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「あなた一人で何ができるの? 多少の魔法は使えるらしいけれど、毎度すぐに捕まって足手まといだったみたいね」

 クララは愛らしい声でイリスを嘲笑った。

 それを知っているということは、今までの襲撃もクララの仕業か。


 ちらりと床に転がるヘンリーを見ると、小さく首を振っている。

 やめろ、ということだろうか。

 確かにイリスは、残念以外は大した役に立たない。


 でも、時間くらい稼げる。

 モレノの親族が敷地内にいるのだから、きっと気付いてくれる。

 これ以上、誰も傷つけさせるものか。



 イリスは集中すると、まずは天井近くのステンドグラスと空気の間を凍結し続ける。

 教会の中ではなく、外のガラス面と空気の隙間だ。


 直接は見えないけれど、イメージをすればきっとできる。

 いびつなほどせり出したであろう氷の重みで、ステンドグラスは歪み、割れ落ちた。

 地面に落ちたらしい音が、教会の中にも響く。


「あら。下手くそね。外に落ちたら私には届かないわよ?」


 クララの嘲笑を気にする暇はない。

 彼女の意識が逸れた瞬間に、既に足元は凍結させている。

 全員を完全に足止めすることは難しいので、逃亡防止のためにクララとマルセロを重点的に凍らせた。


 一応多少は凍結したとはいえ、剣を持った男達は少し頑張れば足を動かせる。

 早々に凍結を外した三人が向かって来たところを、睫毛に氷の粒を出現させて一瞬足止め。

 止まったところで、地面と空気の隙間を凍結させて氷の柱を生む。


 床から天井に向けて高速で氷柱を出したことで、男達の顎を思い切り殴り上げる形になった。

 若干体が浮くほどの威力でのけぞったところに、頭上から空中に出現させた氷柱を落とす。

 三人はあっという間に床に倒れ、剣が転がった。


「……できた」

 空中に氷を、出せた。

 今なら、もっとできる気がする。


 既にイリスが吐く息は白い。

 だが、気分は妙に高揚していた。


「女一人に、何をしているんだ!」

 マルセロが怒りの声を上げた瞬間、イリスの背後の扉が開いて陽光が差し込んだ。



「――これはこれは。お楽しみのところ、邪魔したかな?」


 軽い口調と共に、帽子を目深にかぶった男性が入って来た。

 腰には剣を佩いており、手にも剣を持っている。

 事態が理解できず全員が固まっていると、男性の口角が上がるのが見えた。


「いつまで転がっているつもりだ。おまえの『鞘』が頑張っているぞ」


 そう言うなり、手にしていた剣を放り投げる。

 すると、いつの間にか拘束を解いていたヘンリーが、手を伸ばしてそれを受け取った。

 ヘンリーは猿轡(さるぐつわ)を外すと、血の混じった痰を吐き、剣を抜く。


「――な、何をしている! さっさと倒せ!」

 マルセロの声で残り七人の男が動き出したが、ヘンリーと帽子の男性にあっという間に倒された。

 ヘンリーは相変わらずおかしな動きだが、男性もかなり強い。


「くそ、このっ!」

 マルセロとクララは劣勢を悟って逃げようとしているらしいが、イリスが靴と地面を凍結させているので動くことができない。


「へえ。これは便利だな」

 靴の凍結を理解したらしい男性は、楽し気に笑う。

「――おまえは誰だ、邪魔しやがって!」

 マルセロの叫びを聞いた男性は、肩を竦めると自らの帽子に手を伸ばした。


「……おや。仕えるべき主君を忘れたのか?」

 茶色の髪に緑の瞳に、整った容姿。

 何より、他者を圧倒するその気配。

 そこにいたのは、フィデル・ナリス国王その人だった。



「クララ・アコスタ。君には僻地の修道院で一生を終えるよう命じたのだが。これはどういうことかな、マルセロ・アコスタ」

「それは、冤罪で……」


 まさか国王が現れるとは思わなかったのだろう。

 マルセロは明らかに動揺して、目が泳いでいる。

 ヒロイン補正も、さすがに国王と侯爵令息という関係までは凌駕できないらしい。


「既に取り調べは終え、十分な証拠も提出されている。それでも冤罪だというのか?」

「私は、妹の恋路が不当に阻まれたので」

「……恋路、ね。シーロ、おまえクララ・アコスタと何か関係が?」

 フィデルに尋ねられたシーロは、大袈裟に肩を竦めた。


「何ひとつ、ないよ。初対面の舞踏会で突然、運命の人とか言い出したけれど、気味が悪いだけだね」

 普段は優しいシーロの厳しい言葉に、イリスも少し驚く。


「そんな、シーロ様」

 縋るように名前を呼ぶクララに、冷たい視線が返される。

「……気安く呼ばないでくれる? 俺、これでも一応、王弟で公爵なんだ。君が気軽に話しかけていい相手じゃないんだよ?」

 突き放すどころか迷惑そうに言われ、クララが目に見えて焦り始めた。


「だって、シーロ様は私と結ばれるはずなの。私はヒロインなのに、おかしい! おかしいのはそっちよ!」

 クララは足が動かないのを見ると、イリスを睨みつけた。


「――結局あなたよ、イリス・アラーナ! それまでは上手くいっていたのに、あなたがすべてを壊した。許さない!」

「……じゃあ、私が大人しく死ねばいいってこと?」


「そうよ! あなたなんて、どのルートでも死ぬんだから。誰からも疎まれる存在なのよ!」

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