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ギャップ萌えは尊いです

 部屋に入って来たのはニコラスとオリビアの二人だった。

 カロリーナの晴れ姿をひとしきり褒めると、ニコラスは感慨深げに頷いている。


「同年代の親族の中では、カロリーナが一番先に結婚か」

「そういうニコラスはどうなのよ」

「俺? 俺はまだいいよ。それよりも先に、オリビアが続きそうだな」

 にやりと微笑むニコラスに、薄紫の瞳の少女が慌てる。


「そ、そんな。あの人とは、何もありません!」

「んー? 俺は相手が誰かなんて言っていないけれど。心当たりがあるのかな?」

「ニコラス兄様!」

「冗談だよ。……それで、次に結婚確定のヘンリーはどこかな? 今日のイリスは一段と可愛いのに、放って置くとは酷いな。攫われても知らないぞ」

 怒るオリビアを宥めながら、ニコラスは大袈裟な仕草できょろきょろと辺りを見回した。


「……それが。昨日の昼から戻っていないのよ」

「連絡は?」

「ないわ」

 カロリーナの説明に、ニコラスは腕を組んで何やら考えたかと思いきや、すぐに笑顔を浮かべた。


「まあ、ヘンリーだから。そんなに心配しなくていいさ。イリスもね」

 そう言ってイリスの頭を撫でると、ついでとばかりにカロリーナの頭も撫でる。

「ちょっと、髪型が崩れるじゃない」


「カロリーナも心配しなくて大丈夫。必要なら当主(コンラドさま)が動くよ。……それに継承者はね、丈夫だから。特にヘンリーなんてもう、それはそれはアレだから。だからそんな顔をしないで待っていなさい」

 ニコラスの言葉に、イリスとカロリーナは顔を見合わせると、苦笑した。


「うん。わかったわ」

 イリスが微笑んで返事をすると、再び頭を撫でられる。

「イリスがいれば、ヘンリーは大丈夫。だから、そうして笑ってあげて」



「やあ、こんにちは。皆お揃いだね」

 扉を開けて入って来たのは、シーロだった。

 白を基調とした正装をまとう様は、まさに王子様。

 整った顔立ちと赤い髪が良く引き立って、とても似合っていた。


「シーロ様、格好良いです」

 素直な感想を述べると、シーロは困ったように眉を下げた。


「イリスに褒められるのは嬉しいけれど。ヘンリーに見つかったら、怖いな。……そう言えば、ヘンリーは?」

「昨日の昼から、戻っていないみたいですよ」

 ニコラスが説明すると、シーロの眉間に皺が寄っていく。


「なるほど。とりあえず俺は報告してくるよ。ちょっと待っていて」

 そういうなり、あっという間に部屋を出て行ってしまった。

 報告と言っていたが、誰に報告するのだろう。



「何にしても、支度をしないと」


 カロリーナの一言で侍女達は慌ただしく動き出す。

 ニコラスとオリビアは部屋を出たが、イリスは何となく残って椅子に座っている。

 カロリーナは化粧やドレスの支度は既に済んでいるので、今はベールの調整中だ。

 繊細な刺繍が最も映える角度を計算して固定していくのを、ぼうっと見つめる。


 ヘンリーが帰ってこないことを、皆あまり心配してはいない。

 それは、モレノの人間としてヘンリーの力量なり過去の実績なりを見て判断しているのだろう。

 イリスの何倍もヘンリーを知っている人々がそう言うのだから、きっと間違いない。

 そうは思うのだが、やはりどうしても気になってしまう。


「イリス。きっと大丈夫よ」

 支度中のカロリーナを見ると、こちらに笑顔を向けていた。

 これではいけない。

 心配しているのはイリスだけではないし、その心配も見当違いかもしれないのだ。

 イリスの態度で周囲に心配をかける方が、迷惑だろう。


「うん、ありがとう。もっと前向きに考えるわ」

「そうね」


「事件に巻き込まれても、ヘンリーなら無事よね」

「そうね」


「野宿だって、火を起こして快適ライフよね」

「そうね」


「いっそどこかの女性の所に行っているとしたら、それはそれで無事なんだから問題ないわね」

「……いえ、それは大問題だけど。絶対にありえないから大丈夫よ」


 カロリーナと話をしていることで、どんどん前向きになってきたイリスは椅子から立ち上がるとぴょんぴょんと飛び跳ねた。


「何をしているの、イリス?」

「前向きにしてみたわ」

「……どちらかと言えばそれは上向きね。まあ、ふさぎ込むよりいいわ」

「うん。頑張る」

 ぴょんぴょんと飛び跳ねるイリスの横の扉が開くと、ビクトルとシーロがやって来た。



「カロリーナ、支度はできたみたいだね。綺麗だよ」

「ありがとう、シーロ様」

 頬を染めるカロリーナは、乙女そのもので可愛らしい。

 いつもお姉さん然としているカロリーナのその表情に、イリスは衝撃を受けた。


「――これが、ギャップ萌え。なるほど、尊いわ」

 普段のカロリーナの凛とした姿があればこそ、頬を染めただけでもときめくことができるのだ。

 イリスの場合は普段から残念なわけで、そこで普通にしても結局普通でしかない。

 ギャップすら起こらないとは、まったくもって残念である。


「何だい、それは?」

「シーロ様は、お目が高いという話です」


「ビクトル、ヘンリーは帰ってきた?」

「いえ、カロリーナ様。まだ連絡もありません」

「そう」

 カロリーナが息をつくと、再び扉が開く。

 皆一斉に視線を向けると、そこには教会の関係者と思しき服装の男性が立っていた。



「シーロ様とカロリーナ様、それからイリス様はお揃いですか? こちらに来ていただきたいのですが」

「え? 私も?」

 思わず自分を指差してしまうが、男性は静かにうなずいた。

 花嫁と花婿ならばわかるが、何故イリスも呼ばれるのだろう。


「……式が始まるまではまだ少しあるし、打ち合わせかしら」

「そう言えば、大司教様が遅れるとか言っていたような」

「大司教様も御高齢だものね」

 カロリーナとシーロに続いてイリスも扉を出ようとすると、ビクトルが隣についてきた。


「どうしたの? ビクトル」

「……少し、気になったもので。同行させていただきます」

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