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恋に、堕ちました?

「おはよう、イリス。さあ、行くわよ」

 その日、朝一番にやって来たカロリーナは、そう言ってイリスを馬車に押し込んだ。


「何? どこに行くの?」

 カロリーナが一緒なのだから、どこであろうとも問題はない。

 だが、妙に張り切っているのが、何だか気にかかった。


「バルレート公爵家よ」

「ベアトリスに会うってこと?」

「ええ。四人全員集合よ」


 という事は、ダニエラも来るのか。

 ベアトリスは公爵令嬢な上に雨の日から三日間は外出できないし、カロリーナは婚儀を控えて多忙だし、ダニエラも修道院やら教会に通っていることが多い。

 何だかんだで皆忙しく、四人で集まるのも久しぶりだ。

 思わぬ朗報に、イリスはわくわくしてきた。


「他ならぬイリスのためだからね」

 これは、皆で集まれなくて寂しいイリスのために召集をかけてくれた、ということだろう。

「ありがとう、カロリーナ」

「いいのよ。私も結婚したらモレノの屋敷を出るし。いくら何でも回復が遅いから、多少の荒療治も辞さないわ」

「……うん?」


 何やら不穏な気配がするのは気のせいか。

 だが、ちらりとカロリーナを窺えば、優しい笑みを返される。

 これはきっと、気のせいだ。

 イリスは自分にそう言い聞かせて胸元のネックレスを握りしめると、窓の外の景色を楽しむことにした。




「久しぶりだね、イリス。相変わらず可愛いな」

 馬車を降りるなり、黒髪の美青年が笑顔で出迎えてくれる。

 ベアトリスの兄、エミリオ・バルレートだ。

 三人がバルレート公爵家を訪問することなど、次期当主のエミリオには筒抜けなのだろう。


「お久しぶりです、エミリオ様」

 礼をするイリスを隠すように前に出たカロリーナは、そのままエミリオに微笑んだ。

「こんにちは、エミリオ様。まさかお出迎え頂けるとは思いませんでした」

「久しぶりだね、カロリーナ。せっかくだから一緒にお茶でもどうかな」


「いえ。今日は女性同士のお茶会ですから」

「だったら、今度俺ともお茶を飲んでほしいな」

「いえ。私もイリスも婚約者のいる身ですので」


 にこにこと笑顔で言葉を交わしているのに、目が笑っていないのは何なのだろう。

 よくわからないが、せっかくの四人での集まりなのだから、時間を取られるのは嫌だ。

 それに、エミリオには聞きたいこともあった。


 カロリーナの後ろからひょっこりと顔を出すと、エミリオとすぐに目が合う。

 さすがに顔を見ると不意打ちでキスされたことを思い出して少し嫌だったが、美しい微笑みを向けるエミリオに質問するべく、イリスは口を開いた。


「あの、エミリオ様」

「何だい、イリス」

「リリアナさんとは、上手くいっていますか?」

 エミリオは美しい笑みのまま、暫し硬直した。


「……上手くも何も、俺が好きなのはイリス……」

「恋に、堕ちました?」

 エミリオの答えを待たずに更に質問すると、今度こそエミリオは固まった。



「……彼女なら、妹に会いに行くとか言っていたよ。俺には関係ないけれど」

 関係ないという割には、リリアナの行動をよく知っている。

 リリアナの妹ということは、セシリアか。

 彼女は遠方の修道院に入れられたと聞いたから、移動を考えても暫くはエミリオとリリアナは会えないのだろう。


「それじゃあ、寂しいですね」

 リリアナはガンガンに押しまくる肉食女子っぽかったので、突然それから解放されたら物足りなくなりそうだ。

 これも一つのギャップと言えるのか。


 押し切ったら引いてみる戦法か。

 なるほど、さすがはヒロインである。

 残念なイリスと違って、女子力は溢れんばかりの模様だ。


「さ、寂しいなんてことは」

「リリアナさんは好条件に弱いので、しっかりと捕まえておいた方がいいですよ。何せ、美少女ですから」

「いや、俺は別に」


 公爵令息のエミリオ以上となるとそうそういないとはいえ、該当者はゼロではない。

 リリアナ自身が心変わりしないとしても、あれだけの美少女なのだから引く手あまただろう。

「頑張ってくださいね。私、応援します」

 笑顔で激励すると、エミリオは何やら額を押さえてうつむいている。


「では、エミリオ様。失礼致します」

 具合が悪いのかと近寄ろうとするイリスの腕を掴んだカロリーナは、エミリオに声をかけるとそのまま屋敷の奥へと歩を進めた。




「やはりお兄様は気付いていたのですね。カロリーナ、手間をかけました」

「いいのよ。想定内だから」

 ベアトリスの部屋に到着すると、既にダニエラの姿もあった。

 再会を喜んでいる二人の後ろで、年長者二人が何かを労っているのが聞こえる。

 それに気付いたダニエラが、椅子に座りながら肩を竦める。


「何? またエミリオ様? 昔から、本当にイリスが好きよねえ。可愛いから、わからないでもないけどさ」

「記憶を取り戻してからは拍車がかかって困っていましたが、イリスに迷惑が掛からなければそれでいいです」

「イリスがリリアナをけしかけたんでしょう? いい判断だわ。ヒロイン補正でメロメロにされればいいのよ。……ベアトリスは、アレかもしれないけれど」


 リリアナとエミリオが仮に上手くいくと、将来的にはリリアナはベアトリスの義理の姉という事になる。

 直接の接触はなかったとはいえ、悪役令嬢としてはヒロインと義理の姉妹というのも何だか不思議な気持ちになるかもしれない。


「私もいずれはどこかに嫁ぎますし、ヒロインは優秀とわかっていますから家としても問題ありませんよ。寧ろ、お兄様を骨抜きにした上で、手酷く捨ててくれないかと期待しています」

 ベアトリスは優雅に微笑みながら、何だか恐ろしいことを口にした。

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― 新着の感想 ―
[一言] イリス、エミリオへの無自覚攻撃はうまいのになぁ
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