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肩こり解消に役立ったようです

 控室として提供されている屋敷に戻ると、継承者四人が驚愕の表情でイリスを見つめてくる。

 大きな失敗をしたつもりはなかったが、何か問題があったのだろうか。

 はめ込まれた石の色が変わったのと、刃が割れたのは気になったが、あれがイリスのせいだとしたら破壊行為を怒っているのかもしれない。

 固唾を飲んで様子を見ていると、ロベルトが大きなため息をついた。


「……正式な『毒の鞘』じゃないのに、()()か」


 何やら満足気にそう言うと、ソファーに腰かける。

 それが合図だったかのように、皆思い思いに座って休む。

 イリスも促されてヘンリーの隣に座るが、何とも落ち着かない。


「……何のことなの? 刃が割れたの、やっぱり駄目だった? でも別に乱暴に刺したわけじゃないのよ」

 ヘンリーに尋ねてみるが、何だか困った様子だ。

「それはわかっているし、剣のことは気にしなくて良い。詳しくは言えないが、あの短剣を刺すことで……」

「肩こりがとれるんでしょう?」


「それは、『毒の鞘』のドロレス・モレノが『解放者』だと、そうなる」

「……人によって違うの?」

 ヘンリーはうなずくが、それでは肩こり解消の祭りとは限らないということだろうか。

 その年によって、腰痛解消祭りや眼精疲労解消祭りになるということか。

 やはり、あの地面は相当なパワースポットのようだ。

 ご利益はランダムらしいが。


「今まで俺が参加した祭りでは、他にカロリーナやモレノの人間、嫁いできた魔力持ちの女性のこともあった。……でも、大抵は気分が晴れたくらいだし、『毒の鞘』の肩こりがとれるくらいというのが一番効果があった」


 どうやらモレノは相当頑固な肩こり一族のようだ。

『解放者』とはつまり、肩こりからの解放か。

 肩こり解消のための祭りまである時点でおかしいが、恐ろしいこりなのだろう。

 それなのに、年によっては腰痛解消になってしまうなんて、切ない話だ。


「じゃあ、今日は私が『解放者』だったから、肩こりはとれなくて残念だったわね」

「――そんなことない! こんなに体が軽くなったことはなかった。一気に肺に空気が流れ込んだ感覚で、冷水を浴びたかのように目が冴えた」


 大袈裟だと思うが、継承者達が皆一様にうなずいている。

 とりあえず、肩こりは解消されたということで良いらしい。

 あの短剣のおかげなのか、パワースポットのおかげなのか。

 まったく理屈はわからないが、凄いものだ。



「……それで、イリスは大丈夫なのか?」

 ヘンリーが気遣わしげに尋ねてくる。

「別に、肩はこっていないわ」

「そういうことじゃない」

 何だか怒られた気がするが、理由がわからない。


「詳しく言えないのがもどかしいが。要は、あの短剣を通じてイリスの魔力で……か、肩こりを解消したんだ。『解放者』は皆、儀式の後に多かれ少なかれ体調不良になることが多い。ましてイリスは体力がないから……」

 なるほど。

 どうやら、体調を心配されていたらしい。

 だが、別に何ともないので、あまり心配されても困ってしまう。


「何ともないわよ?」

「本当か? 無理していないか?」

「うん」

 何か疑うようなヘンリーを見て、ドロレスが苦笑している。



「イリス、お疲れ様だったね。ヘンリーも聞いているが、体は何ともないかい?」

「はい、ドロレス様。元気です」

「やはり、そうか」

 何やら得心がいった様子のドロレスは、イリスの瞳をじっと見つめる。


「オリビアの『毒』を解除した時の魔力を見て気付いたんだが、イリスは魔力量が多い。『解放者』として相応の魔力を放出しても余力があるんだろう。だから、こんなに元気だ」

「こんなに、って。そんなに具合が悪くなるものなんですか?」


「一番早かったのは、短剣を刺した瞬間に倒れた子がいる」

「ええ?」

 思わず声を出してしまい、慌てて口を手で覆う。

「それは極端だとしても、大抵数日から数週ほど寝込んだり不調だったりする。私を含め、何ともないなんて子は、初めて見た」


 そうか。

 だからヘンリーはずっと、イリスが『解放者』になるのに乗り気ではなかったのか。

 ただでさえ令嬢ボディの貧弱な体力なのだ。

 それこそ、すぐに倒れかねないと思っていたのだろう。

 だが、意外にもイリスは元気だ。

 体力が切ないほど少ない分、魔力は多いらしい。


「オリビアの『毒』を食らったことがあるのも、影響しているかもしれない。普通、『鞘』であっても『毒』を浴びるのは試験の時だけ。それも、手加減されたものだからね」

 オリビアが気まずそうに顔を伏せているが、ドロレスの様子からして責めているわけではなさそうだ。

 ただ、『毒』と『解放者』に何の関係があるのか、結局よくわからない。


「『解放者』は、基本的に『鞘』が務めるのが効率が良い。私の都合で毎年はできていないが、今でこれなら、正式に『鞘』になればかなり……か、肩こりがとれるね」

 どれだけモレノの人は肩がこっているのだろうと呆れるが、あれだけ大掛かりな肩こり解消祭りを開催するくらいなのだから、相当つらいのだろう。

 個人的な意見を言わせてもらえば、夜更かしと早起きをやめてゆっくり休めば良いと思う。


「……よくはわかりませんが、肩こり解消に役立ってよかったです」

 イリスが微笑むと、継承者達は揃って苦笑した

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