりと終了した結婚式の後は、すぐにモレノ邸に移動をした。

 結婚披露パーティーなのだが、こちらが本番とばかりに華やかな様子に、イリスの心も浮き立つ。

 後日、オルティス公爵家でも結婚披露パーティーを開くらしいから、カロリーナはしばらく忙しそうだ。

 ベアトリスとダニエラの姿を見つけたイリスは、嬉しくて駆け寄って行った。


「イリス! 今日も可愛いわね。珍しくストールなんて巻いてどうしたの?」

「あ、ええと。ちょっと寒くて」

 ダニエラの指摘に正直に答えるわけにもいかず、何とか当たり障りなく答えた。

 すると、ベアトリスがストールをじっと見ている。


「この模様は、カロリーナがベールに施すと言っていたものですね。カロリーナに貰ったのですか?」

「違うの。ヘンリーが借りてきちゃって」

「やだ。ヘンリー君たら、イリスのために花嫁のストールもぎ取ったの?」

 身も蓋もない言い方だが正しいし、何だか恥ずかしい。

 そんなイリスの頭を、ベアトリスは優しく撫でる。


「カロリーナはイリスに貸すのならいい、と言うはずです。大丈夫ですよ」

「そうそう。嫌ならヘンリー君を張り倒してでも止めるだろうから、心配ないわよ」

「う、うん」


「あら、可愛い髪飾りね。花束みたい。……まさか、これも花嫁のものをもぎとってきたとか?」

 ダニエラの中のヘンリーは、どれだけカロリーナの物を持ってくる男なのだ。

 さすがに風評被害が酷いので、ちゃんと訂正した方がいいだろう。


「ち、違うわ。これは、ヘンリーがくれたものだから」

「これ、小さいけれど全部宝石でしょう? 作りも精密だし。さすがヘンリー君、イリスへの愛が溢れているわ」

 ダニエラは髪飾りを指でつつくと、にやりと微笑んだ。


「そ、そんな」

 ヘンリーの風評被害をどうにかしようとしたら、何だか妙なことになってしまった。

 だが違うと全否定するのも変だし、認めるのは恥ずかしい。

 どうするべきか悩んでいると、背後から聞いたことのある声が届いた。



「――イリス!」

 振り向いてみると、ベアトリスが珍しく嫌そうな表情を露にしている。

 やって来たのは黒髪の美青年と金髪の美少女だ。


 エミリオはベアトリスの兄だし、公爵家の次期当主だし、カロリーナとも知り合いだからわかるとして。

 何故、ここにリリアナがいるのだろう。

 リリアナはエミリオと腕を組んでいる……ように見えて、外されては、また腕を伸ばすを繰り返している。


 何だかよくわからないが、今日も金髪碧眼のヒロインは可愛らしい。



「久しぶりね、イリス・アラーナ。今日はあなたに謝ろうと思って。色々、ごめんなさいね」

「え? どうしたの?」

 何の話かわからず首を傾げていると、リリアナはエミリオの腕を引っ張りながら近付いて来た。

 エミリオは放してくれと言ってはいるものの、リリアナに華麗に無視されている。


「ほら。エミリオ様を紹介してくれた恩があるし。それから、私、セシリアに会ってきたの。エミリオ様の口利きで面会を取り付けてもらえて」

 リリアナはそう言って笑顔を浮かべるが、エミリオは何だか苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。

 ベアトリスが小声で「厄介払いのつもりだったようです」と呟いているのが聞こえる。

 だが、リリアナにはまるで効いていないようで、少しばかり滑稽だ。


「でも、話をしてみたら、何だかおかしくて。あの子、レイナルド様と私と三人で暮らしたかったって言うの。意味がわからないでしょう?」

 それは確かに意味がわからないが、そう言えばセシリアはそんなことを言っていたような気がする。


「仮に私がレイナルド様と結婚していたら、妻は私で、セシリアは親戚になるだけ。でも、どうやらあの子は同居するつもりだったらしいの」

「……そんなにレイナルドのことが好きだったの?」

 聞いてみてから気付いたが、セシリアがレイナルドを好きなのだとしたら、リリアナとレイナルドを結婚させる意味がわからない。



「それが、違うみたいなの。あの子が好きなのは、あくまでも私。私と一緒にいたいから、セシリアごと私を愛してくれる人と幸せになってほしかったんですって」

「……レイナルドは、二人請け負うつもりだったの? 凄いわね」

 見た目で言えば破格の美少女二人だから、男性からすれば夢のようだろう。

 だが、現実に双子の姉妹を嫁にするのは難しいし、人としてもどうかと思う。


「まさか。そんなこと考えたこともなかったから、聞いたこともないけど。違うと思うわ。大体、私とセシリアは別の人間なんだから、結婚してまで一緒に住むわけないじゃない。……でも、そこをあのクララとかいう侯爵令嬢に見抜かれて、レイナルド様なら大丈夫と洗脳されたらしいの」


 レイナルドはリリアナに振られただけではなくて、セシリアごと娶る羽目になりかねなかったのか。

 酷いとばっちりだ。


 どうもレイナルドは『碧眼の乙女』の世界で女性運……というか、運がよろしくない。

 顔も良くて優秀なメイン攻略対象だというのに、不憫だ。

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