とある保育園の1ページ
これは、僕の務めている保育園での、とある一場面。
世間一般では、空がオレンジに染まると同時に漆黒の翼を持つ凶鳥が雄叫びを放ち、それに合わせて帰宅する旨を綴った歌が作られた時間帯。すなわち夕方。
お父さんお母さんのお迎えを待つ間の、イッツァ遊びタイムの真っ最中。僕は、少なくなった年中さんと年長さんを見ておりました。
子どもたちは室内であろうと、己で試行錯誤し様々な遊びを見つけ出します。
ブロックで遊ぶ子。
年下の子と遊ぶ子。
兄弟でシャトルランに挑戦する若きアスリート……おっと、申し訳ないけどそれは注意です。ぶつかったら危ないですからね。
そして……このお話に目を通してくれている、敬虔なる読者諸君にも覚えはないでしょうか?
【ごっこ遊び】という、ノーマネーノーアイテムで可能なオールドスタイルエチュード。それに興じている年長児さん達が、ふと視線に止まったのです。
かくいう僕も、今尚TRPGプレイヤーとして盛大なごっこ遊びを繰り広げている戦士の一人。熱が入る子どもたちの全力な姿勢に、ついつい耳を傾けてしまうのは当然と言えます。
ふふふ、どんなおままごとをしているのでしょうか? 微笑ましい光景です。
「……ダメよ! そんな……!」
「だが、奴に勝てるのは俺しかいない……!」
おっと、ほのぼのおままごとではなくて、熱血極まりないハートフルストーリーだったご様子。
一人で勝手に戦地へ赴く男性に、それを読んでいた女性がすがりつくかのような光景が僕の脳内に広がります。
もうすぐ一年生の子達。やってる演目も相当にハードなご様子です。
「でも、でも子供に罪はないわ!」
少女……ここは、A君とBちゃんにしましょうか。Bちゃんは叫びます。
どうやら、A君の相手はまだ成長過程のご様子。それでもA君程の戦士でなければ勝てないとは、いったいどんな敵なんでしょう?
と、そこへ新キャラ、C君が乱入。
C「大変だみんな! ブラックホールが地球を食べようとしている!」
A「きたか!」
まさかの子供ブラックホールとは、先生おったまげたね。
そしてこの物語がSFだったとは……へへ、まだまだ想像力が足りねぇや。
というかBちゃん、出来立てとはいえブラックホールを庇うなよ……!
A・C「「バンバン! バンバーン!」」
おぉ!? 撃ってる? 撃ってるの?
なんなの、対ブラックホール決戦武器だとかそんな感じなの? 有効打なのそれ?
そしてまたも乱入してくる新キャラ、Dちゃん。
D「A君、電話よ~」
A「そんなことよりブラックホールが先だ!」
間違いねぇわ。
今まさに地球の存続をかけた大一番って時に、何故ほのぼのアットホーム劇場を追加しようと思ったDちゃん!
そして今後Dちゃんは絡まない。何しに出てきたんだDちゃん!
B「ははは! 無駄無駄!!」
び、びびびびBちゃぁぁぁぁん!?
君敵だったの!?
B「地球が食べられたら、子供はみんな【おじいちゃん】になる!! えっへへへへ」
謎すぎる超理論に先生の頭はパンク寸前さ!
ここでこの物語を書かねばならないと思いメモを走らせ始めたが、改めて文字にして読んでみても訳がわからねぇ!
へへへ、良いぜ。この若さ溢れるリビドー、すげぇ良い刺激だぜ……!
さぁ! 先生にその物語の結末を見せておくれ!
先生「A君~、お迎えよ~」
A「は~い!」
ノォォォォォォォォォウ!?
ちょ、おま、えぇぇぇぇ!? ここでぇぇぇぇ!?
ブラックホールとの決着は? 黒幕Bちゃんの末路は!? 友軍C君との友情は!?
生殺しにも程だろう!?
A「せんせ~さようなら!」
僕「お、おう……さようなら」
その日、僕が君に発したさようならは、完全に魚の小骨が引っ掛かった感じのさようならだったね。ごめんよA君。
いやぁ、子供のアイデアってのは本当に素晴らしいものですね。先生になって良かったと、素直に思える瞬間です。
これからも、こんな子供たちの成長を助けられたら。そう思いますとも。
そして、A君、Bちゃん。
卒園おめでとう。1年生になっても頑張ってね!
ほんっとうに、子供たちの感性は無限大で、ここで執筆している身としては良い刺激です。
プライバシーとか、職場事情とか、そういうのは書いてないから大丈夫だと思うけど……もしかしたら消すかもしれませんね~。
その時にはごめんなさいね?