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釈明されつつ、攻撃されています

 ラウルに送ってもらい屋敷に着く頃には、もう夕方だった。

 思いの外、長居してしまった。



「お嬢様、お帰りなさいませ。ヘンリー様がいらしていますよ」

 ダリアはそう言って、イリスを応接室に案内する。


 昨日の今日での訪問なのだから、やはり目撃してしまった例の件についての話なのだろう。

 仕事だと釈明するのだろうか。

 それとも、実は好きな女性がいるとでも言われるのだろうか。

 何にしても、楽しい話ではなさそうだ。



「ヘンリー様は朝にも一度いらしたのですが、お嬢様は既にお出かけしていましたので」


 では、ヘンリーは今日二度もアラーナ邸を訪れているのか。

 忙しいのだろうに、釈明にしても告白にしても、わざわざご苦労なことだ。

 それとも、急いで婚約解消でもしたいのだろうか。


 時間が経ったせいか、仕事を見つけた安心からか、何だか心に余裕が生まれている。

 今なら何を言われても、ちゃんと返事をできる気がした。




「――イリス!」


 扉を開けた途端、ヘンリーがソファーから跳ねるように立ち上がる。

 そのままイリスに駆け寄ると、縋るように両手を握りしめてきた。


「昨日、見たよな?」

「ええ。ヘンリーと女性が親し気に腕を組んでお店に入ろうとしているところなら、見たわ」

「親しくなんてない!」

 珍しく声を荒げる姿に驚いて、イリスの肩が小さく震える。

 それを見たヘンリーは、ばつが悪そうに目を伏せた。


「……ごめん、大きな声を出して」

「わざわざ、それを言いに来たの?」

「あれは、仕事だから。何でもないから。だから、頼むから変な勘違いをしないでくれ」

 苦しそうな表情で懇願されては、こちらが悪い事をしているような気持ちになってくる。


「勘違いって?」

「本当はあっちが好きなんだろうとか、偽装婚約だろうとか、思わないでくれ」

「偽装婚約。……その発想はなかったわ。ごめんなさい。前向きに検討するわ」

「そこは謝らなくて良いし、前を向くな。……俺、浮気してないからな。するつもりなんて一切ないからな」


「そりゃあ、今後しますと言われても困るけど」

「今後もしない! 俺にはイリスだけだ。イリス以外、いらない」

 ……何だろう。

 釈明されているようで、微妙に攻撃されている気もする。



「大丈夫よ。私だって一応貴族の娘だから。そういうこともあるってことくらい、知っているわ」

「余計な知識はあるんだな! だから、ありえないって。俺が好きなのはイリスだけだ」

 少なくとも今、その言葉に嘘はないのだろう。

 ということは、感情ではなく実利でなら可能性はあるのかもしれない。


 例えば、アラーナ伯爵家よりもずっと高位の貴族や王族なら。

 好意はなくとも繋がりを持つ意味は大いにある。

 考え込むイリスを見て何かを察したらしく、ヘンリーの瞳に焦燥の色が見えた。


「身を引こうとかも駄目だからな。婚約解消なんて、しないからな。――絶対、しないからな!」


 イリスの手を握りしめながら、ヘンリーが必死の形相でまくしたてる。

 その姿を見ていたら、何だかこのやりとりが滑稽な気がしてきた。



「わかってるわよ」


 今回は仕事で、今のところは大丈夫で、今後は不明。

 ちゃんと、わかっている。

 微笑む姿を見たヘンリーは、大きなため息をつくとをイリスを抱きしめた。


「……良かった。あんなところを見られたから、絶対に間違った方向に勘違いの末、余計な行動力で暴走すると思って。気が気じゃなかったんだ」

 黙って聞いていれば、ヘンリーのイリスへの評価がだいぶ残念だ。


「昨日は遅くなったから、ここに寄るわけにもいかなかったし、朝来てもいなかったから。……心配で」

 愛おしむように優しくイリスの頭を撫でながら、ヘンリーが呟く。

「そう。遅くまで一緒だったのね」


「いや、違う。違わないけど。夜会に潜入調査だったから、遅くなっただけだ」

「うん。お仕事お疲れさま」

 微笑むイリスに何かを察したのか、ヘンリーがわずかに眉を顰める。



「そう言えば、リリアナさんは何故あの場所に来たのか、わかったの?」

『碧眼の乙女』のファンディスクとの戦いで本来通り魔が現れるべきところに、ヒロインであるリリアナが姿を見せた。

 それも、ガラの悪い男性を引き連れて。


 どう考えても、おかしな話だ。

 リリアナはイリスに文句を言っていたが、だからって男達を連れて襲い掛かってくるのはやり過ぎだ。

 それに、あの男達をどこから連れてきたのかもわからないし、そもそもあそこにイリス達がいると何故知っていたのだろう。


「リリアナの動機は本人が言っていた通りで、それ以上でも以下でもない」

 即答するということは、既にリリアナに聴取を終えているようだ。

 さすがはモレノ侯爵家次期当主。

 そのあたりの情報収集は、お手の物なのだろう。


「今はエミリオに攻撃中だからイリスはどうでも良いし、何ならエミリオを紹介してくれた恩義すら感じているらしい」

 ということは、あの後もリリアナは公爵夫人を目指して行動しているのか。


 彼女の凄いところは美貌や優秀さだけではなく、あのどこまでも目標に向かって努力する根性だと思う。

 さすがはヒロイン。

 並の女とは精神の強さが違う、と感心してしまう。



「ただ、男達を手配したのと、情報を流したのは……というか、リリアナを唆したのは、別にいる」

「唆した?」


「リリアナは、あれな思考の持ち主だが、少なくとも今までは家で大人しくしていた。それに、ただの子爵令嬢があんな男達を手配できるとは思えない。……イリスに悪意が向くよう仕向け、お膳立てした奴がいる」

 忌々しそうにそう言うヘンリーの表情は険しい。



「それを今、調べているんだ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 女の人とイチャイチャする仕事、ちょっと悲しいし噂のなってそう。 ヘンリーに浮気されている可哀想な婚約者って。 結婚したらそういう仕事は部下に回して欲しいですね。 斜め行っている主人公だか…
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