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転生者と千里眼の聖女

「久しぶりね。レイナルドとの婚約は何とか避けているみたいね。頑張っているじゃない」

 修道服のダニエラは小部屋の扉を開けると、にこりと笑った。



「ねえ、ダニエラ。ヒロインのリリアナに、双子の姉妹がいるのは知っている?」


 イリスは四作目をプレイしていたが、ヒロインの家族構成までは覚えていない。

 四作すべてをプレイしたダニエラなら、覚えているかもしれないと思って確認に来たのだ。


「えー? 双子かどうかまでは覚えていないけど、妹はいたはずよ」

「セシリアって言うんだけど、もしかしたら、転生者かもしれない」

 イリスの言葉に、ダニエラの表情が険しくなる。

「ヒロインの妹が、転生者だとしたら。……厄介ね。ヒロインの味方ってことでしょう?」

「多分」




 イリスはセシリアとの会話を説明する。

 じっと聞いていたダニエラは、口元に手を当てて何やら思案し始めた。

「……もしかすると、そのセシリアが千里眼の聖女と呼ばれる女かもしれない」


「千里眼の聖女?」

 確か、いつかの夜会で聞いたことのある名前だ。

「最近、よく聞く名前でね。なんでも先のことを見通して、教えてくれるとか何とか。眉唾ものの噂だと思ってたんだけど」


「修道院にまで、噂が届いてるの?」

「修道院だからこそ、よ。聖女なんて呼ばれているから、王都で一番大きいこの修道院に尋ねてくる人が大勢いるの。勿論、ここにそんな胡散臭い人間はいないわ」


「先を見通すって、『碧眼の乙女』の知識があるからってことかしら」

「きっとね」

 ヒロインの恋模様に付随して、王子の婚約破棄などの情報を知っているのだから、使いようによっては有用なのかもしれない。



「セシリアが転生者で千里眼の聖女だというなら、過去の『碧眼の乙女』にも介入しているかもしれないわ」

「そう考えた方が良さそうね」


 一作目は、ヒロインのクララが未だにメインと婚約していないが、概ねシナリオ通りだ。

 だが、二作目は明らかにおかしい。

 隣国にいるカロリーナが嫌がらせをしたという証拠を、用意する人間が必要だ。

 三作目だって、学園中の人間がセレナを応援するダニエラを見ていたはずなのに、不自然だ。


 ずっと『碧眼の乙女』の強制力が働いているのだと思っていたが、他にも転生者がいるのなら、その人物の介入があったのかもしれない。



「一作目、私達が様子を見ながら手探りで対応したように、あちらも手探りの状態だった? それなら、シナリオを進める側と回避するベアトリスが拮抗して、クララの婚約が遅延するだけという微妙な結果になったのも理解できるわ」

 イリスの推測に、ダニエラもうなずく。

「だとすると、メインの王子とすぐに婚約できなかったクララの不満を利用して、操っている可能性だってあるわよ。クララは侯爵とか伯爵くらいの、結構上の貴族の養子になったはずだから、利用価値はあるわ」


「でも……何故?」

 セシリアが転生者なら、リリアナが登場する四作目だけ介入すればいいではないか。

 過去の三作に関わる理由が見当たらない。

 知識を使ってみたいという、ただの好奇心だろうか。



「――もしかして、隠しキャラを狙っているのかも」


「隠しキャラ? そんなの、いたかしら?」

 四作目をプレイしているのに、イリスには全く心当たりがない。

「イリス、あなたレイナルドルート、何周した?」

「何周って。……最初に一回だけ」

 ダニエラはため息をついた。

「それじゃあ、好感度が最高値までいくのは難しいから、知らなくても仕方ないわ」



 隠しキャラは、この国の王子。

 出現させるためには、レイナルドとリリアナの好感度を最高値にして春の舞踏会を迎える必要がある。

 そこでイリス断罪イベントをこなした後に出てくる、何気ない選択肢の一つが隠しキャラ出現の唯一の方法。

 そこから卒業までのわずかな期間だけ攻略可能な、レアキャラなのだという。



「……だったら、やっぱり四作目だけ関わればいいんじゃない? 好感度を上げるのが大事なんでしょう?」

「うーん。何か他の『碧眼の乙女』にも関わりがあったような気がするんだけど。……思い出せないから、ベアトリスとカロリーナにも連絡してみるわ。イリスは、とりあえずセシリアに気を付けて」

「……わかったわ。ありがとう、ダニエラ」

 どちらにしても、セシリアを転生者とみなして対応した方が良さそうだ。




 カロリーナに連絡が入ったせいか、ヘンリーが以前にも増してイリスと行動するようになった。

 そして、リリアナは露骨にヘンリーに寄ってくるようになった。


 ただ、レイナルドはあれ以来、関わってこない。

 一度、ヘンリーと一緒にいる時にばったり出くわしたのだが、何だか顔色を変えて怯えて逃げて行った。

 何なんだろう。

 もしかすると、イリスの残念さに、今更恐れをなしたのかもしれない。

 残念というのは、偉大である。




「セシリアも、クララを使って裏工作していないで、リリアナとレイナルドをくっつけた方が早いのに」


 ダリアの淹れてくれた紅茶を飲みながら、クッキーをつまむ。

 バター多めで焼いてもらったのだが、バターが多すぎて焼くというより揚げるに近い調理法になったらしい。

「バターの海で溺れるクッキーを見たのは、初めてでございます」とダリアは空を見上げていた。

 これがささやかでも肉となれば良いのだが、いまいち効果がない。


 やはり、令嬢ボディに対して運動量が多すぎるのかもしれない。

 かといって、鍛錬しても一般人以下の体力なのだから、運動しないわけにもいかない。

 イリスはため息をついた。


「でも、それだけだと断罪イベントがないから、駄目なのかしら」

 ダニエラは、イベント後の選択肢と言っていた。



「……つまり、私が牢に入って死ななければ困るということ?」



 それに気付いたイリスは、背筋が寒くなるのを感じた。

 今まで、シナリオ通りの謎の死を避けようとしていたが、そもそも何故『謎』なのか。

 製作者が背景を考えるのが面倒で、適当に謎ということにしたのなら、まだ良い。

 だが、もし、イリスが死んだ理由が公にできないからだとしたら。


「クララは、侯爵や伯爵くらいの結構上の貴族の養子になってるって言ってたし、いずれ王子の妃になる人なのよね。だったら、私に何かしても、揉み消せるということ?」

 だから、セシリアはクララに接触したのだろうか。

 イリスを牢で殺す手段として、クララを利用するために。



 クララに会ったことはないが、『碧眼の乙女』のヒロインなのだから金髪碧眼の美少女なのは間違いない。

 そんな目立つ人物はリリアナくらいしか見たことがないのだから、今のところはイリスの前に現れていない。

 しかし、本来は牢で沙汰を待つ間に謎の死を迎えるイリスだが、現在レイナルドとの婚約もなく、シナリオとはズレが生じている。


 もしかすると、いつ襲われたとしてもおかしくないのかもしれない。


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